ひきにく

散文置き場。ひたすら暗い。

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最近の記事

旅立ちの部屋 3

1はこちら↓  私はパイプオルガンの前にただ座りながら、傍らのスマートフォンから流れるサン・サーンスの「死の舞踏」に耳を傾けていた。奏者は既にいないのに、奏者のように座り、機械から音楽を流し、まるで今ここで演奏が行われているかのように振る舞っていた。  パイプオルガンを演奏する彼女の姿は、複数の足鍵盤を軽やかに踏むためなのか、演奏というよりも一種の舞いのようであった。それが音楽と相まって、とても美しく神秘的とさえ思ったものだった。  死者を想うことが弔いとなるなら、これは私

    • 旅立ちの部屋 2

      1はこちら↓ 「お疲れ様です、キノシタさん」  私が書類を纏めていると、後輩の女の子が横から挨拶をしてきた。 「お疲れ様です」 「あの、キノシタさん。私、明日から一週間、休暇を頂いていて」 「ああ、そうでしたね。どこかご旅行にでも行かれるんですか」 「ええ、それに一週間後に……旅立ちますので」 「そうでしたね。一週間、楽しんできて下さい。あと、旅立つときはお見送りに行きますね」 「キノシタさんには、とてもお世話になったので、お礼が言いたくて。ご迷惑かと思います

      • 旅立ちの部屋 1

         おはようございます。こちらは紹介状を持った方専用の受付でございます。紹介状はお持ちでしょうか。はい、ありがとうございます。拝見いたします。 ……黒い紹介状ですね。確認ですが、希望者でお間違いないでしょうか。  では、こちらへ、ご案内致します。部屋は最上階にございますので、専用のエレベーターで上がります。  普通の病院のようで驚かれましたか。ええ、表向きは通常の病院と変わりません。診療科も精神科と産科以外はございます。どうして精神科と産科はないのか。それは、精神科はあっ

      旅立ちの部屋 3