心に響く音
白猫の耳に聴こえたもの
私には忘れることの出来ない恩師がおりました。
今は他界されていますが
その先生は戦前に音楽家として活躍されていました。
平成天皇の御誕生の際には
宮中に御前演奏にご出演されていました。
横浜にお住いの私のその声楽の先生は
お父様が絹糸の輸出で成功されていた方で、
大変なお嬢様でした。
日本のファーストレディ20人と言う事で
厚い本にもその名は載っていました。
またケーブルですがTVにその先生の人生を
ドキュメントで放送されたこともありました。
そんな背景よりも更に素晴らしかったのは、レッスンに行く度に
一日中と言った程の長さの時間をかけ
色々なお話をしてくださり、丁寧なレッスンをしてくださった事です。
文化が豊かに成長し、満ちあふれていた日本の良い時代のお話は、
もう2度と聞けないのではないかと思うほどの、美しい内容で
煌びやかでした。
そして、戦争が始まり変わっていった日本の姿を
ずっと見ながら先生は色々な苦労も経験していて
そのお話も聞かせていただきました。
もう2度とあの様な方とはお目にかかれないと確信しています。
ある日のレッスンでの出来事です。
先生が飼っていた
白猫がソファーに座っていました。
その猫はゆったりとソファーでくつろぎ、先生の鳴らす
ピアノの音を聞いている様でした。
私はハイボイスを出す発声を得意としており、三点Eまでの音は
普通に発声ができました。
低い音から始まる先生のピアノの音に合わせて、声を出していきます。
だんだんとその音は上がっていきます。
するとソファーでくつろいでいた、白猫が私の足元に、ちょこんと
座り始めます。
そして二点C〜三点C・D・E・・
「ぎゃー!」と私は叫びました。
「先生!猫ちゃんが・・・私の足に・・・登ってきます!!」
「○○ちゃんダメでしょ!」
「・・・・・・・」私は猫ちゃんに引っ掻かれましたが
何か私の声に猫ちゃんが感動してくれたのではないかと、
とても嬉しい気持ちになりました。