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今日、久しぶりに彼女と海にきた。
きっかけは、突然の彼女の一言
「ねぇ・・・青春ごっこしようよ」
「え?何それ」
「ほら、よくドラマでやってたじゃない?」
「あー砂浜とか走ったりしちゃうやつか?」
「まぁ、そんな感じかな?」
「じゃ、海にいく?」
「うん、行きたい海に」ということで、、
やたら陽気な彼女の歌を聴きながら、海を目指した。
小一時間くらい走ると、曲がりくねったカーブの向こうに真夏の海がみえた。
小学生くらいの数人の男の子たちが、堤防の上を走っていた。
「ねぇ・・・窓を開けて、エアコンも切ってよ」
「真夏だよ、あの小学生じゃあるまいし」
という、僕の話も聞かずにすでに窓は全開になっていた。
「ほら、海の香りがする。」
熱風といってもよいくらいの熱い風が車内に流れ込んできた。
「わぁーやっぱり暑いなぁ」
子供みたいに顔を半分くらい窓から出して風を受けいた君の髪がやさしく揺れていた。
僕は黙って後部座席の窓も全開にした。
君の髪がいっそうはげしく揺れた。
遠くに見える海岸をみつめながら、
「あそこに見える海岸にいきたい」
「海岸線をそって走れば行けそうかな?」
「じゃぁいこういこう」
いつも子供っぽいところがある君が、今日はさらに子供だ。
曲がりくねった、海岸道路をあいかわらず窓は全開のまま走った。
うっすらと首筋にかいた汗が光っていた。君はあいかわず真夏の風をうけていた。
道沿いにはもう閉店してしまったカフェ、海の家、食事処などをみると昔の華やだった時を感じる。
そんな、時代の流れを感じさせる海沿いの街並みを抜けるてカーブを曲がると、目指す海岸が目のまえに広がった。
「すごいすごい、ついたね」
車を小さな駐車スペースのある灯台の前に止めた。
「さぁ青春しようよ」
勢いよく君は海辺に向かって走り出した。僕は全開な窓を閉めエンジンを切った。
車から降りた時には、もう彼女は波打ち際にまでいっていた。
「早く~って言ってるように」君が大きく手を振っている。
ギンガムチェックのワンピが海風に吹かれていた。
「これはマジで青春ドラマのワンシーンじゃ?」
そういいながら、今日、僕は君の青春ごっこに付き合うことした。
足元の悪い砂浜を進んでいくと。くつとソックスが飛んできた。
「気持ちいいよぉ~」すでに彼女は膝まで海につかっていた。
時折、大きな波がギンガムチェックのワンピの裾を濡らす。
「着替えとかもってきてないからね、濡らすなよ」と言って。
「ねぇ。。これが君のしたかった青春ごっこ?」叫んで聞いた。
「もう青春ごっこはもういいの、、もう満足したから」
「え?なんだただ海にきたかっただけ?」相変わらず気まぐれな子だ。
すでにワンピの裾はびしょ濡れ。
海の青と夏の青い空が水平線で一体となり、彼女がそのはざまで無邪気に踊る。
僕は、流木の上に座って、彼女がける波しぶきをみつめていた。
やっと彼女が海からあがってきた。
「あー楽しかった、、青春ね」
「そんなもんかぁ?」
「うん、こんなもんよ青春て」
「そうだな」と意味のない相槌うった。
彼女が砂まみれの足で流木をまくらに寝転んだ。真夏の太陽を全身で浴びるように両手を空に伸ばした。
「何?してるの」
「なんだか、その雲が捕まえることができそうだったから」
「ほら、こうやったら手のひらに雲が乗ってるでしょ?」
そういいながら手のひらを空にかざしていつぶやいた。
「あの雲ってひかるは何に見える?」
ひとつの雲のかたまりを指をさした。雲はどんどん形を変えていく。
「そうだなぁ?」何かを答えようとしたら
「やっぱりいい。言わないで」
「どうして?」
「ひかるが何に見えたかわかるから」
「じゃ何に見えたと思うの?」
「内緒」
「それじゃ正解かどうかはわかんないよ」
「大丈夫、だって私はひかるの思ってることはなんでもわかるから」
彼女は空をみつめながらつぶやいた。確信にみちた言葉にドキッとした。
「そう、私はひかるの思ってることはなんでもわかるから」
「だから、何もいわなくていいよ。なんでもわかってるから」
僕は彼女へ返す言葉を失った。
「ずっと一緒にいるんだから、ずっと青春するんだからね」
彼女はずっと空をみつめていた。
僕は彼女の顔を覗き込んだ。泣いてた。キラっと
僕はそっとおでこにキスをした
「ごめん、そしてありがとう」
僕は今日、彼女に別れを告げるつもりだった。
でも僕はその言葉を呑み込んだ。


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