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★誕生日の物語#22

呪札と鎖で封じられた暗い溟い屋敷の最奥で、傀儡まがいの当主たる私はひとり、一族が重ね続ける罪を数えていた。
世界の均衡を保つためと、だまし討ちのごとくここへ魂ごと囚われてから幾度季節が巡ったのか。
妖を操り、世を掻き乱し、振り撒かれた呪詛をもって人界を穢し侵していくその所業を、止める術はすべて奪われてしまった。
けれど祈りはできる、願いはできる、声は届かずともこの場所からでも愛しい人に力を送ることはできる。
愛しい人――白狼の血を引く獰猛なる剣術士の迎えを、たとえそれが苦悶にまみれた百年の孤独に繋がろうとも、信じて待つことができた。
血族によってもたらされるあらゆる理不尽さへ臆することなく刀を振るい、あげたあの日の彼の慟哭が、私の心を支え続けるから。
だから。

「……御前様、遅くなったがむかえにきてやったぜ」

光を帯びた白刃が、張り巡らされた呪結界を薄いガラス細工のごとく砕き壊す。
燃える菫の瞳が私を射抜くように正面で捉え、一瞬、ほんのわずかにその唇が優しく弧を描いた。
ああ、やはり彼は来てくれた。
涙ではなく微笑みでもってそれを迎えられたことで、せめて主人としての己の矜持は示せただろうか。

*誕生石・誕生日花*
ハウライト:純粋な血筋
サファイア: 慈愛・誠実・徳望
コスモス: 乙女の真心・調和・謙虚
トレニア: ひらめき・愛嬌

Copyright RIN

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あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
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