北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【5】 1.5日目 札幌→留萌輪行 2015年5月22日 

週末を使って、つぎはぎで北海道一周した記録。
札幌から留萌まで走った3週間後、第2レグは、留萌からオロロンラインをさらに北上し、稚内を目指します。
その前に、まずは中断地点の留萌まで戻らねばなりません。「週末北海道一周」は、毎回のアプローチもまた、面倒ながらも楽しみの一つです。

目標設定!

札幌から留萌へ、オロロンラインを辿るセミ・センチュリーライドは、美しく懐かしく、そして厳しく豪快な自然を満喫させてくれました。同時に、まだまだ昔並みか、ひょっとしたらそれ以上に走れる自信もつきました。
そして、まだまだ先へ走りたいという強い欲求にとらわれました。
学生時代以来、二度目の北海道暮らし。今度は骨を埋める積りで赴任してはきたものの、サラリーマンに自分の人事は決められません。

そこで、差し当たっては2~3年かけて北海道を一周することを目標に定めました。
週末や連休をやり繰りして、つぎはぎで走りきろうという訳です。
別に誰かと競争する訳ではなく、おっさんの個人的愉しみに過ぎないので、ガツガツせず、楽しんで走れば良いのですが、どこか一本、軸は通しておきたい。そこで幾つかの制約は定めることにしました。

① 海岸線を忠実に辿ることには必ずしも拘泥しないが、自転車で行ける主要な岬は訪問する。
② 前回の中断地点から走り始め、一筆書きで一周する。例えば、今週はオロロンライン、来週は日高の海岸線、その次は道東へ飛んでサロマ湖周辺、それらの断片をつなぎ合わせて結果的に北海道一周、という風にはしない。
③ 可能な限り、一台のバイクで走り切る。MTBを持っていけば面白そうなエリアもあるし、短距離ならブロンプトンでお手軽輪行の誘惑に駆られることもあろうが、あんまり浮気しない。
④ 仕事に支障が出ないように走る。これは制約条件というより人としての常識だが、業務多忙時期に休暇を取って遠方に乗りに出かけたり、また強行軍で翌週に疲れを残し、会社で居眠りばかり、といったことは厳に慎む。

いずれにせよ、日が長い季節に、長い距離を走っておきたい。しかし、6~7月は重要業務が目白押しで、まともに休めない週末が増えるのが目に見えていました。
そこで、サロベツ原野の花々が開花する時期には尚早ですが、思い切って5月下旬の週末、稚内へ走ることにしました。留萌から海岸線をたどり、ノシャップ岬まで約200Kmの道のりです。

金曜夜の輪行と、忘れ物の話

5月22日(2015年)金曜日、夜7時。 日の長い季節になりました。
しかし鉄傘に覆われた札幌駅のホームは既に夜の帳に包まれ、家路に就く人々、札幌出張を終えて空知の方へ戻るらしきスーツ姿のグループ、さらには週末を実家で過ごすのか、小さなスーツケースを転がしトートバッグを携えた妙齢の女性などが、狭いホームを埋め尽くしています。
その中で、輪行バッグを担ぐ私は何とも場違い、かつ邪魔な存在であることでしょう。
向かい側のホームには、網走からの長旅を終えた特急「オホーツク」が、古びた車体からディーゼルエンジンの轟音を響かせています。

金曜日の終業後に輪行で旅立つ、というのは、週末を有効に使ってロングライドを楽しむために、昔から時々やっています。出発当日のうきうきした心持ちは何とも言えず、仕事も効率的にこなせる気がします。
ただ、仕事を終えて一旦家に戻り、着替えて出発、という段階が慌ただしくなりがち。
前夜のうちに荷造りは済ませておきますが、何かしら追加の荷物を出し入れしたり、詰め替えたりしたくなってしまいます。その結果、つい忘れ物をしがちです。実例を挙げれば、iPhoneを忘れ充電器だけ持参したとか、初めての土地なのに地図を忘れたとか、工具一式忘れたとか、まあ色々とやらかしております。

さて、今回も、L特急「スーパーカムイ」の指定席に腰を落ち着け、発車してからバックパックの中を改めてみると、愛用のRaphaのウィンドブレーカーが見当たりません。
留萌地方は、明日は朝のうち雨が残るというし、宗谷地方は明後日も大気の不安定な状態が続く様子。
別に前人未踏の山野へ乗り込むわけではないし、多少の寒さや雨風ならば、ジャージーの重ね着とか、身体に新聞紙を巻いてからジャージーを纏うとか、雨具が入手できなければゴミ袋に穴を開けてかぶるとか、先人の知恵や自らの経験から得たノウハウはありますが、それでも、海岸線で強風を伴った雷雨などに見舞われるのは避けたい。

留萌へーL特急とローカル線の旅

この年の春から、JR北海道では、殆どの列車で車内販売が廃止されてしまいました。鉄道離れが益々進み、採算も人手も確保できないからでしょう。しかし汽車旅の楽しみは減殺される一方です。
駅のコンコースの駅弁コーナーも、夕食時なのに残っているのは4種類だけで、積極的に売り込もうという姿勢には見えませんでした。
取り敢えず、ほぼ選択の余地なく買った幕の内弁当を拡げます。「スーパーカムイ」の指定席は、グリーン車並みに広々したシートで、わずか一時間で深川へ着いてしまうのが勿体無く感じられました。

それにしても、東南アジア生活から戻ってみると、日本の鉄道の車内というのは、気味が悪いほど静か。昔の鉄道はこんな感じじゃなかったな、と、旧国鉄のローカル線を乗り歩いていた頃を思い出します。

深川で「スーパーカムイ」から留萌本線に乗り換え。鄙びたローカル線のディーゼル単行ならば少しは生活感があるかと思いきや、意外なことに乗客は皆スマホ片手の若者、それも単身の乗客ばかり。11名の乗客中、恐らくは私が最年長という妙な状況でした。
所在なく外を見ると、中空には三日月が鮮やかに浮かんでおり、この晴天が明日も続いてくれればと祈るばかり。
石狩沼田で四人が下車し、山地に差し掛かるにつれ沿線には灯火も見られなくなり、時折、道路の路肩を示す矢印の、緑色の点滅が現れるばかりになりました。
峠下、といういかにも山地の入り口らしい名前の駅で、深川行きの上り列車とすれ違いました。あちらの乗客は、居眠りしているおっさんばかりの様子。
留萌駅に到着すると、一緒に降りた若者たちは、駅前に停めてあった自分の車や、迎えに来た彼氏の車などに乗ってたちまち散っていき、人気のない夜の街をとぼとぼ歩いていくのは私一人だけでありました。

※次は、お天気の不安定な週末、南からの強い風を受けて、長く単調な海岸線を北へ走ります。


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