ナシーム・ニコラス・タレブの「反脆弱性 不確実性を生き延びる唯一の考え方」を読んでみて

こんにちは、ヒカルです。
今回はナシーム・ニコラス・タレブの「反脆弱性 不確実性を生き延びる唯一の考え方」を読んでみたので、それの要点をまとめてみようと思います。


反脆さとは?

まずこの本の独特な表現である「反脆さ(または反脆弱性)」を抑えていきたいと思います。

反脆さ(または脆弱性)とは、受けた一定の衝撃を自身の利益にする事ができる特性の事です。
(反脆さは頑強さとよく勘違いされます。頑強さは衝撃に強いもののそれか  ら利益にする事はできません。)

例えば、ロウソクの火に風が吹きつけた時に、さらに燃え上がる事を反脆さと言えます。

反脆さは自然の中でも見られ、それは「ホルミシス」と呼ばれる現象だ。
「ホルミシス」とは少量の有害物質が生物にとって有益な効果を発揮する。

また「ミトリダート法」と呼ばれる方法もある。
少量の毒物を定期的に少しずつ増やしていく事で毒耐性を得る方法もある。

これらの理由は体が過剰補償という性質を持っているからです。
過剰補償とは(ある程度の)ストレスは体をさらに強くなる事です。
ストレスはある程度は体を強くするようです。

今までは反脆さを個人の生物活動を見たわけですが、
これが集団や階層の中で行われると少し違ってきます。

集団での反脆さは「進化」を例にとるとわかりやすいです。
進化は、環境に対して適応できない生き物がすべて死滅して、
偶然にも環境に適応できた生き物が生き残ります。

こうしてみると反脆さは見られないように思えますが、
適応できず死滅するという情報を残してくれています。
死滅する事で、代わりに生き残る生き物が繁栄します。
この反脆さは個ではなく生き残った生物の遺伝情報の反脆さです。

これは「オートファジー」と呼ばれる現象のように、
弱い細胞を先にエネルギーに変換して、全体の平均として強い細胞が残る事に似ています。

個と集団の利益は相いれず、集団が反脆さを持つには個が脆さを持っていなければいけないです。
つまり、集団は他の人が失敗する事で、失敗しないようになって強くなります。

現代性と反脆さの否定

先ほど見たようにある程度のストレスは、より環境への適応を進めてくれます。

ストレスとなるランダム性がシステムをかき乱す事で、
リスクとなるエントロピーが小さいうちに発揮されます。
(山火事が頻繁に起こる事で、燃焼物質が溜まらない。
 そのために大きな山火事に至らない。)

そのためエントロピーが溜まる事がなくて、ブラックスワンが起こる余地がありません。

日本でいうならヒヤリハットでしょうか。
わざと失敗が起こる(失敗を防ぐのではなく)ようにして、
その失敗が起こらないようにシステムを変えるようにします。

ランダム性を取り入れたシステムは色々あります。
冶金における焼きなまし、アテナイの議員はくじで選ばれていた事。

このようにランダム性をシステムに入れる事で、環境への適応させる事が出来ます。

しかし現代社会はすべてが計測可能なものであると考えて、
ランダム性を放棄し過干渉を極めています。

その極めつけが「医原病」と呼ばれ事です。
医原病とは、医療が原因となって起こる病気という事です。

19世後半には医原病がピークを迎える事となり、この頃には家よりも病院で子供を産む方が危険でした。
(有名なところは瀉血。)

情報が増えれば増えるだけ賢くなった気がしてきますが、
情報は増えれば増えるだけ、いらないノイズが増えてきます。
1年単位でニュースを見ると1:1の割合でノイズだけれども、
1日単位でみるとノイズは95%になり、
1時間単位で見るとノイズは99.5%となってしまいます。

このように情報が増えれば増えるほど、
それに従うと間違いやすくなってしまいます。

タレブは干渉について、
システムに干渉する場合と放任する場合を決めておくべきとしています。

ブラックスワンで語られているように未来を予測する事は不可能です。

しかし、将来に備える事はできます。

  1. システムの脆さや反脆さを見極める。
    予測のミスで受ける損失を最小化し利益を最大化する方法を考える。

  2. 問題や予測に対して頑強なシステムを築き、苦難を逆手に取る必要がある。

予測無用の世界観

脆弱性と反脆弱性についてこのようにまとめる事ができます。

脆弱性=得るモノよりも失うモノの方が多い
   =アップサイドよりもダウンサイドの方が多い
   =(悪い意味の)非対称性

反脆弱性=失うものよりも得るモノの方が多い
    =ダウンサイドよりもアップサイドの方が多い
    =(いい意味の)非対称性

反脆弱性になるには、ダウンサイドよりもアップサイドの方が多いようにする必要があります。
それを可能にする方法として、「バーベル戦略」があります。
バーベル戦略とは90%低リスクのものに投資し、10%は高リスクのものに投資するものです。

高リスクのものに10%投資する事でアップサイドに身を晒しながら、
ダウンサイドに対しては10%で済むようにリスクを管理する事です。

オプション性、技術、そして反脆さの知性

脆弱性と反脆弱性について先ほどまとめたが、
その非対称性について「オプション性」と呼ぶ事にします。
ここにタレスの逸話があります。

哲学者のタレスは商人に嫌味を言われて哲学者が考えてばかりの人間でない事を証明するために、オリーブの収穫時期を見越してミレトス周辺のオリーブ搾油機を借り占めた。
その年は豊作となるとタレスはオリーブ搾油機を意のままの条件で貸出て、冨を築いた。

この話にはオプション性が見られます。
低額の損を受け入れて、将来の大きなペイオフにかける事です。

このオプション性はイノベーションの世界にも見られます。
タレブはイノベーションが技術者のいじくりで生まれるとしています。
これは「セレンディピティ」と呼ばれます。

そのため、技術者のいじくり→イノベーションの経緯を取ります。
技術者が持っている曖昧な実践的な知識が論理に優先されるのです。

イノベーションはその存在自体がブラックスワンであり、
その性質上予測する事はできません。
そのため計画にイノベーションを入れる事は不可能です。

あれも非線形、これも非線形

まず非線形について説明したいと思います。
非線形とは反応が単純な線形の形ではない事です。
例えば、薬を2倍服用したとして2倍の効果が得られないようにです。



脆いものは衝撃が増えるほど被害が増える非線形の特長を持っています。
それは1000個の小石を投げつけられる事と1個の大きな石を投げつけられる事が違うように累積的な効果ではなく、
めったにない1回の衝撃の方が大きな被害につながるという事です。

脆さとはまだ壊れていなくて非線形な効果にさらされているモノを指す。

1個の大きな石と累積的に1000個の石が同じとしても、死につながるのは大きな石の方だ。
それは、小さな変化や衝撃の累積は大きな変化や衝撃よりも不釣り合いに小さいと言えるだろう。

非線形は二つに分けられる。
話を単純にするためにダウンサイドよりもアップサイドが多いモノを凸効果とする。(その逆を凹効果。)

凸効果(非線形の効果)は交通によくみられる。
朝早くは車が少なく通りやすいが、それが出勤時間とかち合うと渋滞にはまってしまう。自動車が十数%増えた事で所要時間は数十%になる。

1時間に9万台、その1時間に11万台の車が来ると、
2時間10万台の車が来るよりも速度はかなり遅くなる。
このことから道路は車の台数の変動性に脆いと言える。

この例は”効率化”と”最適化”されたシステムの脆弱性を示している。
空港や鉄道はめいいっぱい機能しているように見える。
しかし、ちょっとした遅延や変動が起こると大混乱に陥る。
効率化と最適化されたシステムには冗長性がなく、変動性に脆いからだ。

ナシーム・ニコラス・タレブの他の本もまとめているのでぜひご覧ください。


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