魚乃目三太 著『戦争めし』
面白くない料理漫画って読んだことがない気がする。
美味しい食べ物は誰だって好きだ。その美味しい食べ物を、実物でもない写真でもない”漫画”という手段で伝えたいと思う人の凄まじいエネルギーは、だからほぼ100%の人に対して直球で届く。
むしろ、写真よりもずっとリアルに味を想像できる。
今の社会に生きて、多少のお金で食べたいものは何でも食べることができる。
より美味しいものを求めて、1度の外食を失敗しないために、誰かが積み上げてきた膨大なデータの中から、いつだって自由に好きな食事を選択することもできる。
でも「おいしさ」というものは、その時の自分の状態や、どこで誰とどんなふうに食べのるか、その食事にまつわるストーリーなんかも大きく関わってきたりする。
戦地という極限状態の中で食べる食事の味を、簡単に分かると言ってはいけないような気もするけれど、でもやはり、リアルに想像できてしまう徹底された取材力と、この難しいテーマを伝えたいと思う力がすごい。
ラジオで魚乃目三太さんのインタビューを聞きながら、ああ、これは読まなくてはいけないなと思わされる、静かに燃える青い炎のような想いを感じた。
魚乃目三太さんがこの漫画を書いたきっかけは、ある戦争体験者の方が、戦争のことを伝えたくて描いた1枚の絵を見たことによるそう。
その絵は、仲間が白骨化していく中で、自分(戦争体験者の方)はほぼ裸でジャングルを逃げ回っていて、その手にはなぜか、「はんごう」だけを持っているというもの。
手に持っているものは、武器でも、荷物でもなく、ただ「はんごう」。
その絵が「食べることが生きること」と言っているように思えたそう。
海外の戦地において、戦時下や戦後の厳しい時代の日本において、極限状態だからこそ、工夫に工夫を重ねて、生きるために、そして食事をすることで少しでも元気になるために考え出された数々の料理。
考えてみれば、太平洋戦争の頃を生き抜いた人たちは、まだまだ同じ社会で一緒に暮らしていて、決して遠い昔の話ではない。
現代があまりに豊かだということを、つい忘れてしまうけれど、毎回の食事を感謝して食べたいと改めて思う。でも、この漫画からいちばん伝わって来るのは、そういうことより、いつの時代も、どんな極限状態でも、食事が人を笑顔にするし、元気にするし、生きる力になるというメッセージだ。
誰しも、忘れられない料理というものが、あるんじゃないかと思う。
それは恐らく、たくさんの人が絶賛しているレストランの料理じゃなくて、自分しか知らない思い出が、深くまつわるものなんじゃないかと思う。
これからの人生でも、そんな料理に出会えたらいいなあと思うから、これからも、「食べること」を大事に、生きていきたいなあと思う。
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