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本物のオリジナルをそのままに 「挽肉と米」海外出店第1号・台北店の誕生秘話

ブランド立ち上げ当初より、世界展開を見据えたコンセプト「挽きたて、焼きたて、炊きたて」にこだわり、メニューや店舗デザインを設計してきた「挽肉と米」。まさにそのプランを実現する形で、2023年7月、台湾・台北市内に海外旗艦1号店がオープンしました。

オープン前より話題沸騰となり、1年以上経った現在も「予約が取れない人気店」として定着。その後、韓国、香港とグローバル展開が進む起点となった台湾出店成功のきっかけは、ある“出会い”でした。

台北を拠点に、食やファッションを中心に幅広い分野で新しいライフスタイル・ブランドを展開する「富錦樹集団(フージンツリーグループ)」を立ち上げた創業者であり、日本の上質なブランドを台湾に紹介する“架け橋”として奔走するJay Wuと、ORES COMPANY代表・山本昇平がタッグを組むに至った背景とは。「ブランドそのままの価値」を世界に広げることにこだわったという二人の対話から、「本物」というキーワードが見えてきました。



「挽肉と米」への“ひとめぼれ”から始まった

山本 Jayさん、来日中の貴重なお時間をありがとうございます。時々お会いしてはいますが、じっくりお話しできるのは久しぶりなのでうれしいです。

Jay こちらこそ会えてうれしいです。出身は台湾ですが、日本に6年ほど留学したこともあって、日本は大好きです。僕の仕事でも一番力を入れているのが「日本」ですね。

山本 このとおり、日本語もとても堪能です。

―お二人の出会いのきっかけを教えてください。

山本 Jayさんのお名前はもちろん聞いたことがありましたが、直接出会うきっかけになったのは、「挽肉と米」の共同創業者である清宮俊之さんらの紹介でした。Jayさんが僕たちのお店を見つけてすぐに気に入ってくれたそうで、お会いする前から清宮さんから「台湾で『挽肉と米』をやりたいって言っているよ」と聞いていました(笑)。

Jay はい、ラブコールをしました(笑)。もともと日本にはよく来ていたのですが、新型コロナウイルスの影響で渡航制限を受けて、1年半ぶりに来日できたのが2021年10月だったんです。日本の飲食業の知り合い「今、日本で流行っているお店はどこですか?」と聞いたら、「今話題なのは『挽肉と米』だよ」と。「挽肉と米? 変な名前のお店ですね。行ってみたいです」と答えたら、さっそく清宮さんを紹介してもらえたんです。でも、人気でチケットが全然取れなくて。僕たちのスタッフが朝に並んでチケットを取って、渋谷のお店に食べに行ったときが山本さんとの初対面でしたね。

―「挽肉と米」の第一印象はいかがでしたか?

Jay お店に入った瞬間からめちゃくちゃインパクトがありましたね。狭い階段を上がって、まるで住宅のような構えの扉を開けたら、まず目に飛び込んでくるのが高い天井からさがった鉄のダクト。同時に、釜から立ち上る湯気に、ご飯が炊ける香り、肉が焼ける香りと音……。一瞬にして「やばい、これはいけるね」って鳥肌が立ちました。

山本 うまく言うなぁ(笑)。

Jay 僕はInstagramやYouTubeでも発信しているので、その間ずっとビデオカメラを回していて、ずっと感想をレポートしていました。唯一無二のインパクトがある空間デザインも最高でしたが、やっぱり一番感動したのは味です。「ハンバーグ定食という単一メニューだけで、本当に勝負できるのかな?」と半信半疑で食べてみたんだけど……「ワオ!これは絶対にいける」と確信できました。これだけ多様化している食シーンの中で、あんなにシンプルかつ直球であることがユニークだし、すごく面白いなと思いました。

山本 よかったです、Jayさんの心をつかめて。僕の目には「鳥肌」までは見えなかったけれど(笑)、僕たちが「挽きたて、焼きたて、炊きたて」にこだわって磨いてきた店と味に瞬時に共感してくださっていたことが、あらためてうれしいです。

Jay 間違いなく「初めて」の体験でした。日本でも台湾でも、他の国でも見たことがない。あらためてコンセプトを聞いてますますファンになって、「このお店を台湾でもやりたい」と僕からコンタクトをとったのが始まりですね。

山本 うれしかったですね。もともと「挽肉と米」は、海外での展開を目指して設計して育ててきたブランドです。日本人がつくる食のおいしさは、世界で勝負できると思っています。「挽肉と米」を世界へ発信することで得られる収益を通じて高い利益率を目指し、店舗をつくるスタッフの報酬や環境をめちゃくちゃ上げるっていうゴールを目指してます。

「海外出店」の一歩をどう踏み出したらいいのか、迷いながら模索していたときに、まさに理想的パートナーといえるJayさんとのご縁をいただけたのは非常にラッキーでした。台湾で海外1号店をオープンできてからは、相手を探す暇もないほど向こうからオファーが舞い込んできて対応が追い付かない状況です。ありがたいですね。

オリジナルのそのままを海外にも伝える

―Jayさんとのパートナーシップが「理想的」だと思える理由は?

山本 「挽肉と米」を、オリジナルでそのままいいものとして台湾に伝えてくれているところです。Jayさんの過去の実績にも共通して言えることですが、日本で広く受け入れられているものの中から、台湾の人たちの好みに合うものを厳選して、さらにそのオリジナルの価値をしっかりと伝えてくれる。「日本で流行っている店が、台湾でも盛り上がっているね」という実績をつくってくださる。だから、「他の国でもチャレンジできそうだ」という次のチャンスにもつながるんです。

―Jayさんは熱心な日本のトレンドウォッチャーであるということですが、「台湾でも流行る店」を見極める基準は何なのでしょうか?

Jay 飲食の場合は、「おいしい」を超える「すごくおいしい」という価値があることが一番。あと、「台湾にまだないもの」を備えているかどうか。「挽肉と米」の場合は、味だけでなく空間も含めた体験全体で五感で楽しめる演出の豊かさが、それにあたりますね。
 僕は自分が心から感動した店を、そのまま台湾に持っていくのが好きなので、「挽肉と米」の価値を「そのまま台湾で再現でき、成功するかどうか」が重要なポイントでした。ローカライズをする良さもありますし、それを否定する気持ちはまったくありませんが、僕のスタイルは「オリジナルをそのまま」にこだわること。「挽肉と米」ならできると確信できました。

山本 最初から「そのままでいい」と言ってくださるパートナーと出会えたことで、僕たちも、そういうスタンスでいいんだと自信を持てました。普通は「ローカライズをして欲しい」と言われてもおかしくないと思うのですが。自分たちのこだわりを捨てずに済みましたし、今後も、そのままでいいと言ってくれるパートナーとやりたいなと思えましたね。

Jay 飲食店のグローバル展開では、特に“食材の壁”にぶつかることは多いですよね。例えば、ハンバーグに使うお肉でも、宗教上の理由やベジタリアン対応として、豚肉や大豆由来など、牛肉以外の食材を用意することは一般的になりつつあります。ですが、僕はあくまで日本発のオリジナルの価値にこだわりたいので、「牛肉オンリーです」と言い切っちゃう(笑)。「牛肉が食べられないなら、他のお店のほうがいいですよ」とすすめちゃう。

“想定外”のアクシデントも、結果オーライに

―実際の開店に向けての準備はスムーズに進んだのでしょうか?

Jay  正直、簡単ではなかったです(笑)。

山本 いろんなトラブルを乗り越えましたよね。一番苦労したのはやっぱり物件探しでしたね。立地がよくて、かつ、台湾の消防関連の法律をクリアする条件を探すのにはひと苦労しました。やっぱり「挽肉と米」の世界観を表現できる場所を見つけることは大変でしたが、妥協せずにこだわりましたね。
 そしてようやくいい場所にオープンできたのですが、なんとオープンした後に「新しくできた法律の基準に合っていない」ことが判明して、1周年を迎える前に移転するというアクシデントも(苦笑)。

Jay  いやー、あれは本当にショックでした。

山本 でも、移転先はすぐに見つかったし、席数も20席から28席に増えたり、結果オーライだったと思います。

―ひとめで「挽肉と米」と分かる空間デザインの再現は、どうやってできたのでしょうか?

山本 国内の「挽肉と米」のブランディングも担当しているチーム監修のもと、現地の施工会社にお願いする形をとりました。その会社の社長と現場担当者も日本人で、日本語でのコミュニケーションもできたので、細かく目線を合わせながらプロジェクトを進められたんです。やはりコミュニケーションが大事ですね。

Jay  その街に合った店の構えについては、結構慎重にリサーチをするんです。「挽肉と米」の場合は、僕が最初に行って鳥肌が立つほど感動した渋谷のお店だけじゃなく、吉祥寺や京都の店舗にも全部行って、その店が町中にどう溶け込んでいるかを見に行きました。
日本の全店舗を回った上でイメージできたのは、メインストリートではなくちょっと路地に入った細い道沿いにあるお店。緑のある公園が近くにあることも条件にしました。あと、絶対に人気が出て行列ができることは分かっていたから「どこに並んでいただくか」という場所の設計も重要でしたね。

大事なのは着火した人気を「維持する力」

―実際、オープン初日には長蛇の列ができたそうですね。

山本 初日といっていいのか、前日というべきか……(笑)。ありがたいことに、テントを張って前夜から並んでくださった方もたくさんいたんです。

 並ぶ列がどんどん増えて500人くらいになったころには冷や汗が出ましたね。だって席数が20席しかない店舗だったので、限られたお客さんしか初日は入れない。当日ご案内できないお客さんに謝りまくった1日でした。嬉しいを通り越して「やばい」という感覚で、Jayさんに慌てて電話しましたよね。

Jay 想定内の大成功です。僕のInstagramを見ていたフォロワー100万人超の芸能人が何人も来てくれて、彼・彼女らがさらに投稿するものだから、またお客さんが増えて。

山本 メディアも注目してくださって、オープン前の工事中から勝手にお店の中に入って取材を始めるものだから、フージンツリーのスタッフが店頭でディフェンスするという状況まで生まれましたね。

Jay  オープンに関して詳しい情報はあえて直前まで解禁せずに期待感を高めました。オープンから1年経った今も人気は衰えることなく、予約解禁の5分後には翌週分すべての席が埋まる状況が続いています。

 有名アーティストから「僕のコンサートのチケットと引き換えに、『挽肉と米』の予約チケットをもらえない?」と交渉されたこともありますよ(笑)。

山本 そこまで言ってもらえるなんて、うれしいですね。オープン直後にバーン!と話題になるのはブランドの力である程度できることかもしれませんが、その状態を長く維持できるかどうかが成否の分かれ目だと思うんです。フージンツリーはこの「人気を維持する力」のノウハウがすごい。教育も非常に行き届いていますし。あるとき、ハンバーグの厚さをメジャーで測っているのも目撃して感心しました(笑)。僕が手や口を出す隙もなく、細かく明確な指示が浸透しているんです。

Jay  ありがとうございます。やっぱりこれまで自社ブランドでミシュランを獲得・維持してきた経験を踏まえても、「いつでも同じ品質を提供できる力」が信頼につながると思っています。二度三度訪れても、初めて来たときの感動を味わえるかどうか。そのためのシステムをずっと研究してきたので、「挽肉と米」のブランドでも大事にしていますね。

本物だけが生き残る時代に、本物でありたい

―ブランドを守るために大切なことは何だと思いますか?

山本 どんな店にも共通して言えるのは、その店に対してお客さんが何らかの“期待”をもって訪れている場所であるということではないでしょうか。その期待にきちんと応えられる店づくりを真面目に重ねていくことが、ブランドを守り続けるための必要条件かなと。月並みな答えかもしれませんが、ちゃんと守れている店は決して多くないというのが僕の印象ですし、僕たちの店も気を抜かず手を抜かずに、期待に応えることに集中しようと日頃から伝えています。

Jay  山本さんの答えに全面的に賛同します。お客さんの期待に応えるのは、特に飲食では簡単なようで難しいですよね。だから挑戦のしがいもある。

―「挽肉と米」のようにオープン前から期待値が高まる店ならなおさらハードルは上がるのではないでしょうか。

山本 そうかもしれませんね。ただ、僕たちの場合は誇大広告はしませんし、「うちの店ではこういう体験ができます」という約束を、その約束のとおりに提供しているのでウソがない自信はあります。加えて大事にしているのが、Jayさんのこだわりでもある「品質の安定」で、お客さんにいつ来ていただいても同じレベルの期待に応えられるように、日々努力をしています。

ブランドを守れるのは、「良いものをきちんと作り続けられる人」だけです。良いものを作れない人たちが、目先の売り上げのために盛った情報発信をするから、お客さんを裏切ることになり、ブランドが傷つくのだと思うんです。今はSNSで誰でも情報発信ができる時代なので、偽物は簡単に崩れてしまう。本物しか生き残れない時代に、本物であり続けることを目指していきたいです。

Jay  大賛成です。僕は自分が惚れ込んだ「本物」を、国境を超えて「そのまま」届ける橋渡しをしていきたいのです。せっかくそのままで素晴らしい「本物」に、変に手を加えると別物になってしまう。それでは誰もハッピーにならないですよね。ハンバーグの焼き具合一つとっても、国を変えても「本物」をそのまま再現するのは簡単ではありません。だからこそ、やりがいがあります。

ワンチームで、さらなる世界展開へ

―Jayさんは「挽肉と米」のブランドに、これからも期待していますか?

Jay はい。とても期待しています。「挽肉と米」には世界のどこででも通用する価値があると確信していますし、僕もどこまででもついていきたいです(笑)。

山本 うれしい言葉ですね。実はJayさんは、韓国と香港のオープンの時にも自主的に来てくれたくらい、本当に「挽肉と米」を愛してくれているんですよ!Jayさん率いるフージンツリーのチームに対して、僕も絶大の信頼を置いていますし、ライセンサー/ライセンシーの関係ではなく、対等なパートナーとして、「挽肉と米」のワンチームでコミュニケーションができる仲間だと思っています。

 今後は、上海や広州を起点に中国展開にも力を入れるつもりですが、フージンツリーのチームに中国事業のヘッドオフィスとしての役割を担ってもらう予定です。国や地域のカルチャーや条件に応じて、コミュニケーションやオペレーションの細かな調整は生じますが、それも僕たちのコアコンセプトである「挽きたて、焼きたて、炊きたて」が良いものとして伝わっていくための工夫ですし、Jayさんのチームとなら一緒に高いレベルを目指せそうです。
「挽肉と米」を世界へ広げる目標に向かって挑戦するワンチームになりたい。そんな願いがあります。

Jay ぜひ一緒にチャレンジしましょう。台北市内に2軒目の出店もねらっているところですが、物件探しも妥協せず進めるつもりです。

山本 うれしいのは、台湾から始まった海外展開をきっかけに、会社の若いメンバーのモチベーションが上がったこと。台北中山店のオープニングを担当した中心メンバーの一人、岩崎宙くんも自分の言葉で意欲を語ってくれました。彼は現地のお客さんからも大人気で、ファンクラブが立ち上がったくらい(笑)。
「挽肉と米」の海外出店で体験したことをポジティブに語ってくれるから、それを見聞きした他のメンバーも刺激を受けて「アルバイトだけど、社員になって海外で挑戦してみたいです」といった声も聞くんです。いい循環が生まれているなと実感しています。これからもよろしくお願いします!

Jay こちらこそ! 一緒に世界へ感動を届けていきましょう!

Jay Wu (吳羽傑/ジェイ・ウー)

台湾でライフスタイル・ブランドを展開する富錦樹(フージンツリー)グループの創立者。台湾・台南に生まれ育ち、アメリカ、カナダ、日本でも生活。東京で6間の留学経験あり。2012年、台北の富錦街で富錦樹グループを設立。「台湾を世界へ、世界を台湾へ」をミッションに掲げ、台湾と世界の架け橋として台湾の食、商業、カルチャーを世界へ伝え、日本や世界から得たインスピレーションを台湾に伝えている。日本のBEAMS、UNITED ARROWS等の総代理店を経て、フージンツリーレストラン等の自社ブランド以外に、アパレルブランドFREITAGや、焼肉ライク等の台湾代理店を行う。

聞き手・文章:宮本恵理子
写真:三橋拓弥


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