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博士号って意味あるの?~VUCA時代を生きぬくキャリアとは~

私は2020年に保健学博士号を取得しました。

博士課程にいるときは至極当たり前のように「学問極めるなら学位とらないと」と思っていましたが、いざ博士をとり、(日本の)社会で働き始めると”博士”について、私の理解と社会の位置づけに大きな乖離があることを知りました。

今回は少し大胆なテーマですが、VUCA時代の今の社会における博士号の意味について、博士号取得者としての職務経験を通じて考えます。

私は一社目は国立大学工学系研究所で勤めました。
大学・研究機関で正規職員として働くためには修士号以上が概ね求められ、”助教”といった教授職に就くためには最低限博士号の取得が求められます。
私は特任助教として勤務をしました。アカデミアで働く場合は間違いなく博士号は必須ですので、わかりやすい形で博士号の意味が理解いただけると思います。

アカデミアから民間企業へ移ると博士号は意味はあるか?

一般的に博士号を持つ人が民間企業にいくことはとても珍しく、
博士号=研究職・教授職といったイメージが強いかと思います。
研究所での任期更新の際民間企業に挑戦したいと考え、転職を決めました。
早速転職エージェントと相談をすると、色々と質問をされました。

「博士号までで学んだ専門性はいかせないがよいか」
「博士号があるのであれば研究職がよいのではないか」
「〇〇企業では博士号保有者を採用したことがないので、どのような対応になるのかわからない」

当時すでに就労経験があったため中途採用での応募でしたが、
博士号をもっていること+年齢(29歳)ということで、転職市場は厳しいことを度々言われました。

つまり、民間企業にとっては博士号=専門性が高すぎる+若くない+企業組織を知らないという印象になるといえます。
特に大企業にとっては、中途者であっても企業のやり方に準じた業務を求めるため、博士人材はうまみが感じられない印象です。

その背景でご縁があったのはヘルスケアスタートアップの企業で、私が専門とする音楽X健康の文脈での新規事業立案・立上げのお誘いを頂きました。

スタートアップでは、科学的根拠に基づく事業展開として、論文や政府レポートを中心とした公的文書等に基づく業界のホワイトペーパーの作成等を行いました。
その後、大きな経営方針変換に伴い転職を余儀なくされ、
続いて3組織目として某日系コンサルティング企業へ転職しました。その会社はすでに博士号の中途採用経験があったことから博士人材には寛容でした。
とはいえ、博士人材の採用経験=博士専門性が活かせる ではなく、
あくまでも博士号をとった人の採用経験があるといった位置づけです。

担当した業務は、ヘルスケア全体に関わるプロジェクトで、音楽はありませんでしたが、博士課程で多様な研究者や専門家と関わった経験からアサインされるプロジェクト全てを自分事としてとらえていました。また自身のネットワークを通じて共同研究を作るなど、常に意見を出しながら主体的に業務に従事していました。上司からは”自律的行動”や”主体性”を重宝されていました。
その後民間企業2社での経験を踏まえて、2024年に起業し、
今は博士起業家としての道を歩き始めています。

民間企業2社の経験を踏まえると、就職のしやすさや給与をあげたい目的の場合、日本の民間企業においては必ずしも博士号は大きな意味はもたらさないと感じています(※理系で専門的な技術を応用する場合の民間転職はこの限りではありません)。そうなると、「博士号なんで無価値」「博士は時間の無駄」などなど色々と批判の声が想像できます。
一方、もしあなたが、自律的キャリアを構築したいと思うのであれば、博士号はとても大きな意味や意義をもつ学位です。

博士号=一つの専門性を成し遂げるGritもつ人とみるならば、私はそこに深い価値があると思います。

博士号を取得するためには、自分の指導教授からの審査、5名程度の教授陣から審査をされ、学術雑誌への投稿に伴う国内外の研究者からの審査を受ける必要があります。
また、審査に行き着くためには、朝晩学術論文を読み続ける日々、ナイフのように鋭い指導教授からのコメントとのやりとり(泣かされることはざら)、終わりの見えない論文編集、ほしい結果が全く見えない終わりなき実験、地域社会でフィールドを探し研究依頼のための粘り強い交渉等を、一人で走り続ける3~5年を過ごします。
また博士号取得者は、学術的な新規性や意義がある研究結果を出す必要があり、好きなことを好きなように研究するだけでは学位を取得することはできません。

つまり、博士号は、不確実性が高く将来を見通しにくいVUCA時代において、自分の専門とする分野において、自律的に考え、俯瞰的に物事を考え、完遂する力をもち、尖った専門性をもっていることを表します。

あらためて「博士号って意味あるの?」という冒頭での質問に戻ると、
自律した生き方を求められる今の時代こそ博士号の意味があるといえるのではないでしょうか。

2024年2月に経団連は、博士人材に関する提言を発表しました。
(参照URL:https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2024/0229_02.html

経団連(2024年)博士人材と女性理系人材の育成・活躍に向けた提言より参照

博士人材の育成・活躍を推進する背景として下記が記載されています。

第一に、諸外国では、博士人材の育成・獲得・活用が積極的に進められている一方、日本は博士号取得者数が低水準かつ横ばいで推移している。また、一部の業界を除き、多くの企業は博士人材を積極的に採用していない。そのため、将来の国際競争力を見据えると、日本は諸外国に劣後する懸念がある。第二に、資源の乏しい日本は「先端技術立国」「無形資産立国」を目指すべきであり、特に少子化・人口減少の進行が著しいなか、高度専門人材の重要性が増している。第三に、高度かつ社会のニーズに合った大学院教育を通じて、高い専門性に加えて、高度な総合知や汎用的能力等を身に付けた人材は、企業で活躍できる領域が広い。第四に、大学発スタートアップの成長にとっても、博士人材の育成は不可欠である。

経団連(2024年) 博士人材と女性理系人材の育成・活躍に向けた提言より

博士号取得者が少ない背景には、前述した「給与に繋がらない」「大企業に入社できない」など短期的なニーズに応えないことがあると思います。
VUCA時代において学ぶことは、小・中・高の12年+学士4年間(+修士2年間)で十分とは言えず、日々進歩する技術、複雑化する人間の生活を適宜アップデートする必要があります。それに伴い、日本はメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用にシフトチェンジする必要があり、個人の自律を得るための基礎作りが最も重要な時代になっています。

つまり、高度な専門性や横断的な知見を身に着けることができる博士号は、VUCA時代において非常に重要な意味を持つと、私は考えています。


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