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アオミ

朝の6時半ごろ家を出た。


今日も1限から5限まであった。


どれも面白い授業だけど、
フルコマはやっぱり疲れる。


夕方の5時半過ぎ、最後の5限が終わる。


よし、これで帰れる。


そう思ったけれど、
たった今、5限で出された課題を
なんだか終わらせたい気分になった。


別にそこまで切羽詰まっているわけじゃないけれど、
課題なんて終わらせるに越したことはない。


少しでもやる気があるなら、
やる気のあるうちにやってしまおう。


そう思って、図書館に向かった。


正直、心身ともに疲れてはいる。


そんなに余裕があるわけではない。


それでも、
正義感、圧力、使命感、赤い糸
いや、よくわからない何かによって
こうして「いいこと」をする気になる。


図書館の個人ブースに入り
パソコンを開く。


めんどくさいが、
残った体力を使い果たし課題を終わらせる。


先ほどまで授業を受けており
脳が活性化していたおかげで、
30分ほどで終わらせることができた。


今日すべきことはもう終わった。


やりきった。


緊張の糸がほどける。


心も体も、
本日の稼働が終了したことを知るや否や
いっきにリラックスし始める。


脳が幸福を感じていることを感じる。


おかしな言い回しだが、
あながち間違っていない気もする。


パソコンをリュックに入れ図書館を後にする。


すると、脳内で「アオミ」という曲が再生された。


ゲスの極み乙女。の『好きなら問わない』という
アルバムの最後の曲だ。


非常に悲しくもあり美しい曲だ。


おそらく、
今日という一日が「終わった」という感情が
アルバムの「最後」の曲を呼んだのだろう。


イヤホンを耳に差し込み
「アオミ」を再生する。


 ほんの少し先が見えてしまったんだ
 優しさを躊躇った顔が写った
 誰かが見たらそれは慈愛かのように
 収まったその一枚は美しい
 ラムネのビー玉みたい
 閉じ込められてるから美しい
 出そうとしたら割れるから
 どんな感じで愛せばよかった?
 貴重な記録も怖いと嫌うけど
 写真くらいとらせてよ ツーショット
 記憶が形になってわかった
 やっぱり 怖かった
 気持ちが残した愛おしさは
 君に限っては消えないと思ってた
 ガラスの向こうに問いかける
 追いかける
 いつまで

 泣けども泣けども
 恋は散ってった
 拾った葉の裏側にあった見たことない表情
 表だけで恋なんてしないようにだって
 遅すぎた戒めが今日も上った
 心で吸い込むまでもうちょっとさ


門を出る。


ふと空を見上げる。


もう6時を過ぎている。


分厚い雲が空を覆う。


分厚くも光を通す灰色は
遠くのオレンジと重なり数多の色彩を表現する。


美しい、と思った。


 歪さは常にあって油断したら
 壊れてしまう気配は知っていた
 でも身体を重ねる度
 危機感は安心に変わっていった
 黄昏が近付いてくる音の響き方は
 今も忘れない
 それは一音にも満たなそうな小さな音
 不協和音みたいな倍音だけは永遠に続く気がした
 あなたは季節に跨る用心棒
 そんなリリックを書いた夏の終わり
 パタリと閉じた僕らの夏も
 いち早く秋に向かっていった
 さよならは怖くない
 何回も綴ったのに
 どうしようもなく好きだって
 アオミ

 泣けども泣けども
 恋は散ってった
 拾った葉の裏側にあった見たことない表情
 表だけで恋なんてしないようにだって
 遅すぎた戒めが今日も上った
 心で吸い込むまでもうちょっとさ


門を出て並木道を歩く。


暗闇に目が順応してきたタイミングで
明るい物質が目に飛び込んでくる。


光だ。


一斉に、街灯が点灯したのだ。


光は街路樹に色を与える。



素敵だ、と思った。


 これからまた素敵な人に出会って
 忘れてしまうんだと思う
 でもこの歌は覚えてる
 歌うたび勝手に思い出すよ


 最後の最後に
 好きになったんだ
 愛は恋より勝手だってその時に悟ったんだ
 葉が落ちる前の隙を見逃した
 そんな一瞬が美しいと
 悲しい目をして粋に泣いたんだ


美しいピアノのアウトロ。


住宅街から
「夜ごはん」のにおいがする。


何のにおいかはわからない。


でも「夜ごはん」のにおいだ。


僕の家もあの子の家も
みんな献立は違うはずなのに
みんな同じ「夜ごはん」のにおい。


次の曲は、、、


いや、いいか。


すっとイヤホンをケースにしまった。


何かが始まる予感のする、
そんな素敵な帰り道だった。

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