見出し画像

#13 人の入れ替わり

ここ数週間はオフィスが騒がしい。
年度の切り替わりで人の出入りがあるからだ。
自然と作業量も増えるので,ときに殺伐とした雰囲気になることもある。

ある人は年度末で退職が決まる。名残惜しくて空いた時間を見つけては話にふらっと訪れる。仕事の手を止めて相手をする人もいる。その止まっている仕事はその人がいなくなった新年度に向けて必要なものだったりする。

ある人は新年度からやってくる新人のお世話が気掛かりだ。新しく入ってくる人がどんな人か,噂話程度に仕入れた情報からオフィスでの位置関係や振る舞いを予想しては,ああなったらどうしよう,こうなったらどうしようと心配している。


オフィスに残る人であれば,退職者のお相手をしている人や新人の振る舞いを心配している人に対して,「無能」や「無駄」だと思うかもしれない。
求められている仕事を効率よくこなすと言う意味では,これらの行動は「無能」で「無駄」だ。
目の前にないものを相手にすることほど無意味なことはない。
存在しない/しなくなるのだから,そもそも扱う対処にならない。眼中にないとさえ言ってもいい。


退職する人からしたらどうだろう。
どのような事情であれ,1日の大半の時間をある一定期間過ごした場所から離れるのに名残惜しさを感じて当然だ。むしろみんなもそう思ってくれているのではないか,と思いたくなる。「いなくなったら寂しくなりますね」などと言われでもすれば,お世辞だとわかっていながら心揺らされるものがあるだろう。

退職する人を相手する人はどうだろう。
お世辞かもしれないし,本当に寂しがっているかもしれない。早く仕事に戻りたいと思っているかもしれないし,本当は自分も退職したいと考えているかもしれない。


新年度のことを心配している人はどうだろう。
どんな人なのか,うまくやっていけるのか,無愛想だったらどうしよう,自分勝手な人だったら?独り言が多かったら?自分の仕事に影響するような人だったらどうしよう。心配は止まらないかもしれない。

新人として入ってくる人はどうだろう。
そもそも先にオフィスにいる先輩たちがどんな人なのか,心配しているのは新人の方だろう。なにより自分を脅かさない存在かどうか。新人の方が生存をかけて不安を抱えてくるかもしれない。


人の入れ替わりは年度を通しての一大イベントだ。
幾つになっても変わらない。期待と不安が交錯する地点だ。そして,それはすぐれて人間的だ。そこに人間らしさが際立っているように思う。
退職の別れを惜しむ人も,早く仕事に戻りたいと思う人も,新人の行方を案じる人も,先輩の集団を畏れる人も,それを見て無駄だ無能だと揶揄する人も,みんな等しく人間だ。

年度が終わるまで2ヶ月半。
次年度は何が待っているだろう。


いいなと思ったら応援しよう!