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[装丁小話]ブックケースに大きな箔押しシールを貼った話

こんにちは、ひいろです。今回は過去最大に装丁を盛った本の話をします。やった〜! 過去最大なので長いです。あといつも通り二次創作の話です。苦手な方はご注意ください。

箔を押したいよ〜。でもな……あ。

「また押すんかい」という声が各所から聞こえてきそうです。でも押したいので仕方ありません。実は当初、新刊は前回に続いて書き下ろしにしようと思っていました。それで、また懲りもせず全面箔もいいなぁとか思っていた。やっぱり前世は鳥なのでは。※現状次に出すとすればそれの本かもしれないけど、原稿はまだ序盤も序盤。
ところが。ふと、思いついてしまいました。2冊セットでブックケースとか入れちゃって、そのケースにでっかいシール貼るのよくない?です。いいかどうかは主観によって違いそうなので言い切れませんが、思いついた当初はスポォンと膝を打ちそうなくらい名案!って思っていました。自己肯定がすごい。2冊セットとなると、書いていた話は別に無理に2冊にする必要なんてないしな〜〜と思い、さらに思いついたのが今pixivに掲載しているシリーズ物を1冊にして、さらに別視点を1冊書き下ろす、という形です。元々、そのシリーズは私の推しについて、推しの周囲からの視点という形で話を書いていたので、書き下ろしが推し視点というのはいいなと思いました。絶対に推し視点は若干暗い話になると思っていたからです。ちょっと雰囲気が違ってくるかもしれないので、合わせて1冊にしてしまうのは嫌だな…というのがありました。
装丁を考える時とか、いろいろ検索すると過剰な装丁はいらないよ、読みにくいよ……って意見を見る事もあるんですが、まぁ……いいか!自分のやりたいようにや〜ろう!と新刊は2冊+ブックケース+箔押しシールという仕様が自分の中で確定しました。わーいわーい。

さて、どこに頼もう。

箔押しシールの方は正直もう頼みたい会社が決まっていたので、メインである中身とケースについて、どこの印刷会社に頼もうか探し始めました。で、既に1冊の本に対して最低2社使うという事になったので、これ以上分けるのは自分のキャパ的にいけるかわからんということで1社で完結できるところにお願いすることにしました。結果、緑陽社さんです。過去いろいろ検索してきた感じ、緑陽社さんは多分ちょっとお高めなのかもしれないですが、同時にクオリティがめっちゃ高いという話も聞きます。わくわくしかしない。わくわく。
緑陽社さんのWebサイトを見ると、ブックケースについてもばっちり掲載されています。ここでまず問題が発覚。……サイズ展開にB6がない? 今回もサイズはB6でほぼ決めていました。理由は好きなサイズ感ということもありますが、A5の2段組だと厚み的にブックケースが無理だろうなと思ったからです。Webサイトによれば、ブックケース利用の場合は最低でも冊子に1cmの厚みが必要とのことでした。
……よし!とにかく相談だ!と、長々と緑陽社さんの「カスタムコース個別見積」から見積もり依頼と相談が混ざったような内容を送ったような気がします。ちなみにこの時が確か4月初旬。緑陽社さんからは結構早く返事がきた記憶があります。結果からいうとブックケースはB6もOKでした。ただ、同時にケースの素材への相談や、ケースに空押ししたいという希望も伝えていたので、どっちかといえばそっちの方が協力会社に確認が必要など、新たな情報が出てきました。その節はいろいろ本当にありがとうございました……。こういう自分では予想していなかった事が出てくる事もあるので、特殊装丁の場合は早めに相談した方がいい。

基本のセットからどんどん脱線していく

ケースの話は一旦置いておいて、本自体については「小説本セット」を利用しています。表紙に大好きな特色が使えてオフセットです。わぁい。あ、今回緑陽社さんを選んだのは、「装丁小話#参」で味を占めてオフセットにしたかったのも理由の一つです。
さて、ここでまたむくむくとやりたい事が出てきました。本文用紙についてです。小説本セットの本文用紙は選択肢が「書籍用紙72.5kg」&「上質70kg」なんですが、他の本文用紙使えないかな……?と。これには自分の好みプラス理由もあって、ブックケースは前述の通り最低1cmの厚みが必要なんですが、B6で160p+64p・書籍用紙72kgだとこれが結構ギリでした。1.1cmちょい。やりとりの間で、できれば最終的に手作業でケースにいれるため、1.2cmはあるといいなと言われていました。そこで小説本セットには記載がないけど、他のセットにある紙(コミックルンバ系)で聞いてみたところ、若干厚みは増えるけどそこまで変化がない上に、使用する機械が変わる+紙の断裁も変わるので金額も上がり、金額を上げた分だけの効果がないかも……というお返事。なるほど。
そこでダメ元で「モンテシオンは使えますか?」と聞いてみました。前に使ってめっちゃ気に入ったけどもう廃盤で泣いたあの紙です。60kgは廃盤だから、69kgでいいんですけど……って聞いてみたら、まさかの56kgがあって(知らなかった)使用OKという奇跡が起きた。聞いてみるものだなぁ。ただ、この紙も小説本セットで本来使用する本文用の機械では使えないため、最終的に本文料金は小説本セット記載の価格に上乗せが必要に。でも厚みが2冊合わせて1.4cm程になったので私はハッピー。
あと、正直最初の見積もり見たらこれまでの過去最高額だった「風神雷神」を遥かにスポーンと超えた金額で、そこにちょっと上乗せするくらいもういいや〜〜!という変なハイ状態になってた。どうせここまで出すなら、ちょっとプラスして本がいい感じになるならその方がいいよ!って感じです。※「風神雷神」の時より部数を少し増やしたので単純な比較にはならないんですが、部数の割にそこそこな額です。
緑陽社さんはMypageというシステムで、見積もりや進行状況は基本そこで確認できるんですけど、この調子でMypageでどうこうできない内容ばかりで、最初はほぼメールでのやりとりでした。メールによって仕様がちょっとずつ確定していくと、その度にMypageの仕様が更新されていったな……。基本的に毎回同じ方とやりとりしていたので、もしかしたら本ごとにある程度担当的なものが決まっているのかな……と思いつつ(でも、他の会社さんも結構そうか)、いつも長いメールですいません……と心の中でペコペコしながらやりとりしました……。

特殊装丁、締め切りがめっちゃ早い(仕方ない)

今回の新刊ですが、パーツによって締め切りが結構違います。多分部数とか細かい仕様によっても変わってくると思うので、参考程度にしてください。まず一番初めに確定しないといけないのは、実は本(本文)の仕様です。ここが決まらないと、ブックケースの厚みが算出できないからです。ブックケースの仕上がりに対して中身が厚すぎても少なすぎてもダメなので、ここで決めた本文ページ数は基本的にまず変更不可と思った方がいいです。後から1ページだけどうしても増やしたいとかならいけるかもしれませんけど、どうしても中身が書けなくて20ページ減らすとか、逆にノリにノってしまって、16ページ増えた!とかも多分アウト。ちなみにこの本文の仕様を確定しないといけなかった日は本文締め切りの1ヶ月くらい前です。※見積もり途中で私は本文の締め切りを少し遅らせたので、実際にはもう少しだけ余裕あるのかも……? 1冊がほぼ再録だったけど、この時点で正直書き下ろしの方とか全然書けてなかった気がする。多分1/3とかしか書いてなかった。厚み的に本当はもう少しページ数を増やしたかったけど諦めました。諦めが肝心。
で。その仕様が確定したら束見本(実際の用紙を使って、中身を印刷してない厚みとかだけ見る本)を作ってもらって、それを元にブックケースのテンプレートが作られるのでデータを送ってもらいます。それからテンプレートに合わせてブックケースの印刷データと空押し用のデータを入稿。これが納品の1ヶ月と少し前。束見本の仕様が決まった2週間後くらいです。そして本文と表紙は締め切りが同日でしたが、納品の3週間くらい前でした。
締め切りが全体的になんとなく納品より早いですが、MAXの早割を使っているからです。というか、早割を使ってあの金額だったのに、早割を使わないなんて日には……もう、その、大変な事になるから(財布が)。どうしても金額はこれ以上あげたくなかったので、本文の締め切りは途中で10日くらい後ろにずらしました。途中でといっても、今メール見たら5月末の段階で既にスケジュール変更していました(あの時の私、ありがとう)。あまりにも直前での変更は料金が変わってくるのではないかと。

箔押しシールも同時で進行

一旦本からシールの話に移動します。ここまで一つもシールの話をしていませんでしたが、基本的にシールも本と同時進行です。同時進行といいつつ、作業量が圧倒的に違うので途中で止まったりしてました。最初に仕様を相談した日は緑陽社さんと数日しか変わりません。断られた場合、他でシールを作ってくれるところを探すorそもそもブックケース本当にやるの?というところだったので、相談だけでも先にしておきました。その方が安心です。
どこに依頼したのかというと、もうなんか薄々気がついた人がいるかも知れませんがコスモテックさんです(どこにリンク貼ろうか迷ったけどブログにします)。あの超絶技巧な箔の便箋とか、1000パターンの表紙とかで有名なコスモテックさんです。年始の箔宝石とか買ったりしてる。ただのファンだこれ。
Twitterを見ていると、コスモテックさんは対企業だけではなく、結構同人関係というか、対個人の依頼も受け付けているんですよね。なので、いつか表紙とか依頼してみたいな〜と思っていました。ただ、今回思いついた仕様が「ちょっとでっかいシール」という微妙なものだったので、そもそもこんな依頼を受け付けてもらえるのかという事でまずメールしてみました。
コスモテックさんはブログ、Twitter、note、オンラインショップはあるんですが、他の印刷会社のような印刷金額のわかるリスト的なものが掲載されていません。オンラインショップ以外の個人的な依頼などは基本的にメールして聞くしかないと思います。※毎回さまざまな仕様に合わせて見積もりを都度出しているみたいです。
個人が企業にメールして、すぐ返ってくるかなぁ……と思わず思ったそこのあなた。あなたが思っている100倍早く返信がきます。正直いつ休んでいるのか不安になるレベルでレスポンス早いです。緊急性がなかったら、もう少しくらい遅くてもいいです。本当です。今回対応してくれたのは青木さんという方でした(Twitterでも「青木さんいつ休んでるの?」ってざわついていた)。
「こういうシールで、箔は2種類で〜〜」とやりたい仕様を書いて送ったところ、あっさり「できます」とのこと。やった〜〜〜!
あと、Twitterで「箔の校正」という感じでいろいろ提案してもらってるのを見て、楽しそうだなぁと思っていたので、今回箔の種類は色だけ希望を出して何パターンか校正を送ってもらうことにしました。

6パターンも送ってくれて悩ましいが過ぎる(写真のデザインは最後調整したので少し違います)

送られてきた校正がこれ。箔を2種類使用したデザインにしたのですが、リクエストとして、「欠けた円の部分が金色、タイトル部分は紺系か銀系で」とお願いしました。金の部分、これ6パターン全部違う金色なんです。ツヤとマットとかそんな程度の違いではなく、明確に色が違う。でも全部金色。なんならタイトルの方も全部違う箔。つまりこの画面の中には箔が12種類。お盆休み中どれにするかずっと悩んだ。写真ではわからないけど、ベースの素材も普通の上質紙とトレペ素材の2パターンあるんだ。これは青木さんの方から提案してくれた。すごいぞ。トレペ素材はめっちゃかっこよかったんだけど、ブックケースの素材のNSボールにあまりにも一体化して落差がなかったので、今回帯っぽくしたかった事もあってベースは上質紙にした。いつかトレペのシールがかっこいい装丁もやってみたい。

シールを作る時に絶対にいる…!と思い、緑陽社さんにはケースサンプルが出来上がった段階で送ってもらいました。ここに同じく送ってもらった各種シール校正を当ててた。

これが送ってもらったブックケースサンプルと束見本です。サンプルなので印刷とか空押しはされていないです。これ、実物持った方はびっくりするかもしれない。厚みの割にマジで軽い。モンテシオン56kgの軽さはすごい。あと柔らかくて捲りやすい。最高。分厚い本でもずっと持ってて苦にならなさそう。それくらい軽い。
そうこうしていると、そのうち本とシールが手元に届きます。ここから手作業です。自分で全部シールを貼ります。自分で自分を追い込んだ仕様なので、責任持って自分で貼り貼り……貼り貼り……。
ちなみに本文段組は「いつかの夜明けに涙を喰んで」と確か同じなので割愛。

完成

今度からちゃんと自然光で撮影します(反省)
2冊入ってますね〜
デザインはケースと表紙で合わせてます(この欠けさせてるのも意味を持たせてます)

「底の知れない男/泥濘なき底から」
●底の知れない男
B6/160p(表紙除く)/1段組
表紙 ブンペルホワイト175㎏/2C刷り(イエロー/ブルーブラック)
本文 モンテシオン 56kg/スミ1C刷り
●泥濘なき底から
B6/64p(表紙除く)/1段組
表紙 ビオトープGA-FS ミッドナイトブルー 170kg/1C刷り(シルバー)
本文 モンテシオン 56kg/スミ1C刷り
●ブックケース(三方背)
素材 NSボール 350g/白1C刷り/空押し(116㎠)
●箔押しシール
上質90kg/W120×H60mm
箔2種(シルキーパイン・シルキーナイト)

スケジュールについての余談など

今回は仕様が複雑だということもあって、思いつきからの相談〜納品までほぼ5ヶ月でした。毎回、今は特に合わせるイベントもなく「思い立ったら頒布」なのでゆるゆると準備期間は長めにとってます。本当はもう少し余裕があるはずだったんですが、緑陽社さんに相談している途中で「……9月、推しの誕生日じゃね?」と奇跡的に思い出しました。おいおい早速合わせるイベントが発生したよ。そこから誕生日が発行日になるようにいろいろ逆算に逆算を重ねたところ余裕をもっていたおかげで原稿に割く時間もある程度とった状態で間に合いました。セーーフ! 本当は10月とかに出そうと思ってた。だから最初の相談メールでは秋〜冬にかけて発行したいって相談してた。実際には結構夏に近いギリギリの秋……秋? 9月だから秋だと言ってくれ。
今回の本が大掛かりだったので、年内はもうこれ1冊かもしれないですが、今回緑陽社さんで初めて発注したので「ウェルカムポイント」というものをもらいました。通常の2%(振り込みだと4%)に、初めての発注だと10%ポイントが上乗せされる特典です。なので支払い額の12%(振り込みだと14%)をポイントとしてもらったので、初手から結構な量のポイントを受け取ってしまった……。何か本を作ろう。緑陽社さん、余部サービスで40部多くくれるサービスもあったりしてお得な面もあるし、実は最終的にはそこまで高くないんじゃないかな〜と思っていたりします。正直相見積もりとかほぼしないから、よくわからない(やりたい仕様に合わせてふらふらといろんな印刷会社を使ってる)。個人的には印刷とか慣れていない人程、最初はいろいろ手厚い印刷会社の方が安心だと思う。
今回ほぼ不備なかったんですが、唯一「底の知れない男」の表紙入稿データについて、「これがこうなってますが大丈夫ですか?」ってところがあって、営業時間外なのにわざわざ連絡くれたりしました(明らかなデータの不備というわけではないので、そのまま印刷されてもおかしくはない)。この件はその時は「大丈夫です!」って言ったのに、わずか10分後くらいに「……やっぱりこうしたい!」みたいな気持ちになって、慌てて電話とメールですぐに連絡して(営業時間外だったから留守電にメッセージを入れた)翌日対応してもらうという奇跡があった。本当にお手数をおかけして申し訳ない(この8月というめっっっちゃ忙しい月に……)。

三者三様、見当合わせ

その他余談として、今回緑陽社さんにもコスモテックさんにも、結果的に「見当合わせ超シビア」な依頼になりました。
本の「底の知れない男」の方ですが、前述の通りこれ特色2色刷りなんですよ。で、これブルーブラックがのるところの黄色を全部抜きにしている鬼畜データです。表紙の罫線もです。こんなに細かったり小さかったりするのに……。ちなみにこれが上で言ってる「電話をもらった件」です。元々ブルーブラックをのせにしていて「まあ黒っぽいしいいかな。細かいしなぁ〜」と思ってそういうデータにしていたんですが、「のせで大丈夫ですか?」ってわざわざ連絡していただいたんですよね。その時は「大丈夫です!」って言ったくせに、わずか約10分後「……もしかして黄色に紺のせたら黒っていうより緑がかってくる……?」とか、緑陽社さんのwebにある特色を各種色上質に刷った見本を見て、「……黄色の上のブルーブラック、微妙かも」とか思ったのが抜きにした経緯です。
これ、文字とか小さいから塗りが細いんですよ。基本1mmもないです。髪の毛1本分くらいはズレが起きるかも、ということで了承の上お願いしたらこの完成度。拝む。あとやっぱり抜きにしてよかった〜紺色がキレイ。オフセットの印刷機にかけると紙って若干伸びるんです。なので、実はこの見当合わせを美しく仕上げるのって技術が必要(五体投地)。
コスモテックさんに依頼したシールも2つの箔が隣り合うところがちょこちょこあって、やっぱり超見当合わせになりました。実は校正段階で「あ、ここ抜きにしたほうがキレイになるなぁ」と金色の箔の版だけ課金して出し直しました。完成品を見て、やってよかったな〜の気持ちです。1枚づつ手作業で押していただいたり、製版にも気を使っていただきました(五体投地)。
そして上の見当合わせより大分簡単ではあるんですけど、私がシールを貼り付けるときもブックケースの空押しに合わせてぴったり貼る必要があったので、ある意味見当合わせでした(自業自得)。場合にもよるけど、シールをキレイに貼る時は一度に台紙から剥がさないのがコツだ!

シールの細かさもシール貼る位置もめちゃくちゃシビア
ブルーブラックの下の黄色は全てヌキ。なのに殆どずれてない

今回の宣伝とか各種リンクです。

長々と書いてしまったけれど、今回はこんな感じです。次は想定小話#弐の「風神雷神」で装丁を変更して再頒布したので、その辺りを書こうと思います。

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