[装丁小話]ベルベットPPに箔を押した話
はじめましてこんにちは。ひいろといいます。
某作品の登場人物に狂わされてそれまで出した事がなかった同人誌を作って印刷して頒布するまでに至ったので、自分の忘備録の意味も込めて装丁などについて書いておこうと思い、ポツポツと思い出しながら書いています。あと、単純に私自身がnote等で書かれている装丁の話を読んでいて面白かったから、というのもあります。めちゃくちゃ読みましたありがとう先人の人々。
※ちなみにここでの「装丁」の話は本文の段組の設定等も含め、1冊ひっくるめての話をしています。装丁というよりブックデザインの方が近いのかもしれない。1冊の本ができるまでのアレコレです。
発端
どういう経緯でその漫画に狂って本を出したのかという事は装丁にとってそれほど関係ないので省略しますが、普段は小説で二次創作をしています。大昔に個人サイトを作って一次創作を書いていたこともあったので(その時は本にしようとか全く思わなかった。不思議)、書くことは割と好きです。今回本にしようと思ったのは、pixivで投稿した3部作が40000字程あり、自分でも結構気に入っている話なので本にしてみようかな〜と思ったのが発端です。
同人誌は数年前からぽつぽつ購入していて(家族が段ボールによって「Amazon」に引き続き「とらのあな」を覚えてしまいました。辛い)、いろんな本を見る度に「すごいな〜」「格好いいな〜」「箔いいな〜」「手触りいいな〜」「箔いいな〜」「楽しそうだな〜」などと思っていました。滅法私は紙ものに弱い。そして箔に弱い。そして、ここにきて本にできる素材が完成してしまいました。よし、本にするしかないな? とりあえずまだ補足で別の人間からの視点も書けそうだなと思ったので、それを書き下ろしで追加する事にしました。ついでに、すでに書き上がっていた分についても修正・加筆を行い、最終的に全部で約70000字。うん、十分すぎる程本にできる長さになったね。校正作業は長いけど、何度か通して読んでいます。誤字よ滅べ。脱字も滅べ。
判型を決める話
ここまで、初めて同人誌を作る時にありがちな所謂「初めて本を出すから何もわからんよどうすればイインダー」的な事をひとつも言っていませんが、本業がデザイン関係(フリーランスではなく、大手広告代理店で華々しく仕事をしているでもなく、勤め先で細々とデザインしています)なのでデータ作成や入稿のルール等、その辺りはあまり苦労していません。なぜ表紙台が4p分必要なのかとか、解像度だとか、塗り足し天地左右3mmとかそういう印刷についての基本情報については既にある程度理解しているのです……まあ、チートみたいなものです。この辺りが本を出すにあたり、あまり躊躇しなかった理由でもあります。
それでも本を出すのは初めてなので、悩んだ部分ももちろんあります。一番は多分この「判型」。手持ちの同人小説本はA5が多かったのですが、最近買う本には文庫もちょこちょこありまして。1冊だけ新書に近いB6変形サイズもあったり。縦長っていいよね……。
個人的には作る本にある程度「同人誌っぽさ」を残したいと思っていて、なのでカバーの掛けてある文庫サイズは最初に候補から外しました。持ってる文庫同人小説はどれもカバーに箔押しとかしててすごく格好いいんですよね……最近の文庫サイズ、本屋に並んでいてもパッと見では同人誌ってわかんないかも……と思うレベルのものがゴロゴロしてます。ただ、文庫は表紙がちょっと小さ過ぎるなという気持ちもあったので最後まで悩んだのはA5か新書の二択です。あまりにも悩み過ぎて、とりあえず本文の段組みを3パターン組んでみることにしました。この時は全然候補になかったB6もいいなと最近は思っているので次に何か出すならB6かもしれない。
A5なら2段組一択です。これは実際に組んでみた画像。普通に読みやすいし、不満はない。だけど、どうしても新書サイズの「文庫よりはちょっと大きく、縦長なのが自分の好み」という思いが捨てきれない。というわけで新書サイズもせっせと段組み。InDesignよろしくな。ちなみに仕事ではIllustratorとPhotoshopばかり使っていてInDesignは碌に使った事がないので、ここもちょっとだけ大変でした。webで使い方について検索をめちゃくちゃ駆使してどうにかしました。ありがとう先人の人々(2度目)。
新書は1段と2段、両方組みました。ちなみに組みましたと言っていますが、1見開きだけとかではなく、セリフが多いページがどうなるのかとかいろいろ見たい部分があったので微調整は大してしていませんが全文流し込んでいます。無駄に3種類のInDesignデータが眠っています。
結果的に、ある言葉を1ページにバンと置くのがいい感じにおさまりそうな新書1段に決定しました。こういう遊びができるのも紙ならではで楽しいなと思います(webでも改ページを駆使すればできなくもなさそうだけど)。ページ数はもちろんA5が一番少なく済み90p、新書2段だと156p、最終的に決定した新書1段は本文184p(奥付などのページも含む)でした。ページ数は印刷費にも結構関係するので、サイズは予算も考えて決めた方がいいと思います。私はあったようでない予算をゴリゴリに無視して我を通しました。デザイナーなんて我の強い人間しかいない(持論)。
本文の段組についての話
新書サイズ1段組に決まったものの、その後レイアウトをこねこね微調整した結果がこちら。ある意味表紙の装丁よりも、読んでもらう人のことを考えると気を使ってデザインした方がいいのは中身かなと思います。読みにくい本は辛い。
詳細は画像に書き込んでありますが、本文書体は「源瑛こぶり明朝」12Q、ノンブルなど英語関係は「Legitima」です。源瑛こぶり明朝はかなが控えめなサイズで綺麗。フリーフォントなんてすげえな。ちなみにAdobeはAdobeFontが結構使えて便利。何かしらのサブスクリプションを契約していれば無料で使えるのではないかなと思いますけど、実際使ってみたい人は調べてください。商用利用もOK。筆記体の欧文書体とか種類も多くていいです。日本語もまあまあ揃ってます。
今回ページ数がそこそこあるのでノドは広めにとりました。また、この辺りで一度原寸で出力して仕上がりサイズでせっせとカッターで切り落としています。紙厚が違うので現物とはもちろん多少違いますが、切った後にノドの部分を浅めにダブルクリップで押さえるとそれらしくなるので、ノドの詰まり具合もある程度はわかります。小説はページ数が多そうで難しいかもしれませんが、原寸で出力するのは一度やった方がいいんじゃないかな〜というのが個人的感想。ちなみにInDesignから直接、小冊子になる設定で家のインクジェットプリンターで出力しました。家のプリンターではグレースケール設定で出すと、案外滲まなかったので雰囲気もつかめました。文字サイズなどもここで確認します。
表紙の話
絵は大して描けません。デザイナーにも絵を描ける人種と描けぬ人種がいて、圧倒的に描けぬ方の人間です。※ちなみに人を描くと関節の向きがおかしくなる。ただ、今回は元々登場人物そのもののイラストを使う気はあまりなかったので問題なし!(今後はわかりませんが)ちなみにこれは表紙の最終見本PDF。表紙〜表4までの見開き状態になっています。あと、デザイナーが確実にステキなデザインを起こせるのか、と聞かれれば「否」と返すしかできないので、今回の本を見て「デザイナーとか言って大した事ねえな」と思っても心の中にそっとしまっておいてください。泣くぞ。
今回書いた話にでてくるキーアイテムを入れていた袋を表紙中央に配置しています。ちなみにキーアイテムそのものは表2にいます。そして! 念願の箔部分! ヒャッホー! タイトルとちょっとした英文、横組みしているこまかい英語部分が箔エリアです。
タイトルの字体は打ちっぱなしの文字ではなく、少し加工を施して明朝体の太い部分だけが残っているような形に加工しました。横線が殆ど無いですが、何となく雰囲気で読めると思います。文字をそういう風に加工したのには後述しますが理由があります。
今回発注した印刷所はプリントオンさんです。色々調べてこちらにしました。本を出すまで知らなかったのですが、オンデマンドで特殊加工をするなら結構こちらの会社の名前が挙がっているような気がします。質問や再見積もりへの返事も早くスムーズでした。あとマイページがすごく便利。見積もりや質問等全部ここでできるし、返事が確認できるのもいい。
さて、プリントオンさんでは、実はベルベットPPに箔押しは推奨されていない模様。ベルベットPPと箔ってあんまり相性が良くないらしい。なんてこった。最初に見積もりを出した時、親切に教えてくれました。なんてこった。ただ、ど〜〜してもベルベットPPがよかったため、絶対にNGな加工ですか?と聞いたところ、それ(相性が悪いこと)を分かっていてやるなら止めないという感じだったのでやってもらいました。なので、今回最悪箔がちょっと無くなっても大丈夫なように袋のイラストの横に小さくタイトルを普通に印字しておいたり、表紙にタイトルが2つ入ってしまうことになるので箔の方はタイトル文字を加工したという経緯があります。印刷機械との兼ね合いなどもあるので、絶対に無理なことを通そうとするのは良くないですが、このように聞いてみるのもいいかもしれません。あと、印刷所によっても当然できる・できないは違うので、その辺も調べると楽しいかもしれない。
ベルベットPP+箔とは別で、指摘で変更した装丁もあります。表紙表4全面ベタです。ベタというのはインクで塗りつぶした状態なのですが、今回内容がとある人物の地獄についての話だったので真っ黒の表紙にしようとしていたんですね。真っ黒の表紙に当初は英語でタイトル箔押しの予定でした。英語は最初にwebに上げていた分の小説のシリーズ名です。これも、書き下ろしを追加した事で本の名前を変えるか〜となり、今のタイトルに落ち着きました。泥黎(ないり)とは地獄の事。これ、変換で出てこなくてちょっと面倒です。つけたけど。つけたいじゃん……パッと見どんな意味?ってなる漢字……。中二の心……。
当初のイメージはこんな感じ(元データがこねまわしすぎてないので、記憶で適当に今作った)。ところが、PPはベタが濃いところには定着しにくいということで、箔が定着しにくいのは許せてもPPが早々に剥がれるのは嫌だったので、大人しく装丁を変更する事に。紙の四隅がベタじゃなければ回避できるようですが、ガラッと変えてしまいました。結果今の表紙で気に入っているのでよかったなと思っています。表紙がベタの場合は開いて表2・3をフルカラーにして登場人物の概念のような色を塗るつもりでしたが、それも変更して表紙台全てモノクロ印刷で仕上げています。表3は書き下ろしの内容が若干反映された絵柄なので、ここでは見せられない……。
紙は羊皮紙の茶です。当初は白でしたが、ベタがなくなったことで、白いままだと薄暗い雰囲気が薄れそうな気がして、あいと迷って茶にしています。表2で注意書きを数行入れていまして、その文字の可読性を優先したというのもあります。ところでさっきプリントオンさんのwebサイトを見たら、羊皮紙の色バリエーションが増えているような気がします。お、黄土色いいなあ……。多分注文時には選択肢になかったぞ!(多分)あと、色のある紙で表紙を作る時は背景にそれらしい色を敷きながら作ると雰囲気が掴みやすいのでそうしています。白いままだとどうにもわかりにくい。
ちなみに同人誌でよく見る「遊び紙」は今回入れませんでした。印刷にかかる金額の事もありますが、なんとなく話の内容的に表紙をめくったら、さらっと本文に入っていくのがいいかなと。本の表題の次に注意書き関係(非公式ファンブックだよ〜とかのアレ)を入れたので、これ以上何かを捲らせなくてもいいかな……というのもある。
完成
で、これが完成した本の写真です。ひゅ〜〜。
写真が下手なのは見逃して欲しい。
新書サイズ(W105×H175mm)188p(表紙含む)・無線綴じ
表紙・本文共にオンデマンド印刷
刷色/表紙台4p・本文 全てモノクロ印刷
紙/表紙:羊皮紙 茶 170kg 本文:淡クリームキンマリ72.5kg
加工/ベルベットPP+箔押し(75㎟以内)ブラック
何回撮影してもベースの羊皮紙が明るく写るのでもう諦めました。もう少し赤味のある茶色です。触り心地はPPでしっとり。内容がちょっと薄暗い話なので、手に吸い付くようなこの触り心地にしたかった。しっとりしたものって、触るとちょっとぞわっとしませんか? 今回ベルベットPPをするにあたり結構検索をかけたのですが、肌色の多い本の表紙にする方がちょこちょこいて天才なのでは?と思いました。ぴったりやないか。確かにちょっと人肌みがあるんですよね〜しっとり……。箔もキラキラするような箔ではないけど、ツヤっとペカっとしていい。本を傾けると、ちいさな英語の部分がツヤ……と濡れたように光る。かっこい〜〜。箔を押す夢が叶いました。表紙の袋の絵がベルベットPPをかけたことによってマットな黒になるので、そこに小さいとはいえツヤのある黒箔がチラチラと目立ちます。悔いなし。あと製本が結構ピシッと四角い気がする。キレイです。
表2・3は表紙表4と打って変わって結構黒ベタなのですが、オンデマンドなのでそこそこテカテカです。そういうものと分かっていたので特に不満はなし。ちなみにベルベットPPをかけるとスミ100%の部分が結構黒さ控えめになったので、当初の全面ベタはやめといて正解だったなぁと思っています。あんまり黒い本に見えなかったかもしれない。
今回装丁に特殊加工を使ってしまったので、一番料金が割引になる早割で刷りました。プリントオンさんはどうやらフェアでやってる早割だと結構割引される模様(定期的にやってるっぽい)。本の価格は本文の文字数とページ数を計算してつけていて、表紙の装丁部分は反映していないため、あまりにも赤字になると心が荒みそうなので……。まあ売れなければそもそも赤字ではあるのですが。イベントが無いのは悲しいけど、こういう風に優先順位を決めて作り、締切に然程追われずにすむのはいいかもしれないと思います。
長々と作った本の話にお付き合いいただき、ありがとうございました。Twitterでやらなくてよかった。ツリーがえぐいことになる。次にもし本にするならどんなのがいいかなぁと思っています。ホログラム箔もいいし、天金加工とか格好いいですね。絶対に高いけど。天金加工の似合う話とは一体……?
今回の本はBOOTHに出しています(宣伝)。全年齢の特にCP要素もないはずの比較的薄暗い話です。
それにしても、悪い遊びを覚えてしまったなぁ……。お金はそれなりにかかるけど、自分の好きなようにアレコレ考えて指定したら、ちゃんとした本の形になって出てきてしまう……脳内麻薬がドバドバでるなぁ。
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