藤原光璃

公募のコンテストに向けたエッセイと小説を書いています。公募の規程に触れないようにするため、結果発表後に投稿先と結果を公開しています。作品投稿サイトの場合にはリンクしています。 ご連絡やリクエスト等は以下のアドレスまでお願いします。 hikari88com@gmail.com

藤原光璃

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最近の記事

一粒の光

病室の窓から差し込む朝日が、点滴の液体に反射して壁に落ちる。それは生気のない陰影のようだった。肺炎で入院して3日目、体は横たわったまま、曇りガラスのような点滴液の滴りだけが時を刻んでいた。 かつて当たり前だった「食事の時間」が、今では遥か遠い記憶のよう。点滴から栄養は入るはずなのに、体の奥底から湧く空虚感は消えない。それは単なる空腹ではなく、生きている実感の欠如だった。 病室に漂う無機質な白さが、記憶の中の食事の彩りを押しつぶす。「いただきます」の声は、今や無言の点滴の滴りに

    • 静寂の中の生命

      漆黒の闇が、青白い光の残骸を飲み込む。瞼を閉じれば、デジタルの幻影が揺らめく。在宅勤務という名の孤島に閉じ込められていた。 ある夜、ふとSNSを開くと、運命の光が煌めいた。ハオルチア。硝子細工のような葉が、宇宙の結晶のように輝いている。 衝動に駆られ手に入れた小さな鉢。しかし、その存在感は部屋中を満たすほどに大きかった。指先で触れる葉の感触。それは、画面越しには決して味わえない生命の鼓動。乾いた土の香りは、忘れかけていた大地の記憶を呼び覚ます。 ある日、Web会議の最中に結晶

      • 私だけの物語を紡ぐ場所:副業ライターが見つけたおうちワークの喜び

        朝日が差し込む静かな一室。パソコンの起動音と共に、私の「もう一つの顔」の一日が始まります。38歳、昼は会社員、夜はフリーランスのライター。おうちワークで副業を始めてから1年が経ちました。 最初は不安でいっぱいでした。仕事と副業の両立ができるのか。ライターとして通用するのか。毎日の生活にどう組み込めばいいのか。そんな悩みを抱えながらのスタートでした。 「また夜更かし?」パートナーの優しい声に、ふと我に返ります。気がつけば深夜0時。没頭しすぎて、また時間を忘れていました。「ごめん

        • 「まあまあ」:中途半端な一言に秘められた可能性

          私の推しの言葉は「まあまあ」です。 日本語には多様で美しい表現が溢れている中で、なぜこんな中途半端な言葉を選ぶのか、疑問に思う方もいるかもしれませんが、「まあまあ、落ち着いて。」以下に私が「まあまあ」を推す理由を説明します。 「まあまあ」という言葉は、私たちの生活を織り成す無数のグレーゾーンを適切に認識し、理解するための万能の言葉です。完全な純白と漆黒の二元論ではなく、それらの中間に広がる評価を行うための重要な手段なのです。 現代の世界は極端さが推奨される傾向にあります。

          スクリーン越しの「笑」:デジタルとアナログの狭間で

          私たちは、スマートフォンのスクリーンを通じて「笑」という文字で笑い合い、些細な報告をし、最近気になったニュースのリンクなんかを送り合う存在だった。その存在は、学生時代からの親友、大樹。違う道を選んだ私たちは、それでもスマートフォンの画面を通じて日常を共有していた。私はビジネス、大樹は医師として、それぞれの道で日々を送っていた。 卒業後何年経っても、私たちは画面を介して「笑」を送り合い、最近の出来事を報告し、面白い記事や写真や動画を共有した。お互いに最も送る頻度が高い返事は「

          スクリーン越しの「笑」:デジタルとアナログの狭間で

          ベッティングからビヨンドへ

          「え、競馬?趣味悪くない?」 かつての私は、競馬をまさにそう捉えていた。賭けに熱中する人々の下品な営み、ハズレた馬券が空に舞い、粗野な態度で埋め尽くされた場所、その中には行き場のない中年の男たちがワンカップ大関を手に溢れている。そして何より、馬が怪我をしたり役目を終えたら容赦なく命を絶つという、欲望にまみれた道徳的に問題あるギャンブル狂の楽しみだと考えていた。  ところがある日、ふらっと訪れた浅草のカフェでのある出来事が私の視点を一変させた。コーヒーを注文しようと店員を呼び止

          ベッティングからビヨンドへ

          留学の心の拠り所:未知の土地での支えと絆

           学生時代、留学という大きな一歩を踏み出した時、私は多くの不安や期待を胸に秘めていた。新しい土地、新しい文化、そして新しい言語。そんな未知の環境の中で、思っていた以上に困難や挑戦が待ち受けていた。そんな中、節目節目での困難を乗り越える力となったのは「食」であった。  渡英前、私は自らの英語能力に自信を持っていた。学校での成績は常にトップクラスで、外国人とのやり取りでも通訳を担当する程であった。異国の地でもコミュニケーションに困ることはないはずと考えていた。しかし実際に留学先で

          留学の心の拠り所:未知の土地での支えと絆

          生まれ変わる街角: 土地の変容と地域社会

          私の住む町には、かつて、賑やかなマンションが存在していました。家族や若者、高齢者たちが行き交う生活感溢れるマンションで、私たちは町内会のイベントを中心に様々な交流を楽しんでいました。しかし、建物はやがて時の流れと共に老朽化し、最終的に取り壊しの決定が下されました。マンションが消え、一面の更地となったその時、私たちは新たな可能性に期待しました。 しかし、その期待はすぐに打ち砕かれました。取り壊されたマンションが消えた後、最初こそはスッキリとした空間であったものの、その土地は少

          生まれ変わる街角: 土地の変容と地域社会

          都会の宝石

          都市の喧騒、高層ビルやアスファルトの道路に囲まれ、日々の無機質でごみごみとした環境は私たちの心を圧迫していました。そんな中、一時の静けさを求めてふらっと公園のベンチに座ったある日、私は緑の重要性を深く認識しました。ベンチは緑に囲まれ、私の心はその緑の木々と花々に包まれ、静寂と安らぎに浸っていました。その日の帰り道、緑の魅力に引き寄せられるように、私は緑色の透き通った宝石のような多肉植物、ハオルチアを買って帰りました。 それ以来、私の家ではハオルチアを育てています。初めはひと

          都会の宝石

          相手も人間なんだから。もっと肩の力を抜いて。ついでに笑って。

          私は有名大学を卒業し、音楽やスポーツも出来、クラスや部活でも常に中心人物なっていてたことから、自分を多才で特別な人物だと思っていました。就職も難なくこなし、当然のように超人気企業に内定しました。私のプライドはエベレスト並みに高くなっており、仕事ができなさそうな人を馬鹿にすることがありました。入社後も年上の先輩や上司にも生意気だなと感じる程で、仕事も「あんなやつらにもできるんだから、俺には余裕でしょ。」と自分が出来ると高をくくっていました。イメージも「何でも出来るんだろうけど、

          相手も人間なんだから。もっと肩の力を抜いて。ついでに笑って。

          砂漠のオアシス

          「味噌汁、味薄いワ。チョット、待ってて。」  夕食のテーブルに着いた矢先、キッチンのシンク越しにそう言われた。銀杏の匂いが並木道を漂うようになり、秋が深まり肌がひんやり銀杏や紅葉の鮮やかな黄、橙が一層と深まっている。  画鋲の痕やいたずらに貼られたプリキュアのシールが上手くはがれず、所々に残った糊の部分が灰色に浮かんでいる壁の方に目をやると、昔ロサンゼルスのビーチで撮った写真が目に入ってきた。夕暮れの橙色がビーチの写真を照らし、揺らめいていた。  留学というと、どこの景色を思

          砂漠のオアシス

          囚人体験 健診

           「24番」。私はそう呼ばれた。「24番」は、言われたとおりに会場内の番号が書かれた部屋を順番に廻っていった。ある部屋では上半身裸でお腹を壁につけさせられ、ある部屋では血を取られ、ある部屋では怪しい液体を飲まされ、台に乗せられた。廊下には矢印で部屋同士が結ばれ、次の部屋に迷わず向かえるようになっていた。廊下で前後の「23番」や「25番」も廊下で見かけはするものの、誰も話すどころか目も合わせない。会場全体で「話してないで、言われた通りにしろ!」と看守が目を光らせていた。 各部

          囚人体験 健診

          足がないのに足手まとい

          「足手まといになっちゃったよ、足無いのにな!」  1年程前、在宅勤務用にカスタマイズされた机の、27型の外型ディスプレイのZoom会議の画面越しに大介は言った。威勢よく言っていたが、目は座り、口角は上がっていなかった。大介は高校の同級生で、メガネの似合う彼はバスケ部のキャプテンだった。有名大学の理工学部に進学。航空工学の研究をして、大学院ではアメリ国際会議で成果を発表した。有力大手企業に推薦で内定し、航空関係のエンジニアになったようだ。大学でもバスケを続け、インカレでも活躍し

          足がないのに足手まとい

          初めてのオフィスビルの1階にあるコンビニのコーヒーマシンで自分で淹れるタイプのアイスコーヒーRサイズ税込100円

          『故障中』 オフィスのコーヒーマシンのノズルの部分に付箋が貼られていた。延々と紙を吐き出し続けるプリンターの隣で、冷蔵庫はただ氷を溜め続けていた。コーヒーマシンは、毎回ドリップを行うエスプレッソタイプの高級仕様。毎日欠かさず飲んでいたコーヒー、淹れたてが無いと仕事モードにスイッチが入らない。自動販売機のものではだめだ。あれはコーヒーフレーバーの水だ。欲を言うと、キリマンジャロの強い酸味とあの香りが出る深煎りで、ロックアイスのアイスコーヒーが最高。これでは仕事にならない。どうし

          初めてのオフィスビルの1階にあるコンビニのコーヒーマシンで自分で淹れるタイプのアイスコーヒーRサイズ税込100円

          「学生のうちに彼女と結婚しておけよ、早いところな」

          「学生のうちに彼女と結婚しておけよ、早いところな」 タカシ先輩はため息交じりの声で声をかけた。 「はーい、気を付けます!」 ケイスケは張りのある声で答えた。 慶應義塾大学のとあるサッカーサークルのOBとの交流会。高級ホテルで開かれた立食パーティ。なんだかんだ同窓会のように各学年が固まって緩い島のようになっている。 ジャケットの着こなしから、どことなくイケイケだった雰囲気のあるが、哀愁が少々漂っているタカシ先輩。 40近くになっても未だに独身だそうだ。正確には一度結婚したも

          「学生のうちに彼女と結婚しておけよ、早いところな」

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