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(短編小説)虎穴にて

追い詰められてしまった。
まさか、お母さんがいない時を狙って人間がやって来るとは思ってもみなかった。
僕もお父さんみたいに狩られて売り飛ばされちゃうのかな?
お母さんが人間には『虎穴に入らずんば虎子を得ず』っていうことわざがあるって言ってたけど、こんな反則使うなんてズルいや!
あぁ、最後に同じホワイトタイガーの虎子ちゃんに会いたかったな……って、コイツら虎子ちゃんまで!
ここは勇気を振り絞って、人間たちを追い払わなきゃ!
こ、怖くなんてないぞ!

トォー!

「いましたよ。あのメスの子供でしょうか!」
「あぁ、間違いない。顔立ちがそっくりだ!」
「さっきのメスの娘のボーイフレンドだったりして!」
「そこまでは分からないが、今回も密猟者より先に生存を確認できて良かったよ。」
「君も偉いそ!そんなに脚を震わせながらも、人間の前に飛び出してくるなんて、まさに『虎穴に入らずんば虎子を得ず』……いや逆か、『人街に入らずんば糧を得ず』かな?」
「それって、笑って話すような内容ではありませんよ!教授。」
「確かにその通りだった。済まん。森や草原を削って生きている我々の言えた義理では無いな。とにかく安心していいからね。君達を狙っていた密猟者は、既に逮捕されている……って言っても分からないか。」

腰が抜けてしまった。
もちろん、安心したからだ。
お母さんも、虎子ちゃんも無事そうだ。
よかった!
よかったよ!!

でも、この教授?って人間の言う通りだ。
僕たちは、今はまだ食べ物にありつけているけど、そのうち『人街に入らずんば糧を得ず』になる時が必ずやって来る。

その時は、今よりももっと勇気を振り絞らなきゃいけないかもしれない。


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曳舟次郎
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