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悪意の搾取と怒りのポルターガイスト#4 ヒルのごとく
受心した心は、ものすごく心配をつのらせて焦っているようだった。
妻のことが心配で心配でたまらない!
けれども、なんだろう、どの心もちも、やんわりとした心だった。すべての気持ちが優しさでできているような心だった。
そのことを、感じたそのままB﨑さんに伝えた。
B﨑さんは黙ってしまった。
そして静かに泣いていた。
わたしたちは沈黙して彼女を見守った。
静かに泣いていたB﨑さんが落ち着きを取り戻すと、今日、杏子さんにいちばんに相談したかったという話をきりだした。
今日の朝、田舎に住む母親から電話があったという。その電話の内容は、B﨑さんの姉(義兄の嫁)に頻繁に会いに来る人物のことだった。
義兄が亡くなり、ひっそりと家族だけの葬式を終えて少し生活が落ち着きだしたころ、姉のところにとある夫婦が乗り込んできたという。
最初は「お線香を」と常識的な態度だった。
その夫婦というのが、B﨑さんの夫のいとこにあたるA山夫婦だった。姉はA山の妻と会うのは妹の結婚式以来だという。
A山夫婦は、#1で書いたとおり、お金に執着するB﨑一族のなかでも最強な夫婦。
B﨑さんの夫も姑も欲しいものが我慢できない性格だったが、姑の妹も同様だったらしい。妹に育てられたひとり娘はずいぶんと甘やかされてわがままに育ったという。
そしてその娘が結婚した男が最悪だった。
職業が長く定まらないにも関わらず、外車を常に買い替え、旅行を頻繁に行き贅沢し放題で、消費者金融からお金を借りれなくなるほど借りまくっていたらしい。
それを妻もまわりの人間も誰も咎めなかった。似た者同士で集まってしまったのだ。そしてよりいっそう二人を最強にしていった。
ついに関係ない人間のお金まで強引にもぎとらないとやっていけなくなったようだった。
「(義兄が亡くなって)保険、はいっただろっ?」
唐突にA山夫婦は、B﨑さんの姉に詰め寄ったという。
「お前の旦那が自殺して、たんまり保険がはいったんだろ? おれたちにもそれをもらう権利がある!よこせ!」と凄んだという。
実際、彼らはなんの血もつながらない赤の他人だった。お互いの結婚の関係でたまたま遠縁になっただけのことだった。
それでも彼らにはじゅうぶんな屁理屈で兄弟姉妹ばりの親戚になっていた。
「まぁ…、遠縁っちゃあ遠縁だろうけれど。なぜB﨑さんの義兄が亡くなったの知ってるの?」
わたしは、なんでもつじつまの合わない話を理解するのが苦手だ。どちらかというと、背景をちゃんと把握して話を聞きたい人だった。
その質問にB﨑さんは答えてくれた。
B﨑さんもお姉さんも、同郷の地元の人と結婚したのだという。なので、代々農家の義兄のことはB﨑さんの親戚もA山夫婦もよく知っていた。
そして義兄のY貴さんは、数年前、病気がきっかけで片足を切断していた。そのため農家を継ぐことをあきらめて整体師の免許をとって開院することにしたのだという。その開院してまがなくに自殺してしまったらしい。
小さい田舎町なのでそのことは町の隅々まで噂が広まってしまった。
それを聞き付けたA山夫婦が、きっと保険金がおりるに違いない!自分たちにも保険金をわたせ!もらう権利がある!と乗り込んだのだった。
なんというあさましさ…
連日のしつこさに負けそうになってくる… いくらもない保険金をわたしたほうがいいだろうか、と、B﨑さんの姉は母親に相談して、その話が今朝、妹のB﨑さんの耳にもはいったのだった。
自分たちがちょっと知ってるだけの遠縁の親戚の家に、金をよこせとのりこむ、って…
亡くなったばかりなのに保険金をわたせと脅かすって…
そんな人がやっぱり世の中にはいるんだと、話を聞いてほんとうに身震いする気持ちだった。テレビのなかの事件の犯人だけではなかったのだ。
たとえ事件にならなくても、きっと少なからず一定数こういう邪悪な人間は存在するのかもしれない。
そして、ある時、あるタイミングで、ぴったりと誰かがハマってしまうのだ。追いつめられて従うしかない人間がみつかってしまうのだ。
気がつかないほどゆっくりと、被害者は、不幸の沼に静かに落ち込んでいく… そして自力では抜け出せなくなっていく…
沼に住む大きなヒルは、沼に誘い出した獲物の血をジワジワとすする。一滴残らず。それが彼らのやりかただ。
その一歩手前で、義兄は、訴えていた。
決してお金を渡してはいけない!
それが、悪意の沼の入り口なのだ!
妻を守りたい!
なんとしてでも!
何度もB﨑さんの枕元に立って思いを伝えようとしたのだろう。
そして、怒りの気持ちを力にかえて、なんとかレジのお菓子を動かしたのかもしれない。
空中に浮き上がるガム…
人の手でないものが物を動かす力とはいったいどんな力なのだろう…
わたしはポルターガイストを見たことがないが、わたしの知る限りでは、あと2つほどのエピソードを知っている。
2つのエピソードどちらも『怒り』が引き金になっている。
霊というものがいるのならば、強い苛立ちや怒りのエネルギーが強かったとき、そのエネルギーが物を壊したり動かしたりできるのではないか、と考えることがある。
(つづく)