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【67】北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周 23日目 森〜恵山岬① 2017年11月4日

北から冷たい強風が吹く、初冬の道南•森。今日は、渡島半島の南東部を走り、道南の活火山・恵山をめざします。

▼「週末北海道一周」のここまでの記録はこちらです。よろしければご笑覧ください。

◆ 冬の装いの駒ヶ岳

夜のあいだに寒冷前線が通過し、つめたい雨が降ったようです。上空は青空と灰色の雲のまだら模様。
朝7時の森駅前は、昨日とは打ってかわって冬の装いでした。ロータリーの温度計は6度を示し、北西から強く冷たい風が吹いています。この風向きは、今日はおおむね追い風になるので、悪くはありません。もっとも、明日も同じ風向の確率が高いようで、そうなると明日は向かい風の中、我慢のライドになってしまうのだけど。

▲ 朝の森駅前

駅近くのコンビニで携行食を調達し、バックパックに収納していると、長靴を履いた漁師のおっさんに話しかけられました。ランドナーを改造した頑丈そうな自転車に乗っています。
もう70過ぎと思われるおっちゃんは、以前、舞鶴までフェリーで渡り、大洗まで自転車で走り、そこからフェリーで帰ってきたことがあるのだといいます。
「今日はどこまで行くの?恵山までかい」
おっちゃんは、南茅部までずっと新しいバイパスができてるよ、と言うことを繰り返し話しました。バイパスが開通していたら迷わず旧道を選択するのが、自転車旅ではルート選定のセオリーではあります。

鹿部へと続く静かな旧道沿いには、漁業関係者の住まいと思われる一戸建てがつづきました。路面の荒れを別にすればまずまず走りやすい。しかし、この辺りでは、強く冷たい風が横から吹き付けてきました。家並みの隙間から見える海は、白波が立ち、じゃぶじゃぶしています。

右手前に、渡島駒ケ岳が見えます。昨夜の前線の通過で、中腹まで冠雪しています。紅葉とのコントラストに加え、厚い雲の隙間から差し込む光のカーテンが、妖しいまでに美しい。山頂は雲の中ですが、こんな妖艶な姿を望みながら走れるならば不満もありません。

▲ 森町内からの渡島駒ヶ岳

10キロほどで旧砂原町の市街地に入りました。横道に入って砂地をしばらく行ったところに砂崎灯台というのがあるそうなので、今日最初の寄り道をすることにしました。今日の予定走行距離も80Km程度。寄り道するための余裕を十分に見ています。
寒々しい住宅地を抜けると道はダートになりました。きのうからの雨のせいか、大きな水たまりが連続し、行く手をさえぎられます。路肩とか轍の稜線とか、水深の浅そうなところを選び、慎重に通過しました。しかし、水たまりの出現頻度は進むごとに増加、サイズも大きくなっていきました。ススキの原の向こうに小さく灯台が見えたところで、それ以上先へ進むのは断念。

▲ 砂崎灯台を彼方にのぞむ

それにしても、枯れススキが広がるばかりの原の向こうに聳える駒ケ岳は美しい。相変わらず中腹から上は厚い雪雲のベールを被っているが、その姿と冬枯れの原とのコンビネーションは、厳しい冬の到来を前にした束の間の妖しげな美しさを見せていました。

▲砂原からの渡島駒ヶ岳

国道に戻り、少し走って海岸線に出ました。ここからは噴火湾の反対側にある、絵鞆半島の断崖や、室蘭の工場群らしき建造物が見えます。靄の中には、有珠山の輪郭も、樽前山らしき山影も見えました。
昨夜の寿司屋で隣り合わせた地元の商工会長の話では、室蘭から砂原まで、ウィンドサーフィンで横断するイベントがあり、トップの選手は40分ほどのタイムで砂原に到達したそうです。明治初期には、礼文華の険路を避けて、森と室蘭を結ぶ定期航路がありました。イザベラ=バードも、函館から日高へ向かう往路は噴火湾を航路で横断し、エンジンの故障などで6時間を要したと記しています。近年は観光ルートとして森~室蘭航路を復活させようという動きもあると聞きます。

▲ おぼろげに絵鞆半島遠望

◆ 鹿部の間欠泉

その先、進行方向を南東に転じます。ここからは追い風に変わり、ゆるい登りなのに、楽に30キロ超で走ることができました。雲行きが怪しくなり、駒ケ岳は完全に雪雲に覆われました。北海道の短い秋にピリオドを打とうとするかのような天気です。
鹿部までは、樹林のなか、直線的なのぼり下りが続きます。もし、新緑や紅葉のなかで、陽光が差していたらさぞや美しいと思われる道でした。前方にはピラミッド状の山の輪郭が見え、その向こうの空は明るく、津軽海峡は晴れているのか、と思っていたら、すぐに何も見えなくなってしまいました。
風向きも一定しません。
やがて頬に水滴を感じるようになり、この辺りでは珍しいリゾートホテルである鹿部ロイヤルホテルと、隣接して開発された別荘地らしきエリアを抜けるあたりで、大粒の雨に変わりました。
今日は風対策で、最初からGIROのウィンドブレーカーを着ています。しかしバックパックなどはむき出し。こんな本降りの中では、早目に防水カバーを掛けないと、今夜は部屋中に洗濯物を飾り付けることになってしまいます。

10時過ぎ、閑散とした鹿部町内に入り、最初に目についたコンビニで足を止めました。取り急ぎ暖かな飲み物を調達。軒下で一息ついているうちに、雨は通り過ぎて行きました。昨日以上に変わりやすい空模様です。
ともかく、雲は多いものの青空が顔を出し、風は追い風。
気持ちも新たに、再び走り出しました。

鹿部は温泉地。町外れに、温泉旅館が数軒集まっている一角があり、その先の道の駅には間歇泉がありました。足湯に入りながら噴出の現場を見られる、という趣向であり、300円払って入ってみます。余裕があるスケジュールだとこんなことも可能なのであります。
足湯は最初、皮膚にヒリヒリ滲みる感じでしたが、肌が湯温に慣れるにつれて心地よさが増してきました。間歇泉の噴出を2回ほど眺め、これ以上浸かっていると動きたくなくなりそうなので、先を急ぐことにします。

▲ 道の駅の間歇泉

◆ 南茅部へ

間欠泉から先は、ひなびた漁村を巡って走ります。陸側には山が迫っていますが、道は平坦で、ずっと渚に寄り添っています。車の台数がめっきり少なくなり、波音が道連れとなりました。 しかも強い追い風で、ペースも上がります。
北海道の中では格別の絶景ロードではないものの、自転車旅ならではというべき、気持ちの良い快走が続きました。今日のルートには明確なイメージがなかったのだけど、朝からずっと、本当に自転車向きの道が続きます。空は厚い雲に覆われて、青空は断片的にしか見えないけれど、それでも気持ちいい。
この道を夏に走ったら、きっと最高でしょう。森から函館へのセンチュリーライド、なんてのもいいかもしれません。

▲ 鹿部から南茅部への道

昼食は南茅部の道の駅を予定していましたが、町の入口についてみると、道の駅は山側を走るバイパス沿いにあるよう。バイパスよりは漁港をめぐって走る旧道の方に魅力を感じるので、迷わずそちらの道を選びました。
海岸沿いに細長く続く漁村を抜けて行きます。静かな家並みに、コープの移動販売車から流れる音楽だけが流れています。古い建物の壁を埋め尽くす蔓草が紅く染まり、見ごろを迎えています。

▲ 臼尻漁港付近にて

正午のチャイムが響き渡りました。その途端、自動車の通行量が増加し、集落内に一軒だけあるコンビニの駐車場が瞬く間に埋まりました。世間では三連休と言っているけれど、北海道では完全週休二日制ではない職場も多いので、土曜日である今日は、半ドンで家路につく頃合いなのでしょう。
臼尻漁港のそばで、店前に何台か車が止まっている寿司屋に入りました。地方ではよく見かける、そばもラーメンもある寿司屋でした。
当然のことながら、客はみんな顔見知りのようでした。「今日は仕事はもう終わりかい?」なんて会話が聞こえます。
働き方改革と言うけれど、それは都市圏のお話に止まっており、このような地方の漁港で働く人たちのことを考えている政府関係者やコンサルはどれだけいるのだろうか、と考えてしまいました。

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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。引き続き、道南の活火山・恵山を目指して走ります。宜しければ続きもお読み頂ければ幸いです。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。



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