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『亜人』「フォージ安全戦」で学ぶ思考実験―SF入門

この記事には、漫画『亜人』のネタバレが含まれています。お読みでない方は、是非一度『亜人』をお読みください。

おわりに

その生物は死なない。
その生物は亜人と呼ばれている。
その生物は何度でも立ち上がる。
何度でも挑む。
何度でも思い描く。
何度でも立ち戻る。
何度でも抗う。
何度でも。

『亜人』第16巻

以上が亜人研究家の"オグラ・イツヤ"によって語られた、亜人の定義である。

死ぬことができない存在―亜人―彼らは生きているのか、護るべきなのか、再生とはなにか、そして、彼らは人間なのか。

この記事では『亜人』におけるいくつかのトピックスに着目し、彼らの正しさについて、批評し、来たる時に、「我々が正しき判断を行うこと」を可能とする訓練を目的とする。

注1

この記事では、問題化→考察としている。それは正解であるものの、あくまで私の正解であり、あなたの正解ではない、のかもしれない。

したがって、まず、提示させて頂いた問題文を読み、一度目をつむり、軽く息を吸い、自分ならこうすると考えた後、息を吐き、目を開け、続きを読み進めることを推奨したい。皆様がどう考えるかを知りたく、また、いつも通り無駄に長いため、適度に目をつむると、身体に優しい。

ワクワクするためのフィクションから少し離れた、考えるためのフィクションを、楽しんで頂けると幸いである。

切断

『亜人』を語るうえで欠かせない要素は切断であり、そして、自己同一性である。

問題1
亜人であり、腕を切断され、殺害された。
1. 死の間際、身体と腕が3mほど離れている場合、どうなるか?
2. 死の間際、身体と腕が1kmほど離れている場合、どうなるか?

覚えているだろうか。亜人の根幹を担う要素である。

注2

『亜人』作中にて物質名が定められていない、「IBMを構成する透過率100%の未知の物体」について、当記事では黒体と呼ぶことにする。

解答1
1. 身体が、腕―切断部位―に向かって結合(回収)される。 この際、腕と身体は黒体により、結着される。
2. 腕が、身体から再生される。この際、切断部位は結着されず、新たに作り出される。

1の性質は、「フォージ安全戦」において、佐藤が、自分自身の右腕を、壁裏にあるパイプを握ったまま切断の後、射殺され、右腕から身体が回収された場面で確認される。これにより、壁の背後に隠れる位置で佐藤が復活、釣りだされた「佐藤対策班」黒木が首を撃たれ、射殺された。

2の性質は、様々な場面で登場するが、印象的なのは貫通断頭、そして転送であろう。

「亜人は、再生の最中、その間にあるいかなる物質も分解してしまう。そして、この分解酵素が即ち黒体である」と、永井によって考察されている。真偽はともあれ、事前に身体を切断した後、再生範囲外―5~10m以上―に切断部を棄て、身体に残る切断面を何らかの物体に押し当て、絶命すると、本来そこに存在した切断部位のスペースを確保するため、壁やドア、そして人間もろとも貫通し、再生する。

物理法則を無視する、この非常に強力な再生力こそ、亜人を象徴づける要素であり、戦闘を始めとして様々な場面で活用されている。

「フォージ安全戦」にて、佐藤はこの性質を利用し、シェルター越しに隠れる甲斐殺害を完遂。一方、永井も腕を貫通させ、屋上のドアのカギを外側から開けた。

「フォージ安全戦」は永井の分岐点として描かれたエピソードであり、『亜人』全体を通しても、このエピソード後、人命の価値が暴落し、「最終ウェーブ」へと繋がる。

さて、問題に戻ろう。亜人であるあなたは、この性質、どう感じるだろうか。

合理的だ、と感じる人も多いのではないだろうか。

「目の前に見えているものは自分の身体の"一部"であり、それが目に見えなくなってしまったら、失認すれば、それは身体ではなく、肉体臓器にすぎない。一物体にすぎない身体であったモノは回収されず、再生されるべきだろう。」と。骨髄ドナーや献血、臓器移植、と同一視するのは決して突飛な発想ではない。

これはつまり、認識こそが亜人の再生を、身体と肉体の区別を、自己同一性に決定的で、識別に携わる頭部こそ、身体の本質であり不可分である、という解釈だ。

それを踏まえ、次の問題を考えよう。

断頭

問題2
佐藤は亜人であり、頭部を切断され、殺害された。
1. 死の間際、身体と頭部が3mほど離れている場合、どうなるだろうか?
2. 死の間際、身体と頭部が1kmほど離れている場合、どうなるだろうか?

1, 2とも極めて容易だ。文脈から、『亜人』を読んでいなくとも分かるかもしれない。

解答2
1. 身体が、頭部から結合(回収)される。 この際、頭部と身体は黒体により、結着される。
2. 頭部が、身体から再生される。この際、頭部は結着されず、新たに作り出される。

では、これはどうか。

あなたは亜人であり、頭部を切断され、殺害された。死の間際、身体と頭部が3mほど離れている場合、どうなるか?
死の間際、身体と頭部が1kmほど離れている場合、どうなるか?

問題1を踏まえれば、解答は一意的であろう。しかし、『亜人』の登場人物である佐藤や永井、あるいは私、あるいはあなたではない誰か、ではなく、あなたはそれでいいのだろうか?

解答3

1. 身体が、頭部から結合(回収) される。 この際、頭部と身体は黒体により、結着される。
2. 頭部が、身体から再生される。この際、頭部は結着されず、新たに作り出される。

2を受け入れられる人は少ないだろう。「識別に携わる頭部こそ、身体の本質であり不可分である、という解釈」が合理的であると考えるのならば、頭部こそが身体であり、頭部を除き身体が再生―再構成―されることは矛盾している。

最も自然な解釈は、背理法であろう。そんな事象が起きえないとみなすことだ。

だが『亜人』についてはそうではなく、佐藤も、中村慎也も、頭部切断の後、再生された。 中村に至ってはバイク事故で頭部切断なされたことにさえ、気付いていなかった。

つまり、再生の基準は他にあるのだ。これは以下の問いにまとめられる。

問題4
亜人において、頭部は身体の本質か?

転送

問題4を考える前に転送を紹介したい。「フォージ安全戦」にて、佐藤は全てのセキュリティをかいくぐり、単独で、侵入を達成した。その際用いた方法が転送である。

  1. 事前に左手を切断する

  2. フォージ安全に左手の揚げ鶏を送り付ける

  3. フォージ安全が受け取る(意味不明

  4. 不審物として、検知されない(誰が骨まみれの揚げ鶏を頼むんだ?)

  5. 破砕機により轢殺される

  6. 切断した左手を軸に再生され、侵入を達成

テロを仕掛けられたにもかかわらず、見栄の為に警察を入れず営業し続ける、紛れもなく鶏頭である。

ともかく、ここにおいて、亜人における再生の基準が規定されている。「身体は最大の肉片である。 」としてだ。

つまり解答4は以下の通りである。

解答4
最大の肉片こそ身体の本質である。

これは、佐藤が、自己同一性は肉体 ―物理媒体―が保障すると考えていることを意味する。

亜人における生と死

これを踏まえ、以下の問題を考えてもらいたい。『亜人』で描写されている重大なテーマだ。

問題5
1. 佐藤は、切断された頭部と、それを観る肉体のうち、どちらが自分とみなすか?
2. 佐藤における断頭とは?

1は言うまでもないだろう。

解答5
1. 観測者の側である

これは、佐藤が、自分の振る舞いをゲームと見立てている事からも説明的である。

ゲームには残機があり、マリオ(残機×3)が穴に落ちて死んだとして、今操作しているマリオ(×2)が別であるとは、考えないだろう。

外界からコーディング、デザイニングされ、たくさんだが、有限長のアセンブリや文字列、ピクセルに還元される 存在―キャラクター ーであるがゆえ、自己同一性が保障されている。穿った言い方をすれば、客体的な見た目が、その自己同一性を保障しているとも捉えられるだろう。 だからマグマに落ち、熔けたとしても、マリオはマリオのままである。

それはそうとして、佐藤さん50歳超えてる癖して、永井圭(高校三年生)との会話をラブコメと見立ててんのはさすがに危機感持った方がいいと思う。ただのただではない年の差BLより厳しいって。

さて、マリオにおいて頭部とは何か。アイコンである。佐藤における断頭も、アイコン化であり、無意義だ。

もっとも、無意味ではなく、 人間は頭部を撃たれることで即死することを逆手に取り、あえて頭部に注目させる振る舞いを取っていたことに注視せねばなるまい。言うなれば釣りの餌であろうか。

解答5
2. 命の餌

はじめに

そもそも、だ。「偽なる命題(仮定)から演繹される式は恒真式( (A→B)⋀(A) ⇄ T)で、その主張は無意味だ。」空虚な真に基づき多義的解釈(○○はこうであり、××ならこう)を主張するかもしれない。

ただ、あなたはこんな多義的解釈を赦せるのだろうか?

問題6
あなたの考えにより近い主張はどちらか?
1. 断頭により、死を迎える(頭部こそ身体の本質)
2. 断頭により、死を迎えない(最大の肉片こそ身体の本質)
3. 断頭により、死を迎えたり、迎えなかったりする
4. 断頭は部分的な死である

そして、なお残る問いとして、

問題7
1. なぜ、佐藤は、永井の断頭に固執していたのか?
2. なぜ、佐藤は、断頭を諦めたのか?

もある。が、今回はこの辺で。「しつこい!」と言ったところだろうか。この問いが後ろにある理由を、ぜひとも考えてもらいたい。

季節の挨拶

もうそろそろ雪が降る頃合いである。あなたが、雪を転がして、胴体を作り、そこに頭を載せ、枝で手をつくり、石で目鼻を作り、マフラーをかけたとする。この時、どこまでは雪団子で、どこからが雪だるまなのだろうか。

さて、ラプラスの悪魔、をはじめとする因果律や超越的存在をテーマとしたゼノブレイドシリーズから、なんと、ついに、

ゼノブレイドクロスのリメイクがSwitchで発売されます!!!!!!!!!!!!!!

生きてて良かった。マジで。おもろいしカッコいいんよ。買ってね。

桜井画門さんは『亜人』完結させてからしっかりG10名義で活動してくれて嬉しかった。リップサービスかと思ってた。『THE POOL』も連載中です。是非。

なぜとはいわんがG10名義のはリンク貼れないです……

アドベントカレンダーについて

この記事は、

第15日目であり、先日はきゅ~さんの財布を盗まれた話でございました。

ところで、なぜ今更『亜人』でそれも真ん中くらいの話である「フォージ安全戦」なのか、疑問に思った方も多いかもしれません。そういった方はここまで読んでいないかもしれません。

実のところ、その理由は実に単純であり、今年のアドベントカレンダーで何を書こうか、何を書くまいか悩んでおり、今日(2024/12/15)の午後3時まで全く書けずにおりました。

その最中、この記事を拝読し、

  1. ゲームをしている

  2. ゲーム中に犯罪が発生する

  3. 犯罪の瞬間が配信されている
    を見て、『亜人』だ...... となり、脱稿した次第であります。

  4. 音ゲー勢は確実に現金持ってると割れていて、盗難のターゲットになりがち......?と考えたり。いま自分の財布見たら7円しかなかったんだけどスラれたかな?川崎だし

はてさて、明日は、かいとからあげさんによる『コンビニのフライドチキンおいしいランキング』とのことです。99%ファミチキの位置で荒れます。

ではでは、皆様、よき年末を!始まりでもなく、終わりでもない、見えないけど確実にいる。気がする。

そんなあなたと、出会いに感謝を込めて。

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