[装丁小話]箔と特殊紙で赤くて暗い本を作った話
あけましておめでとうございます。とうとう2022年か〜〜。今年もゆるゆる本を作っていく予定なので、どうぞよろしくお願いいたします。
そして早速4冊目の話。12月の新刊その2です。多分一番わかりやすく「憎悪」がテーマの暗い本です。「小さくて薄い地獄」がいいな、と1冊目でもやった新書サイズ。あと、2冊目を出した時にフェアで結構大きな額のクーポンをもらったのでそれを使用するために今回はSTARBOOKSさんで刷ってます。
地獄とは?
なんぞや、って感じですけども。とりあえず主人公が元々いた組織の全てが憎い、みたいなifの本だったので全体的に暗い雰囲気にしようというところから始まりました。
タイトルに「緘」という文字を使っているのですが(緘口令とかの緘)、さらに口をつむぐというイメージで漢字の中にある「口」に×で箔を押す、という部分は結構早々に決まりました。口を閉ざす原因になった理由がまあ結構血腥いというか、残酷な理由だからというのがあります。
あと何も決まってなかった。タイトルすらも。
仮案を発掘。今ファイルの日付見たら6/1になってましたね。
6/1のTwitterで今回の本の発端みたいな話を上げてるので、おそらくその流れで作ってる模様。
その後タイトルについては「獅子緘黙」となりました。緘黙は緘の字を使える言葉かつ、「沈黙」より強いイメージを感じたので使っています。獅子の部分は話に関わってくるのでついてますね。
組版については、以前の「残響のおちる泥黎に」と同じ新書サイズなので基本的にそれと同じです。部分的に最初の注意書きの入れ方や、各章のタイトル文字だけ調整しています。
あと、いつもは後書きを最後のページの奥付の上(ページの半分)に入れているのですが、今回は全編書き下ろしなので1ページ使いました。その分、奥付のレイアウトも少し変わっています。
特殊紙・ファンタス
ファンタスというのは片面が艶のあるキャストコート紙で、その艶面が色付き。ツヤッツヤ〜〜です。今回はシンプルに赤にしました。風神雷神の装丁を決めていた時、これの黄色も一瞬候補に挙がってたというくらいには個人的に好きな紙です。本を開けたときの印象が強くていい。
暗めの表紙を開けたらパキッと赤!どーん!って感じにしたかったので、表紙は箔以外の部分には一切赤を使いませんでした。
表紙側は今回「緘」の字を主役にしつつ、不穏な雰囲気が全体を通して漂う本のため、そんな感じのテクスチャを敷きました。もやもや〜〜としているのとか、その辺りはなんとなくの画像加工です。
表4の紐と勾玉の絵柄については、最初にデータを入稿した時は実はなかったものです。(だからTwitterに載せている画像にもいない)スタブさんから入稿した後にいただいた「不備って程でもないけどどうしますか?」な指摘メールで(ありがとうございます……)表1を微調整した時に、「あ、そうだ」と思って追加した絵柄です。修正段階で何をしているんだ。
特殊紙・クロマティコ
遊び紙に使用しました。何気に遊び紙を入れたのは初めて。わかりやすくいうとトレーシングペーパー的な色付きの透けてる紙です。微妙に少しずつ廃盤の色が増えてきて怖い(なくならないで……)。ファンタスに続いて赤でまとめたかったのでレッドを選択。本当は本の前後に入れようと思っていたのですが、この後の箔の仕様との兼ね合い(金額面)で前だけの遊び紙にしました。ちょっと遊び紙としてはお高めの部類。
今回やりませんでしたが、実は1pに絵柄を仕込んでクロマティコを捲ったらそれが見えるという遊びもやりたかったんですよね。試験勉強とかでよくやる、赤ペンで書いた文字を赤下敷きで見えなくするみたいな暗記するときのアレ。今の学生もそうやってるのかわからんけど……今は皆なんらかのデジタルを駆使して勉強している気もするけど……。
スタブさんの今回の仕様だと4Cの印刷を本文と同じ紙(淡クリームキンマリ)には無理だったので諦めました。あと、実際見えなくするには薄めのオレンジくらいまでの色(MとYが20づつくらいとかそんな感じ)じゃないと難しそうとのことです。血痕がビシャってなってる絵をタイトルにかぶせようかなって思ってたんですよね。いつかやりたいなぁ。血痕じゃなくてもいいから。
実際遊び紙として使ってみた感想ですが、硬めで厚めのせいかちょっとゴワっとしました。※調べた所、ちょっと湿気に弱いみたいです。大きい版の本ならもう少し気にならないかも……? 新書サイズで使うのはちょっと博打かもしれない。でも開いたときの雰囲気はめちゃいいんだよなぁ…。
透明箔・LUMAFIN(を、2度押す)
「風神雷神」であれだけ箔を使ったので、とりあえず箔押し欲は満足したと思っていたのですがそんなことなかった。
LUMAFINは上にも書いたように透明の箔です。色展開がそこそこある。今回は血飛沫のイメージで赤。よ〜〜〜〜〜く見たら分かるんですが、今回同じ箔を2回押しました。「風神雷神」とは違い、面積的にも一度でペッタンと押せる状況だったのですが、テストしてみたいことがありました。
透明箔、重なったらそこだけ濃くなるのかい?という疑問です。結果としては「若干わからんでもない」です。ちなみに×の中央部分が重なっているところ。これは、今回の表紙絵柄が結構暗い色目だからというのもあるかもしれない(わかりにくいのが)。
白い紙だったらまた違うかも。違う色のLUMAFINを重ねても楽しそうだな。黄色とピンクとかさ。それならセロファンを重ねたみたいにオレンジっぽくなったりするのかもしれない。(またやってみたいことができてしまった……)え、すごくかわいいんじゃない?(透明箔で特色印刷みたいなことすな)あとマットPPは初めてだったけど、手触りがサラサラでいい。
ちなみに段組はほぼ装丁小話#壱と同じなので割愛します。強いていうなら奥付周りと各章のタイトルの入れ方は少し文字サイズなどを変えました。
条件次第で刷り上がりは変わる話
ところで、実はこの本、作成した段階ではここまで暗い色の表紙になるイメージではありませんでした。納品されて、ワクワクしながら包みをあけたら「おっとぉ……?」と一瞬思ったくらいには暗いというか、青みが強い仕上がりだったんです。データはウォームグレーよりっぽかった。こんな感じ。
中身の雰囲気や、特にキャラクターのイラストを使っているわけでもないという事もあって「これはこれで雰囲気OK」と思ったのでそれ自体は別に構わなかったのですが、それはそれとしてこうなった理由を聞いておこうと問い合わせてみました。今後のこともあるしね。で、メールしたところ、スタブさんはおそろしく親切にめっちゃ丁寧に教えてくれた。※イベント前の(おそらく)めちゃくちゃ忙しいであろう時期にも関わらず、いろいろ確認してメールしてくれた。ほんとありがとうございます……。
①今回ファンタスに使った印刷機が青みよりに印刷される機械
③そしてマットPPも気持ち程度に青みになる
という偶然がぴったり合わさってこういう事になっているらしい。特殊紙は何らかの偏りが発生する可能性が強いので、色味が気になる場合には標準的な無難な紙に刷った方がいいのかもしれない。スタブさんではコート紙に使う印刷機では赤味が出やすいらしいので、それにマットPPをかけるとプラマイゼロに近い形になるそうな。ほほ〜。
ちなみにスタブさんはRGB印刷も可能なので、その点はどうなのかをついでに聞いてみた所、今回のような絵柄の暗めの場合はもっと暗くなる可能性があるらしい。危ない所だった。
※上記のスタブさんでの色味については、この記事を鵜呑みにせず気になる方は事前に確認してください。メールを抜粋して要約したつもりですが、記載に間違いがないとは言い切れないので……。あと絵柄によっても違うと思うので……。
そして今回の本とスタブさんへのリンクです。
2021年は今までに装丁を書いた4冊と、薄い文庫(頒布と無配、計2冊)を作りました。よく書いたし作ったなぁ。薄い文庫の話もまた書こうと思います。小さくて薄いのがまたかわいい〜。
それではまた。
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