ライブハウス“四谷OUTBREAK!”店長 佐藤'boone'学 さんにお聞きしました
私にとって四谷アウトブレイクは、人生で初めてイベントをさせていただいた場所で、一時は同じ会社の先輩でもあった佐藤'boone'学さん。下北でも渋谷でも吉祥寺でもない、四谷というオフィス街でライブハウスを運営する佐藤さんの日常を伺っていくなかで、現代社会における理想の生き方のヒントが見えてきました。
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ー アウトブレイクがオープンして13年間この仕事を続けてこられたのは、やっぱりご自身にライブハウスが合っていたのだと思いますか?
こんなに長く1つの仕事を続けたのは初めてだから、まあ合っていてたとは思うけど、ここは他のライブハウスに比べて経営体系が特殊すぎるからね。この店が合っていったっていうことかな。
この規模のライブハウスって、普通はもっと大きな会社が経営してるから。
ー アウトブレイクの1ヶ月間の公演内容はどんな感じなんですか?
うちの店は、アイドルイベントや、それ以外のホールレンタルなんかを積極的に入れて売上を確保しつつ、店の企画は挑戦的におもしろいことをやるっていうスタンスで、ここ7,8年はやってるよ。
この四谷っていう立地とスタッフと俺の能力を考えると、それが一番適切だと思う。ライブハウスとして、値段設定も低いし、アクセスも悪くないから。
ライブハウスは365日営業してこそカッコイイ!と思っていたけど、去年から休みを月1,2日くらい作っていて、メンテナンス日にしたり、俺が別の店で企画をやったりしてるね。
ー 普段はどれだけ出勤してるんですか?
ほとんど毎日だね。外出する日も、だいたい一度は店に顔を出すかな。それはここで働き始めた時から変わらないけれど。
自分の生活まで侵食させないと、この店を成り立たせることはできないから、仕事とプライベートは分けられないよね。
もっといいやり方もあるんだろうけど、俺では無理だし、このやり方が苦じゃないからいいんだけどね。
もちろん仕事をする上で嫌なこともあるけど、そういうこともあってこそ店が維持できるわけだから、それは全然気にならないかな。
ー 堅実ですね。
いや、ひとつの店を運営するという点では堅実かもしれないけれど、自分の人生においては全然堅実じゃないよね。
10年以上ライブハウスをやってるけど、社長がもう店やめるって言ったら 、他で働ける気がしない。将来のことは全然考えてないんだよな~。まあ、どうにかなるわって感じ。笑
ここはいつかパタっとなくなってしまうかもしれないし、その前に俺が調子悪くなるかもしれないし、ずっと続かないっていうことだけは分かっているけど、できるだけ続けたいから、そのためには目の前のことを頑張るしかないなと思ってる。
でもやっぱり好きだから続けてこれたよね。
ー どんな時が一番楽しいんですか?
やっぱり良いライブを見た時も楽しいし、バンドの成長が見られることも楽しいし、お客さんが笑顔で帰るのも楽しい。やっぱりライブハウスは客商売だから、お客様満足度が大事!
そして「お客さん」が誰かって言ったら、もちろんチケットを予約して来てくれる人もお客さんだし、出演してくれる人もある意味でお客さんだし。
スタッフがみんな、この店に来た人達は全員満足して帰そう!っていう気概があるから、俺はスタッフが心地よく仕事ができるように、ちゃんとケアをしようと思っているんだよね。
ー 確かに、スタッフの方々のアウトブレイク愛は感じますね!それはどうやって生まれるんですか?
自分がスタッフに対して気を使ってあげる、それだけだと思う。
事前に段取りをちゃんと伝えておく。「現場で何とかしといてね」みたいな感じにはしないようにしてる。
例えば出演者に「オケはこういう形で持ってきてください」とお願いしておくとか、今日はどんな出演者が来るのか各所にちゃんと説明するとか。イレギュラーなことにも、みんなちゃんと対応してくれるけれど、先に今日はこういうことが起こりそうだと伝えておくとか。
そういうことで、各所を働きやすくしたいとは思ってるな。
まあ、当たり前のことだけどね。時にそれがうまくできなくて怒られる日もあるけど。
まず、ライブハウスに来るお客さんって特殊だし、うちの店に来る人なんて特にそう。人間失格みたいなやつもいっぱい来るし。笑
なんかそういう人ってもう、愛おしいじゃん!いちいち目くじら立ててもしょうがない。ライブハウスは一定のルールの中で自由に遊べる場所だしね。
ー バイトの採用面接に来る人は、元々お客さんという人が多いんですか?
実は殆どのスタッフが初めて来ました!ってパターン。アウトブレイクっていうライブハウスが面白いらしいっていうのを、ネットとかで知って来るみたいなんだけど。
ライブハウスで働きたいと思ってる人は、普通もっと有名なところに行くから、自分としてはアウトブレイクにたどり着いた時点でもう面接合格!
ただ、ライブハウスっていう場所は通過地点だと思ってるから、スタッフ達はいずれ送り出したいとは思っているよね。
ー それは、ここにいても将来がないということですか?
うん。バイトでずっとやってくには将来がないね。
ライブハウスって音楽業界では入り口だから、照明とか音響の人間は「もっと専門的に極めたい」っていうことが出てくるから。
成長してきたらもっと大きなステージでやりたいとか出てくるからね、受付とかBARのスタッフも、もっと安定した仕事に就きたいと思う時も来ると思うし。
ー 今、佐藤さん以外は全員アルバイトなんですよね。同じくらいのペースで働ける社員がいたらいいなって思いますか?
いたらありがたいけど、それを俺と同じ給料で雇うっていうのは経費的にちょっと難しいんだよね。でも今自分の仕事をサポートしてくれる新人がいるから、すごく助かってるよ。
ー じゃあ、今経営的にはバランスがちょうどいい感じですか?
ギリギリだね。いつもギリギリだけど!笑
ー 今世間で言う、いわゆる「ブラック企業」に対してどう思いますか?
ここはウルトラスーパーブラック企業に見えるかもしれないけれど、現代社会のそういった見方は、ライブハウスには必ずしも当てはまらないよね。やりたいからやってるだけだから。
ここは自分にとって絶対的な上司は社長しかいないし、個人経営レストランみたいなものなんだよね。
自分の頑張りがダイレクトに店の繁栄や存続につながるっていう実感があるから、長時間働いていても苦じゃないよ。
要は、この会社は俺が支えてるんだっていう喜びがあるかないかだと思うんだよね。これがもっと大きい会社だったら、そういう実感が持てないかもしれないね。
好きでもないことをやらされて長時間働いて給料が少なければ、それはブラック企業だと思うけれど、俺の場合は好きが大前提にあるからブラックとは思わない。
ただ、会社っていうのは本来売上を毎年上げていくもので、この店は現状維持が精一杯だから、その辺は毎年課題になってるね。
ー でも新宿区で、自分が好きなことを織り交ぜながら、この広さのお店を存続させているっていうことはすごいことだと思います。
うん。俺の下で働いている人たちが凄い。毎日本当にいい仕事をしてくれてる。
イベントをつくったり出演者を集めるのは俺たちブッキングの仕事だから頑張るけど、当日その出演者と親密に接するのは俺以外のスタッフだから、その人たちがだめだったら全部だめだよね。
俺が選んだ人達に対して、本当に丁寧に接してくれていて凄い。
ー 上司がスタッフをそんなふうに思えるここに、理想の会社の形態があると今思いました!
ないわ!笑
ー でも理想のチームですよね!?
チームとしてはいい。でもそのチームに未来があるかって言ったら、正直わからないよ。日々綱渡りだし、みんないつかはいなくなると思うし。
多分、スタッフはそれも分かっているから、出勤したら頑張ろうとか思うんじゃないかな。まあ、みんなに聞いたことはないんだけど。
俺はそうだから。いつかはなくなるから、今日は頑張ろうって思っているよね。まあサボってることもあるけど。笑
ー 向上心がすごいですよね。元々ブッキングだったけど、気づいたらPA(音響)もやってる!って思っていたらレコーディングまでやってるし!
それはこの店を守るために必要にかられてやってるだけなんだよね。それに、俺のPAやレコーディングは、この店の機材でしかできないっていうすごく限定された技術で、どこのスタジオに行ってもできるわけじゃないからね。
自分が守らなきゃいけない場所があったとして、それが人によっては会社だったり家庭だったりすると思うんだけど、守るものがはっきりしていれば、やることはおのずと決まってくるよ。
もうPAやるしかねえなとか、レコーディングやるしかねえなとか。
人生の中で最優先のものが決まれば、そのために必要なものやそうでないものも自然に決まってくるから、それをひとつひとつやっているだけで、普通のことだよ。
ー 確かに、その通りですね。とは言っても、佐藤さん本当にずっと働いているなあという気がするのですが、レコーディングってどのくらいやってるんですか?
始めてからは6~7年くらいで、回数は今結構減らしていて月10本だね。ここが23時にはけて、24時半から朝までレコーディングして。多い時は月の半分以上やっていたね。
次の入り時間が早い日もあるけど、でも、まあ寝てるよ!
ー うーん。でもやっぱりすごいと思います。これからのことはどんなふうに考えていますか?
うちの店では、昔思っていた「通りがかりの人がふらっと入れるようなライブハウス」っていうのはとっくにあきらめているけど、1つのバンドがいろいろな場所でライブをやるときに、お客さんが、「全部は行けないけれど、アウトブレイクに行こうかな」って思ってもらえる場所は、いつも目指しているかな。
こんな生活がずっと続いたらいいなと思いながらも、続くわけがないので、だからこそ一瞬一瞬を頑張らなきゃね。
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いつ寝ているんだろう?と思うようなハードワークをこなしている印象だった佐藤さん。自分の守りたいものが決まっていれば、おのずとやるべきことは決まってくるというお話しを聞いて、これまでの仕事ぶりにも納得がいきました。
そして、スタッフに対する敬意や信頼が生み出す空気が、出演者にも来場者にも伝わり、また足を運びたくなる、そんな循環が13年間四谷というオフィス街にアウトブレイクという場所を存続させているのだなあと思いました。
何度も出てきた、いつまでも続くことはないという言葉が切なくも感じましたが、私もいつまでもそこにあると思わずに、今行きたいと思う時にそこへ行き、今という時間を大事にしたいと改めて思いました。
佐藤'boone'学(さとう ブーン まなぶ)
ライブハウス 四谷OUTBREAK!店長。PA・レコーディングも担当。バンド ロックンロールサービスではギターボーカルを、 おいおい教バンド、Andareではギターを担当。
四谷OUTBREAK!(よつやアウトブレイク)
四谷という地から、音楽にとどまらず、アイドル・トーク・お笑い、そしてヒッチハイクギグ・献血ギグ・1週間住み込みギグなど、他にはない独特なイベントも多数企画するライブハウス。グッズ、フライヤー作成やレコーディングなど、ミュージシャンやイベンターの様々な相談にも対応して下さいます。
〒160-0004 東京都新宿区四谷2-10 第2太郎ビルB1
TEL: 03-5368-0852 FAX: 03-5368-0858
http://www.hor-outbreak.com/
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いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。