デジタルニッポン2020を読み解く 防災編【人が見えない未来図】
デジタル庁創設の背景にある「デジタルニッポン2020」を読み解いていくシリーズです。このデジタル化戦略を抑えておくことで、日本政府(正確には自民党)がどういう方向に国を持っていきたいのかが見えてきます。
未来の方向性を知ることは大切です。いまからハンコ屋になりたい人はいないように、僕たち個人の行動も変わるかもしれません。
今回は「防災」編です。
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① デジタルニッポン2020 防災編
まずは原本をコピペします。ぶっちゃけ防災編では個人の未来図を変えるような示唆はありません。ただ、DXを推進している目で見るとあまりよろしくない前兆が見て取れます。恐ろしく税金使うけど大丈夫かなコレ、という感じです。
言っていることは割と単純です。
* 日本は災害が多いので、災害対策はちゃんとしないとダメ
* いまは人海戦術が多いので、情報系ITをきちんと整備しよう
ぐらいの話です。もう少し踏み込んだ内容が各論のさらに参考として書かれています。というか、なぜこれが参考扱いなのでしょうか。こちらで書かれた「ありたい姿」こそ国民が知りたい内容なのだと思います。
ざっくりいえば、災害情報提供について、
* 現在は、ネットやテレビによる広域情報に留まっている
* 今後は、いまあなたが何をすべきかを示せるようにする
とのことです。避難所の空きや防災備品などを自動的に計算して、あなたが向かうべき避難所はどこかを示したり、ボランティアの方々にむけて困っている人がどこにいるかを示したりするのだと思います。
僕はアナーキスト寄りの政治信条ですが、それでも防災については「クニがキチンと」やるべき領分だと思うのであまり否定感はありません。
欲をいえば、災害対応に必要な消防士・救命士・自衛隊などの工数予測をして、最適な員数手配をキチンとやってほしいです。また備蓄している物品の在庫管理をキチンとやってほしいです。いわゆるWFM/SCMです。税金を投入するので、災害対策に当てているヒト・モノ・カネの妥当性開示はぜひお願いしたいです。ここって、どう考えても利権化する領域なので。
※ WFM = Work Force Management、効果的な人材活用や配置を支援するIT
※ SCM = Supply Chain Management、モノなどの流れを管理するIT
まあ、僕の意見はいいです。
気になるのは、災害編は他の内容と趣が異なっている点です。
② 業務ではなくハコばかり強調している
資料の注釈として「出所:当委員会での日本電気株式会社発表資料」と書かれているページがたくさんあります。つまり、NECさんのコンサル提案のままを記載しましたということでしょう。
政治家がNECさんに丸投げしているのはけしからん!というつもりはありません。国民の税金を使う以上、優秀なコンサルさんの脳みそで考えた結果を使うこと自体は良いのではないかと思います。また「既存改修」という言葉があるので、NECさんが既存ITのSIerなのかもしれません。
別に誰が絵を書いてもいいのですが、大きな違和感を感じるのは、業務ではなくハコばかり強調していることです。DXを推進するためには「戦略・体制・プロセス・技術」の観点が必要なのですが、災害編は技術に偏りすぎではないでしょうか。
どういうことか。たとえば、
* 今回、リニューアルするITは誰が使うのでしょうか。
* 使った結果、その方のどういう業務がどうなるのでしょうか。
* 現在人海戦術でやっている業務のどこまでを自動化するのでしょうか。
端的にいえば「人が見えない」未来図です。
ハコの絵より先に、カスタマージャーニーなり、ユーザストーリーマッピングなり、ビジネスプロセスマップなりを見せてほしいのです。僕たちの生活はどうなるのか、どういうペインが無くなるのか、そして誰がどんな割を食らうのか。ハコの議論よりも先に、そういう絵が必要ではないでしょうか。
業務→ITではなく、IT→業務の流れはIT構築失敗の代表格です。僕はユーザ企業の立場でIT失敗事例をヤマほど見てきましたが、こういうケースは関わる人間すべてを不幸にして、結果残るのは誰も使わないハコになりがちです。
▼ 参考記事
EAの功罪#1 理想のIT開発論とその現実【普通の考えではうまくいかない】
EAの功罪#2 地獄への道は善意で舗装されている【誰も失敗を望まない】
EAの功罪#3 企業全体のウォーターフォール開発【そんなの無理】
EAの功罪#4 トランスフォーメーションが大事【業務を変えよう】
好意的に見れば議論が煮詰まっていると受け取ることもできます。ですが、いちばん大事な「ありたい姿」のスライドを各論の参考につけている時点でハコを作りたい!が先行し過ぎだと思います。
毎月ごっそり持っていっている税金、ムダにしないでくださいね。
おわり。
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