『LOST CORNER』米津玄師

先行で公開されたクロスフェード動画を見始めた時、曲数を全く気にせず見始めた。

映像付きのクロスフェード、なんともいいじゃないかと思いつつも、まだあの曲も出てきてない…これは一体いつになったら終わるんだ…?となり、そして最終的に20曲というボリュームにビビった。
まぁその方が食指は動くというか、ただシングルを集めただけではない、アルバム作品としての楽しみが生まれるのはいいことだと思った。ただ、随分大作だなぁという感覚もあった。CD換算で2枚組でもやるつもりなのかと。
前作『STRAY SHEEP』には壮大さ、派手さみたいなものがあったように感じた。私自身がまともに米津玄師のアルバムを初めて聴いたから妙に印象が強いだけかもしれないのだが、それにしてもドラマ的というか、全体の起伏が大きいアルバムだった。
そこから数年を経て、更に立ち位置が確固たるものになり、そうした中での20曲入りアルバムを作ったということは、その壮大さみたいなものがより増した象徴なのだろうと勝手に踏んでいたところもあった。
思えば、好きになった直後にそういうアルバムを出されてあんまりしっくり来なくて離れてしまったアーティストもいくつかあったのを思い出した。00年代後半のグリーンデイとか、『Orbital Piriod』の頃のバンプとか。だからちょっと嫌な予感がしていたのかもしれない。

だが驚くべきことにこのアルバム、1枚分に収まっている。間に挟む1分以内のインスト的なものはほとんど無く、また逆に6分以上の曲もなく、全体で71分。これはちょっと驚いた。なんか圧縮のマジックでもかけてるんじゃないかと。
さらに不思議なのがその曲数を感じさせないテンポの良さだ。3~4分前後の楽曲が多くを占めているので実際にテンポがいいのもあるとは思うのだが、それだけではない。
なんというか、変に気負いがない感じがする。アルバムとしての明確に流れはある。怪しげな雰囲気から始まり、少し日常に寄り添うような楽曲があり、少し空想めいた壮大さがあり…。そういう意味では、勝手に想像していた壮大さみたいなものが曲単体ではあったりもするが、全体として感じることない。本当にさらりと聴けるのがどうにも不思議だ。
これだけ国民的アーティストになってなお、こういう作品を作ることができるのは、それもまた才能なのだろうか。小気味よくて素晴らしい作品だと思う。

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