【編曲解説】流星メッセンジャー
こんにちは。初めてのコード理論解説です。基礎より、実践的な内容になるように執筆しました。
注意点:このページ内でイタリア語音名が登場した時は、移動ドで考えてください。
私自身固定ドに慣れていますが、音楽理論解説に適した移動ドに慣れる為、混乱しながら書いています。
はじまり
原曲:白上フブキさんのツイート
こちらはホロライブ1期生・ゲーマーズの白上フブキさんが自身が作詞作曲されたオリジナル曲をアカペラで歌っているツイートです。
実はこれ、白上フブキさんの歌に我々リスナーが自由に伴奏を付けるというちょっとした企画なんです。
作曲を嗜むホロライブファンとして、やるしかない!
完成品
ピアノで伴奏を付けて、演奏動画とコード進行を原曲の動画に被せてツイートしました。
コード進行に拘るという私の性格が表れています。
なお、度数表記には慣れていなかった為臨時記号を度数の後に付けるという表記ミスがあります・・・。
コード進行
Key: F Major
I Isus4 I
かがやく星に願いこめて
VIIm7 III7 IIIm7/VI I/III #IIdim
流れるように明日へ翔けてく
IIm7 Iadd9/III bVI bVII
きらめくボクたちは一等星だよ
I Isus4 I
ひとつひとつの
VIIm7 Vm6/bVII VI7 Vm7(11) Iaug/#IV
瞬きは大空を照らして
IIm7 Iadd9/III IVmMaj7 IV/V
あふれそうなこの気持ち熱い胸の星よ届け!
VIIdim7/I I
流星メッセンジャー
解説
かがやく星に願いこめて
「かがやく」のソドレミというメロディはアイドルソングの定石 ※a で、
3rd fes.で発表された「Prism Melody」も同じ入りなのでこの曲を意識されたのでしょう。※b
サビ始まりのコードも、IVやVImという選択肢もありますが、Prism Melodyの雰囲気を引き継いでIにしました。
「願いこめて」まで「かがやく星」のパノラマのイメージでIを保持します。
途中でファが入るところはsus4でケアします。
流れるように明日へ翔けてく
ここもPrism Melodyをこすってます。
Prism Melodyは「I→VIIm7(-5)→III7→VIm→・・・」という進行が使われています。
これはコンファメ進行とかハレ晴レ進行と呼ばれているそうです。※1
「流れる」がVIIm7(-5)ではなくVIIm7なのは些細な違いなんですが、フラットファイブの寂しさが緩和されるので変えています。
「翔けてく」はVImを進化させたIIIm7/VIです。
これにはメロディに沿わせる働き、マイナーの悲しさが取り払われる働き、解決しないことによる浮遊感の働きがあります。
次のIIm7に繋げる為にdimを入れたりしてベースラインを作ります。
このようにコードを細かく変えると加速感が出ます。
歌詞の「翔けてくボクたち」にフォーカスしていく感じです。
きらめくボクたちは一等星だよ
ここはサビ折り返しの手前です。
IIm7から始まる順次進行の23451がはまりそうですが、
以下の理由より後半をピカルディ終止(bVI→bVII→I)にしました。
理由1:
よく聴くと「一等」の音程がちょっと低くて不安定なのです。
ピッチ補正のされていない生歌なので、外れたと考えられます。※c
ただ私はここで敢えて「外れた」ではなく
「(ダイアトニックスケールから)外した」と解釈しました。 ※d
具体的には、「等」がミから♭ミになっているので、♭ミが含まれるコードにしようと試みました。
理由2:
Vはそのままでも良さそうですが、
メロディがアヴォイドになってしまうのでbVIIに変えました。
理由3:
ピカルディ終止のようなノンダイアトニックコードを使うことで、意外性が出ます。そうするとIに戻った時に、安心感が出ます。
更にサビの折り返しは最初とメロディが同じなので、安心感の相乗効果が得られます。
ひとつひとつの
前半と同じコード進行です。
ここを変えてしまうと前述の安心感の相乗効果が得られないので。
瞬きは大空を照らして
「瞬きは」も前半と一緒です。
「大空を」ここで前半からメロディが変わります。
コードもがらっと変えて、サブドミナントのIIm7へ向かうセカンダリードミナント的な文脈でのツーファイブにしました。
素直な譜割りで言うと、この次にサビの最後1/4になります。
そこで251や23451進行という安心の進行が来るのを予期させています。
「照らし」IIm7に行っていないです。
何故なら歌の尺がここで変則的になるからです。
具体的には2小節挿入された形になります。 ※e ※f
コード進行もそれならばとサブドミナントへのツーファイブをおかわりしています。
先程はIIm7へ向かいましたが今度はIVへ向かう気持ちでVm7から始め、変化を与えています。
メロディの♮シと合ってないですが、♮シを刺繍音と考えると許されそうです。
「て」ツーファイブのファイブに当たる部分ですが、Iaug/#IVという特殊なコードで代理させています。
これには3つ理由があります。
理由1:
ベースラインを滑らかにする為。
ツーファイブワンだと四度進行でベースの動きが大きくなりますが、Vに裏コードを用いることでベースラインが半音の移動だけになります。
更には折り返しからここまでのベースラインがI→VII→bVII→VI→V→#IVと、下降するタイプの順次進行になっており、芸術点が高いです。
理由2:
ここは「ひとつひとつの輝き」から「輝きが照らす大空」へズームアウトしていくイメージです。
このイメージにaugの持つ浮遊感がマッチしています。
因みに、ホールトーンスケールでオブリガートを入れているのも浮遊感を補強する為です。
理由3:
分数augを使ってみたかったからです。※2
あふれそうなこの気持ち熱い胸の星よ届け!
ここはラストスパートで一気にメロディの密度が急上昇です。
コードもそれに伴っていろいろと変えていくのも面白いですが、先程遊びすぎたのがあるので無難に23451としました。
その代わり伴奏のリズムを倍にすることでスピード感を補っています。
「気持ち」IIIm7→Iadd9/IIIでメロディに沿わせます。
レがなくてもIadd9/IIIが好きなので手癖でadd9していたと思います。
「熱い胸の星よ」IVをIVmMaj7としています。その方が熱いからです。
「届け!」VをIV/Vとしています。オンコードとその後のブレイクによる浮遊感で「届け」という気持ちを裏付けしています。
流星メッセンジャー
締めにメロディがレ→ドとなるのも、よく使われる手法だと思います。 ※3 ※a ※f
理由としては突然の終結感を緩和させる働きがあると考えられます。
これにコードをどう付けるかは、吟味しがいがありました。
結果としては「VIIdim7/I→I」に落ち着きました。
レのもつドミナントっぽさと、小節頭で解決させたい気持ちの均衡点はオンコードにあります。
なお、他には以下のような選択肢も考えて捨てています。
「I→I」:「レ」の鳴っている時間が長いのでキツイかも
「Isus4→I, V/I→I」 :「メッセンジャー」という言葉の響きに対してクラシカルすぎるので不適
「V→I, V7→I」「IV6, IVm6」:今回はアウトロ無しで終止させたいので不適
まとめ
超作りやすい
フブちゃんのメロディセンスは天才だ~
コード進行は後付けでもそれなりに説明できる
正直1時間半で付けたコードですから、作った当時はここに書いたような細かい理論は一々考えていません。
でもそれなりに説得力のある文章になったと思います。
コード進行は感性先行、付随して理論が構築されると実感しました。
蛇足
音楽もファンアート
白上フブキさんはこの企画が音楽主体であるにもかかわらず、応募作品に対して「#絵フブキ」というファンアートタグを提案されていました。
そう、音楽は、絵であり、映像なんです。
この記事でも随所に音楽理論と映像をリンクさせた表現を盛り込みました。
音楽制作で推し活がしたい皆さんも、進んでファンアートタグを使いましょう。責任は負いません。
大事なのは、音楽もファンアートであるという制作者のこじ付け力(エゴ)です。
作詞作曲者本人様による引用RT
幸せに慣れていない人は大きな幸せを前にすると平常心を失うんだよね(赤スパ)
注釈
※a 定石を理解しているフブちゃん、センスの塊
※b 5u5h1フブてえてえ
※c 生歌たすかる
※d ノンダイアトニックフブキ
※e ここのメロディの急ブレーキめちゃくちゃ技巧的じゃないですか!?
フレーズをはみ出させることで、次の「あふれそうなこの気持ち」と呼応させている。
フブちゃんすげえよ!天天才才天才才
※f 2^n小節では収まらない。 #こえていくホロライブ ってコト!?
※1 https://andy-music.hatenablog.com/entry/2019/04/14/211530
※2 イキスギコード https://dic.nicovideo.jp/a/blackadder%20chord
※3 例を挙げておきます。コードの違いを味わってみよう。他にも類例募集!
勇気100%/光GENJI
One Love/嵐
境界の彼方/茅原実里
Precious/長瀬麻奈(神田沙也加)