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AM 4:12

皆さんはご飯に“助けられた”経験はありますか? 

ここまで仰々しく書いてしまうと「別にそうでもないな...。」と思いますよね。

人生の大切な時に行くフレンチや懐石、たまの贅沢に行くイタリアン、いつも帰りに寄ってしまう牛丼屋など...なんでもいいんですけど、ご飯を食べて今までの昂った感情を抑えられたり、純粋に空腹感を満たして満足できたり、そういったもので構いません。

私はね、ありました。

というのも、私最近失恋しまして。

ここまでバッツリと気持ちを切られたのは、中学3年生ぶりなのかなぁ。失恋と呼ぶのも大袈裟に聞こえるほどの恋愛だったのですが、私は確かに気持ちがあったし、相手に気持ちを手折られたのも事実なので、失恋という言葉を使って筆を進めていこうと思います。

「あ、もう無理だな。」と悟って、こちらからアピールをするのをやめてしまいました。なので、まあ、気持ちを伝えることも、出来てない中途半端な恋心だったのですけど。

悟った夜に、私はひとりでヤケになって、友達と飲み会をした時に買った余っていた梅酒とウイスキーを「全て飲み干してやる!」という気持ちでコップと炭酸水と瓶2本を持って、床で1人の宴会をはじめました。

情けないという気持ちと、どこで私は間違えてしまったのだろうという気持ちと、悔しさにはじまり怒りなど沢山の感情に押しつぶされそうになりながら、日常的にある頭痛とお酒を戦わせれば何か明日にはスッキリしてるかも、という一縷の望みにかけて、美味しくもない苦い液体で何度も喉を潤しました。

飲んでる間は、スマホの情報量にもついていけそうになく、過去の思い出を想って泣く事も出来ず、手持ち無沙汰になってしまうのでその日のお昼に御茶ノ水の丸善で買った『人間失格』を片手にぱらぱらと読み進めていました。

自分の心のうちで『人間失格』にケッとヤジを飛ばしながら読み進めていくうちに、だんだんとお酒がまわっていって、目がまわります。そこで、私は今日何も食べていないことに気づいたのです。

おぼつかない足取りでキッチンへと進み、なんだかコッテリしたもので今の気持ちを帳消しにしたいと、ごま油とにんにくを片手に水の入った鍋に火をかけました。

でもね、そこでなんだかハッと、気分が変わったんですよ。何が確実に変わったとは言い難いけど、やっぱりニンニクごま油は違うな、と。
急いで鶏肉を解凍して鍋にぶっ込んで、ふつふつと息をたてる鍋を片目に鶏ダシと塩を準備しました。

鶏肉に火が通ったころを見計らって、うどんを汁に投入して3分。茹だったら鶏ダシを目分量でサササっと、塩をサッサッサと鍋に入れてかき混ぜて大きいお椀にうつし、余ってた青ネギを親の仇くらい乗せて、完成。

キッチンから部屋に移動して、もくもくと食べました。

気分というものは、割と私に最適な解を与えてくれていたようで、空きっ腹にたくさん入れたアルコールも、瞬時に逃げ出すようなそんな、少し汗ばむような暖かさで満たされました。

食べ切った頃に、ふう、と一呼吸。
力が入っていた肩が下がり、汗をかいた鼻下を拭って、なんだかすっきり。

1時間半前の、たったひとりの人からも愛されない絶望に駆られてお酒をひたすら喉に流し込んでいた時があったことすら疑問に思ってしまうような、そのくらいの安心感がお腹の辺りから全身に広がっていくのがわかりました。

そこからまたキッチンに移動して、スープをひと口飲んで、シャワーに入ってベッドに横になって、吸い込まれるように眠りにつきました。

眠りにつく寸前、自分の気分って本当に侮れないな、としみじみ思っていました。
だって、前日に読もうとした『四畳半神話体系』を「なんか違うな。」で『あつあつを召し上がれ』に変えていたんですから。

小川糸さんの『あつあつを召し上がれ』は、友達に少し前におすすめされて買った、いわゆる“積読”でした。

それまでは読もう読もうと1ページ目を開いても、またあの「なんか違うな」が襲ってきてあまり読み進める事が出来なかった本を、前日のあのタイミングで読みたくなった(しかも一晩で読破した)のは、何故だかさっぱりわかりません。

何か、運命でも決まっているのでしょうかね。誰かが私たちの生活をずうっと上の方から見ていて、いいタイミングでテコ入れをしてるような、そんなこと、あるのでしょうか。

家族愛や無償の愛をあまり信じられない私ですが、珍しく感動して緩やかな気分で読破する事ができたのも、22歳半ばに差し掛かる今、必要な事だったのでしょう。


次の日に残った汁をお粥にして食べたら、そこまで美味しく感じなかったのも、昨日のうどんが美味しすぎたからなのか、そもそも元からそんなに美味しくなかったのか。
謎は残るばかりです。

最後に。
あんなに美味しいおうどんを食べさせてくれた、たったひとつの失恋、ありがとう。
そしてあの日の前日に『あつあつを召し上がれ』を読ませてくれたなんらかの存在、次もよろしく頼むよ。

もう日は登り、カーテンから透ける白い光がとても眩しくなってきました。


2022/08/11
AM 5:00
柊朔

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