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(短編小説)六文銭

六文銭の値段が上がった。

船頭の話ではそもそも六文で足りたのは江戸時代の頃までで、今は単位すら違うらしい。

ここで人民元でも請求されたら川底へとダイブしていたところだったが、普通に日本円だった。

しかも新紙幣やIC乗車券、各種Payまで対応しているらしい。
昇天時に財布が無くてもスマホや乗車券なら待ってる可能性があるからと、御釈迦様がご慈悲をお掛けくださったとの話。

でも、俺は風呂場でついつい寝てしまい溺れたから何も持っていない。

船頭が上質紙を差し出した。
船賃の借用申請書だった。
来世払いというシステムがあるらしい。

さらさらさら……

申請書の写しと共に、『領収書』を受け取った。
つまり、来世から文字通りの天引きが行われるらしい。

税金の項目があった。
渡し舟の維持費や船頭の給与に使われるのだろう。

でも、軽減税率……?

閻魔えんま様への御土産代が軽減対象ですか?」
「いや、閻魔様は今、何も請求してないでっせ。徳川の世に大判小判を積んで謁見した大棚がいたそうで、金には困ってないそうな。」
「その方は、どの道へ?」
「もちろん、御望み通り『天道』さ。」

名も知らぬ大棚に感謝しながら、再度領収書に目を落とす。

「川は長い。メシ代さ。酒は出んけどな。」

舟に揺られながら、ふと思いつく。

「俺の来世は人道、修羅道、畜生道、餓鬼道のどれかだな……。天道に落とされるほどの愚行はしてないと思うし、地獄に落とされたら来世自体が無い。」

金持ちのペットが良いな……。

ビニール袋に包まれた弁当を抱えた俺をのせ、船頭の漕ぐ小舟がユラユラと川を下っていった。

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曳舟次郎
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