ひろってはいけない心のおとしもの④
救急車を今か今かと待ちわびながらたびたび確認に行っていた主任が言うには、その場所は、バス通りからデパートとビルの間の裏道に入って数メートルくらいのところだという。
おそらくデパートの屋上から飛びおりたようだった。
そしてその場所には、うつぶせになったままの男性がもう20分以上横たわっていた。その状態は誰が見ても助かる見込みのない姿だという。
どんなようすなのか詳細を主任は話さなかった。すごい怖い顔でわたしたちに「見ない方がいい」と言った。
いちおう救急車に電話をかけた代表ということで、その現場に男性美容師の主任がしっかりと待機することになった。
救急車が到着した、という主任の連絡を、まだかまだかと待つ店内のスタッフと客。みんながなんとなく落ちつかなかった。
少しすると、別の客が店にきた。
「デパートの屋上から飛びおり自殺があって救急車で運ばれたらしいですね」と受付で言う。
わたしの働く美容室は、ビルの1階にあるテナントのひとつで裏口からはいってすぐのところにあった。ビルには裏口と表口がある。その客は表口からきたらしい。
しかし裏口からでていった主任はもどってきていない。
受付のスタッフと美容師たちは「?」となった。