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海でもくもくとガラスを拾う
ある日、私はいつものように海でガラスのかけらを拾い集めていた。
このガラスのかけらを「シーグラス」という。シーグラスとは、海に流れ出たガラス製品が波や岩にぶつかり、長い年月をかけて削れて丸くなったものだ。
私は海のある街で、シーグラスを使ったものづくりをしている。つくっているのはちいさなアート作品や、結婚証明書。
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ものづくりを始めたのは、自分の結婚式がきっかけだった。「地球にやさしい結婚式」をテーマに、一つ一つこだわって自分たちで準備をした。その結婚式の準備で生まれたのが、海に落ちているシーグラスを使った、オリジナルの結婚証明書だ。
完成した結婚証明書を見たとき、光に当たってきらめくシーグラスにほっと癒されたのを今でも覚えている。これを自分だけでなく誰かにも届けたいと思い、シーグラスを使ったものづくりを始めた。
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海でシーグラスを拾っていると、他にもゴミがたくさん落ちていることに気づく。そのうちシーグラスと一緒に、マイクロプラスチックや目につくゴミも拾うようになった。
砂浜にしゃがみ込み、もくもくと手を動かす。手を砂だらけにしながら。波で足元を濡らしながら。ときどき顔を上げると、きらめく海が疲れを癒してくれた。
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材料集めからやるなんて、なんて効率が悪いんだろう。それでも海でガラスを拾うのは、拾っている時間が心地いいから。そして自然がつくりだした形に、私自身が魅了されているからだ。柔らかな丸みを帯びた美しい形は、まるで海からの贈り物のよう。
拾ったシーグラスは洗浄、煮沸消毒、天日干しをしてからものづくりに使う。時間はかかるし、大量生産はできないけれど、砂浜の上で見過ごされていたシーグラスが、誰かの暮らしの中できらめき、日々をやさしく彩ってくれたら。海の穏やかで澄んだ空気も、作品といっしょに届けられたら。そんな人と自然を想うものづくりは、私の心にも安らぎをくれる気がする。
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一人でシーグラスを拾っていると、ときどき散歩をしているおじいさんが「これ、どうぞ」とシーグラスをくれることがある。近くに住む友人が、拾ったシーグラスを届けてくれることもある。そんなささやかで平穏なやり取りができるのも嬉しい。
速さや便利なものであふれた世界に、スロウでちいさなやさしさがあること。人間らしい、あたたかな手ざわりを感じられること。
自然から人の暮らしへの循環をつくることが、私の喜びであり、今できることなのだ。
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