★異能の探偵がつむぐ物語#2
納品のためにと式場へ足を踏み入れた瞬間、悲鳴が私の耳に突き刺さってきた。
「花嫁が!」
大きく開かれた扉の向こう、白百合を模したシャンデリアが見下ろす大ホールの中心では、薔薇のドレスを纏う花嫁がその胸をナイフに貫かれ横たわっていた。
どこかオブジェめいて、けれど、鼻先に届く匂いが凄惨な死を告げてくる。
「け、警察を」「動くな!」「誰か、誰か彼女を!」
飛び交う声と駆けつけてくる警備員を遮るように、世界が私の前でだけ明滅して。
刹那、純白の光、青の雫、緑の風、黒の炎――それぞれをまとう四人の天使たちが顕現する。
口の悪さと心根の優しさが反比例する彼らがもたらすのは、過去と未来と現在に散らばり隠された情報たちだ。
愛おしい天使たちの言葉に耳を傾け、真実の糸を手繰り寄せれば、ある一点で『断罪の鐘の音』が私の中に鳴り響く。
非常事態に慌てて駆け寄ってきた顔馴染みの支配人と警備員を軽く引き止め、
「あの彼を捕まえてくださいます? 犯人なので」
花婿の隣に立つ歪なカオの青年を指差した。
突然の告発に凍りつくすべての人を置き去りにして、私は物陰から一部始終を眺めていた性格のよろしくない依頼主のもとへ向かう。
「あいかわらず、ひと目で犯人を指名しますのね」
「ええ。天使たちの囁きが聞こえるもので」
ほかの誰も信じない事実を口にして、私は抱えた包みを差し出した。
「こちらが、依頼の品です。ご確認くださいませ」
私は探偵ではない。ただ、愛する天使とともにアクセサリーを作る宝飾師。ゆえに事件の顛末にも興味を抱かない。
ただ、この品が相手の心に届くのか、そちらの方がよほど重要なことなのだ。
了
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異能の探偵がつむぐ物語とは?
Facebookにて、オーダーメイド物語の新メニュー考案のために募集したモニター企画。
ご依頼主様がおまかせ特殊設定の探偵になり、登場シーンか推理シーンのどちらかが綴られます