世界遺産~国立西洋美術館編~
1世界遺産の概要
東京都にある国立西洋美術館は世界遺産の建築家ル・コルビュジエの建築作品を構成する遺産の一つです。正式な登録名は「ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」となっています。この世界遺産は日本を含むアルゼンチン共和国、インド、ドイツ連邦共和国、スイス、フランス共和国、ベルギー王国の計7ヵ国に点在する 17 の資産で構成されています。このような大陸をまたいで一つの遺産として登録された世界遺産のことを「トランス・コンチネンタル・サイト」と言います。
近代建築の概念が全地球的規模に広がり実践されたことを証明していることに加え、21 世紀の建築文化に影響を与えました。
2登録基準
ル・コルビュジエの建築作品は 2016 年の世界遺産委員会で 10 個ある基準のうち(ⅰ)(ⅱ)(ⅵ)の 3 つの基準が認められ登録されました。
●(ⅰ):人類の創造的資質や人間の才能を示す遺産
人類の創造的才能を示す傑作であり、20 世紀における建築の諸問題に回答を示した顕著な例となっています。
●(ⅱ):文化の価値観の相互交流を示す遺産
ル・コルビュジエは過去の建築と決別する独自のスタイルを生み出し、建築に革命を起こしただけでなく、20 世紀に巻き起こった建築運動の多大な影響を与えました。その建築運動は世界規模に発展し、文化の交流に大きく寄与しました。
●(ⅵ):人類の歴史上の出来事や伝統、宗教、芸術などと強く結びつく遺産
近代建築の近代化や社会と人間のニーズに対応する建築運動の試みが建築作品に現れていると言えます。また建築と絵画、彫刻の統合を反映した芸術概念である「エスプリ・ヌーヴォー」を示しています。
3ル・コルビュジエとは
ル・コルビュジエは本名をシャルル・エドゥアール・ジャンヌーレといい、スイスのラ・ショー・ド・フォンで時計職人の父親の下に生まれました。ちなみにコルビュジエの生まれた街ラ・ショー・ド・フォンも時計産業の町として世界遺産に登録されています。やがてコルビュジエはフランスを拠点に活動しオーストリアやドイツなど多くの国で建築に携わり、それらの国で優れた建築作品を残し、近代建築に新たな道を開拓しました。また建築運動にも深く関わっており、画家のアメデオザン・ファンと共にピュリズム運動と呼ばれる運動を展開しました。さらに 1928 年に始まったCIAM(近代建築国際会議)では著名な建築家らと共に中心的な役割を果たしました。こういった活動をしていき世界中で有名になると多くの人々が彼のものを訪れ、日本からは前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の 3 人が「日本の 3 大弟子」として大きな功績を残しました。
そういった傑出した功績から、アメリカ人建築家フランク・ロイド・ライト、ドイツ人建築家ヴァルター・グロピウス、ドイツ人建築家ミース・ファン・デル・ローエらと共に近代建築の四大巨匠に名を連ねています。また日本の世界遺産にはあまり関係がありませんが、コルビュジエ以外の3人の四大巨匠の建築作品もそれぞれ世界遺産に登録されており、彼ら 4 人が近代建築に与えた影響は計り知れないものとなっています。
・「フランク・ロイド・ライトの 20 世紀の建築」(フランク・ロイド・ライト/アメリカ合衆国)
・「バウハウス関連遺産群:ヴァイマールとデッサウ、ベルナウ」(ヴァルター・グロピウス/ドイツ連邦共和国)
・「アールフェルトのファーグス靴型工場」(ヴァルター・グロピウス/ドイツ連邦共和国)
・「ブルノのトゥーゲントハート邸」(ミース・ファン・デル・ローエ/チェコ共和国)
4ル・コルビュジエの考案した建築概念
ル・コルビュジエは機能主義の建築家です。それを表わした彼の言葉としては「住宅は住むための機械である。」があります。そんな彼が打ち出した近代建築の重要な概念は「モデュロール」「近代建築の五原則」「ドミノ・システム」の3つです。
◆モデュロール
「Module(モデュール:寸法)」と「Section d’or(セクシオン・ドール:黄金比)」を組み合わせた造語で、建築の際に天井などの寸法を人体のサイズを基準にするとしたルールのことです。
◆近代建築の五原則
➀ピロティ :建物の 1 階の柱で建物を支え 1 階部分に吹き抜け空間を作る
②屋上庭園 :水平な屋上を作り、庭園を築く
③自由な平面設計 :空間を仕切る壁により多様な部屋を作り出す
④水平連続窓 :壁に幅広い窓を設置して明るい室内空間を作る
⑤自由なファサード:様式にこだわらない自由なデザインを可能とする
◆ドミノ・システム
「ドミノ(Dom-ino)」は、ラテン語の「Domus(ドムス:家)」と「Innovatio(インノヴァティオ:革新)」を組み合わせた造語であり、鉄筋コンクリートの床と柱、階段のみを建築の主要な要素とすることで、壁が建物を支えるという構造から脱却することに成功しました。
5構成資産
■国立西洋美術館
日本にあるコルビュジエの作品で、松方コレクションと呼ばれる美術コレクションを展示するために 1959 年に日本政府が建てた美術館です。「無限成長美術館」という概念が用いられており、将来的に展示作品が増えたときに螺旋状に展示室を外側に増やしていくことが可能となっています。
■ラ・ロッシュとジャンヌレ邸
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1923 年にパリに建てられました。「建築的プロムナード」という概念が用いられています。
■レマン湖畔の小さな家
スイスにあるコルビュジエの作品の一つで、1923 年に彼の両親のために建てられました。
■シテ・フリュージェ(ペサックの集合住宅)
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1924 年に設計された集合住宅です。
■ギエット邸
ベルギーにあるコルビュジエの作品で、1926 年に設計された画家ルネ・ギエットの邸宅です。
■ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅
ドイツにあるコルビュジエの作品で、ミース・ファン・デル・ローエが責任者となって 1927 年に開催された住宅建築展に出展されました。
■サヴォア邸と庭師小屋
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1928 年にサヴォア夫妻の別荘として設計されました。「近代建築の五原則」のすべてが用いられていることが特徴で、傑作とされています。
■イムーブル・クラルテ
スイスにあるコルビュジエの作品の一つで、1930 年にジュネーブに設計された集合住宅です。
■ポルト・モリトーの集合住宅
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1931 年にパリ近郊のブローニュの森に設計された集合住宅で、コルビュジエの住居もあります。
■マルセイユのユニテ・ダビダシオン
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1945 年にマルセイユに設計されました。厳格にモデュロールが採用されているのが特徴です。
■サン・ディエの工場
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1946 年に友人の依頼で設計された繊維工場です。
■クルチェット邸
アルゼンチンにあるコルビュジエの作品で、1949 年にブエノスアイレスに設計された医師ペドロ・ドミンゴ・クルチェットの邸宅です。
■ノートル・ダム・デュ・オ礼拝堂(ロンシャンの礼拝堂)
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1950 年に聖職者アラン・クチュリエの依頼でロンシャンに設計されました。
■ル・コルビュジエの休憩小屋(カップ・マルタンの休憩小屋)
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1951 年に設計され妻に贈った休暇小屋です。
■キャンディガールのキャピタル・コンプレックス
インドにあるコルビュジエの作品で、1952 年に行われた都市計画のことです。
■サント・マリー・ドゥ・ラ・トゥーレット修道院(ラ・トゥーレットの修道院)
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1953 年に設計されました。急な坂に建てられているのが特徴です。
■フィルミニ・ヴェールの身体と精神のレクリエーション・センター(フィルミニの文化の家)
フランスにあるコルビュジエの作品の一つで、1953~65 年に設計された文化施設です。
6まとめ
今回はル・コルビュジエの建築作品について書いてみました。近代建築の四大巨匠の一人として近代の建築を一変させたル・コルビュジエ。彼のすごいところは彼が設計した建物自体にもあふれていますが、それと同じくらい打ち出した建築概念や建築運動にも残っていると思います。彼の考案した事柄は間違いなく現代の建築家や建築作品に受け継がれています。今後の世代にも残していくためにも遺産をしっかりと保護していくことが大切です。
参考文献
・『すべてがわかる世界遺産1500上』世界遺産検定事務局、マイナビ出版
・『すべてがわかる世界遺産1500中』世界遺産検定事務局、マイナビ出版
・『すべてがわかる世界遺産1500下』世界遺産検定事務局、マイナビ出版
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