本番じゃないところで、変化と成長は起こってる。


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大人のゴール、子どもたちの日常

「子どもの気持ちや姿が真ん中にある、運動会をしよう」と、子どもたちと種目を決め、遊びの中で経験をし、当日を迎えたうみのこの運動会。

まずは無事開催できて、本当によかった。

無事とは言っても、大人が前に立って教え込むような練習はしてこなかったので、子どもによってはほぼぶっつけ本番の種目があったり、当日になって「やらない」を選択する人もいました。海岸という公共空間で行ったこともあり、思いがけないハプニングや当日のドタバタも付き物です。

一人ひとりが今好きなこと、挑戦したいことなどに取り組む「チャレンジ」という種目に関しては、竹のぼりや縄跳びなどスポーツと呼ばれるものをする人もいれば、今年は大きな絵を砂浜に描く人や、チアダンスを踊る人もいました。

いわゆる成果主義な“見世物”的な運動会をイメージされると、「え、こんなのでいいの…?」と思われるような出来(そもそも出来がいいとか悪いとかではないんだけれど)だったかもしれない。

でも、そんな大人の事情やしがらみから解放され、何を選び、どう向き合うのか、自分の行動への「自由」と「責任」を持った子どもたちの姿には、本当にグッとくるものがありました。

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そして、改めて思ったのは、大人たちが“本番(ゴール)”にしているこの日を、子どもたちは“日常の中の一日”として過ごしている、ということ。

彼らは、運動会を終えたあとも、海に行けばかけっこをし、室内ではダンスバトル(チアに感化された男の子たちがブレイクダンスを始めた…!)を繰り広げています。

なんで本気で走らなかったんだよ!

特に年長児の子どもたちの中には、「速くなりたい」という気持ちが芽生え、朝走って登園してくる子がいたり、ルールを作り替えながらリレーやビーチフラッグを楽しんだりと、運動会における自分自身や友だちの姿、経験をたっぷりと吸収し、それぞれに歩みを続けているように感じます。

そんな日々の中、その日もリレーをしていた何人かの子どもたち。負けてしまって悔しかったケンが同じチームだったカズに、泣きながらぶつかる姿がありました。

ケン「なんでほんきではしらなかったんだよ!!」

カズ「だって、カニぐみ(年中)があいてだったから、よわきにしたんだよ」

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その姿を見守っていたれおっち(保育者)は、こんなことを書き残していました。

カズがカニ組のはやさに合わせるのを見ていて思ったのが、入園当初に比べたらかなり足が速くなったこと。勝負では何度負けても諦めず、一生懸命何度もなんども走ったことで、脚力もつき、勝つ事が増えた。

だからこそ、カニ組に合わせるまでになったんだなと。必死に走らなくても同じくらいの速さになり”余裕”という気持ちを手に入れた喜びみたいなものもあったんだと思う。手を抜いて走る事はそんなにないから。

そんな時に、いつも真剣勝負で勝負ごとにはうるさいケンが泣いて本気で気持ちを伝えてきた。カズの表情からは申し訳ないという気持ちも伝わってきた。

カズとケン、ふたりの成長と思いを感じる場面だった。

勝つことだけが一番じゃないんだよね

もうひとつ、とても印象的な子どもの姿がありました。

前回の、「運動会、どうしよっか。」のnoteにも少し書きましたが、「わたしは、かけっこしたくない」と、運動会当日まで一度も走らなかった子がいました。年中児のユイナです。

ユイナはこの春うみのこに転園してきた女の子。周りのことをよく観察し、失敗することが少し苦手。鬼ごっこやトランプなど勝ち負けがある遊びは基本的にはしないし、クイズなんかにも絶対参加をしないような子でした。

そんなユイナですから、大勢の前でかけっこをするなんて以ての外。「一緒に手繋いで走ってみる?」「ユイナがやりたいという気持ちになるのに、何か手伝えることあるかな?」と聞いてみても、「ユイナはやらなくていい」の一点張り。そうだよね、イヤなものはイヤだよなぁ、でも、走るという選択をユイナができることも応援したい・・・そんな気持ちの中で、私自身も揺れました。

揺れながらも、しばらく話をしてみると、どうやら運動会をやるのがイヤだというわけではないようで。

「まえのえんでは、メダルがもらえたんだよ。わたしがみんなのぶんつくるから、うみのこでもメダルをプレゼントするのはどう?」

と、ユイナの方から提案をしてくれました。

競技に参加することだけが、運動会への関わり方じゃない。
翌日から、大切にしていたであろうキラキラしている折り紙や、リボンやユニコーンが描かれている折り紙を家から持ってきてくれて、メダルづくりがスタートしました。

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そんなユイナの姿を近くで見ていたのが、年長児のコウタ。この写真にも写っていますが、「ユイナなにしてるの?へぇ、メダルつくってんだ。え、25こも?!じゃあおれもやろうかな」と、普段は折り紙なんてほとんどしないのに、一番最初にメダルづくりに加わったのが彼でした。

「このメダルは、ユイナがつくってるだいじなやつだから!うんどうかいのひのプレゼントだからね!それまでとっちゃだめだよ!!」

『うんどうかいのめだる。だいじなはこ』と書かれた箱に、日に日に増えていくメダル。メダルづくりの輪は広がり、たくさんの子どもたちが少しずつ手伝い、「これは大切にしてそうだぞ」と、みんながそれぞれに、このメダルづくりを大事にしていたように思います。

その中でユイナにも変化がありました。かけっこは走らないけど、二人組になって走る「旗リレー」では走ったり、自分でやりたいことを決めるチャレンジ競技では「チアダンス」をやると決め、当日まで毎日のように踊り、友だちに振りを教え、衣装まで考えたのです。

メダルづくりのプロセスと友だちとのやりとりから、大きな自信と「みんなのまえだったら、やってみてもだいじょうぶかも」という安心感を得ての変化だったんじゃないかと、日に日に変わっていく彼女の姿を見て感じました。

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そして、迎えた運動会当日。かけっこも走り、笑顔でチアダンスを踊り、みんなにメダルを渡すユイナの姿がありました。走ったほうがいい、というわけではないけれど、でもそれでもすごく嬉しかったなあ。

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運動会が終わったあと、コウタのお母さんがこんな話をしてくれました。

コウタって、一番になることにこだわるタイプだし、そこに向けて練習をして勝てることに、喜びや達成感を今まで感じてきたけど、勝ち負けではないチアに取り組んだり、メダルを作ったり、運動会までかけっこも走らないユイナの姿を見て思うところがあったみたいで。「ねぇ、おかあさん。かつことだけがいちばんじゃないんだよね」と、おうちでいってたんです。

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ユイナの変化が、コウタの変化を生んだ瞬間。もちろん、メダルづくりもチアダンスも「いいねいいね!」と応援してくれたコウタの姿がユイナの変化を生んでいたと思います。

人は人との関わりの中で、いい意味で勝手に感じて、育っていくんだよなあ。

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