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WBC優勝・栗山英樹監督と古典
わたしは成人に達したときから、欠かさず読んでいるのが、月刊「文藝春秋」です。ブラジル在住時には、船便で3ヵ月遅れで届く同誌を待ち侘びていました。
奥地で開拓農民になったときは、何度も貪り読んで、最後にはボロボロになった、広告の一文字まで読み尽くすほど、活字に飢えていました。
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9月号の特集記事で、去る3月にWBCで優勝した、侍ジャパンを率いた栗山英樹監督の手記が掲載されています。
「WBC優勝の陰に古典あり」のタイトルに惹かれ、仕事も放りだして一気に読みました。
監督の大役を打診され、決断を促した言葉が、「尽己」だったそうです。幕末の陽明学者・山田方谷の言葉で、
ー何が起ころうとも目の前の物事に全てを尽くす。自分のできることをやり切るー
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ダルビッシュ投手が、韓国戦で先制ホームランを打たれたときには、易経の「時用」
ー逆境を教訓として、その後に生かしなさいーが、頭をかすめたと回想しています。
チームのムードメーカーでもあった、ヌートバーとの出逢いには、哲学者・森信三の
ー人間は一生のうちに逢うべき人に必ず逢える。しかも、一瞬早すぎず、一瞬遅すぎないときにー
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アウェイのメキシコ戦では、一進一退のゲームを制したのも、易経の「機」(幾)でした。
ー至を知りてこれに至る。ともに幾を言うべきなり。幾は動の微にして、吉凶の先ず見るるものなりー
栗山監督はWBC優勝を機にユニホームを脱ぎましたが、手記は次の言葉で締め括られています。
「私のノートには偉人・先人たちの言葉が数え切れないほど書かれています。中でも多いのが古典から引いてきた言葉です。
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普遍的な価値観を伝える古典は、私の人生の様々な局面で背中を押してくれました。言葉には人を動かす力が宿っています。