気まぐれな目覚まし時計
その男の目覚まし時計は、そこらで売っているものとは違って、少し変わっていた。どのように変わっているのかというと、ただ大きな音を鳴らして無理やりに目を覚まさせる"いまいましい"時計とは、全くもって仕組みが違うのだ。
その目覚まし時計は、気まぐれで、それでもって精巧なのである。男を起こす時間を、目覚まし時計みずからの意思で決定するのだ。さらには、起こす際に鳴らす音までも、時計みずからの判断をもって毎日違ったものを選ぶのである。
とある月曜日。目覚まし時計の針が、朝の7時ぴったりを指した。すると、〈チュンチュン〉という小鳥のさえずりがフェードインした。続けて、〈サワサワサワ〉と、森の木々がそよ風に揺れる音も聞こえてくる。男は大きなあくびとともに、目を覚ました。
うむ。よくできた目覚まし時計である。男は感心した。この時計は、週末という名の"楽園"から、月曜日という"現実"に突き落とされる私に、一気にストレスがかかりすぎぬよう、できるだけ心地よくやわらかな目覚めを提供してくれたのである。
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水曜日。朝の7時を10分ほど過ぎた頃。スローテンポのアコースティックギターと、少しかすれた女性の歌声が溶け合ったメロディーが、静かに寝室に響きはじめた。男はうっすらと目を開け、ベッドの上で思いきり手足を伸ばした。目覚まし時計から流れていたのは、行き付けのカフェでいつもかかっているボッサ・ノヴァの音楽だった。
やはり、本当によくできている。時計は、週の半ばに差し掛かった私の仕事づかれを察知して、これを選曲したのだろう。いつもより10分だけ余分に寝かせてくれた心遣いも、ありがたい。
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金曜日。まぶしい朝日が6時55分を迎えると、目覚まし時計が動き出した。いつもより少し大きい音量で流れ出したのは、80年代の陽気なディスコ・ナンバーだった。男は目をぱちっと見開くと、がばりと体を一気に起こした。ナイトテーブルに置かれたカレンダーの今日の日付に、赤色でしるしが付けてあった。そうだ、今日は金曜日。待ちに待った"フライデーナイト"には、気になるあの子との約束が取りつけてあるのだ。
いつもに比べて、5分も早く起きた。男は往年のナンバーに体を揺らしながら、普段よりも倍の時間をかけて髪をとかした。
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日曜日。太陽が高く昇る。ぐうぐうと寝息をかく男のそばで、目覚まし時計の針は11時15分を指していた。
男は夢を見ていた。〈ザザァ...ザザァ... 〉青い空、白い浜、足の指をくすぐる波、水しぶきをあげながら笑う若い女....
ぼんやりと、海が遠ざかっていく。だんだんと開けてきた視界には、見慣れた天井の柄がうつっていた。
頭上の目覚まし時計からは、〈ザザァ...ザザァ... 〉と波の音がやさしく繰り返していた。なんという気持ちの良い目覚めだろう。
今日の午後は、例のあの子と再び約束がある。「私、海が大好きなの」と楽しそうに話していた彼女を、海水浴に誘ったのだった。男は起き上がると、上機嫌で身じたくを始めた。
ところが、洗面所で歯を磨き終えたとき、突然の違和感が男を襲った。やけに静かなのである。さきほどまで寝室を包み込んでいたやさしい波の音が、ぱたりと止んでいた。男は不思議に思い、歯ブラシを洗面台に置くと、寝室のほうへと向かった。
何か、べつの音が聞こえてくる気がする。ぞくりと、背筋に冷たい空気を感じた。音は、高まる男の鼓動に合わせるようにして、テンポを上げる。まるで、恐ろしいものが近づいてくるような心地....
男はいつのまにか早足になっていた。音は、ますます大きく、速くなる。そして男が寝室のドアを開けた瞬間、音はクライマックスを迎えた。男の顔が、一気に青ざめた。
目覚まし時計から流れていたのは、よく聞きおぼえのある、有名なサメ映画のテーマだった。
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卓上ゲーム「Dixit(ディクシット)」の絵カードをランダムに1枚に引いて、短時間で作品をつくります。
今回のカードを見た瞬間、思ったのは「一体これはなんだ?」でした。オルゴール、時計、電話、ラジオ、ジュークボックス...?いろいろなものを想像しましたが、特に目を引いた時計のイラストと、私の大好きな音楽、そしてどこか不穏な背景色を混ぜ合わせたら、こんなお話ができあがりました。
前回の作品はこちら。
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