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掟上今日子の備忘録を読んだ。 感想
「掟上今日子の備忘録」を今さらながら読んだ。
「今日子さんには、今日しかない。」
本作はキャッチコピーにあるように一日経つと記憶を失くしてしまうという”忘却”探偵の掟上今日子と、何をやっても犯人と疑われる性質をもった主人公の隠館厄介(かくしだて やくすけ)の物語である。
2015年には日テレでテレビドラマ化もされ、西尾維新作品の初のテレビドラマということで話題になったのを記憶している方もそれなりに居るのではないかと思う。
一日しか記憶がもたない探偵とどんな事件においても犯人扱いされてしまう不幸な人物といった本格重厚なリアル指向ではないがミステリ小説の舞台装置としては興味が湧く設定と、そこからお出しされるあっさり指向のまさにライトノベル的でありつつもジュブナイルにしては対象年齢が少し高い「丁度いいボーイミーツガール」に仕上がっている。
文量としても一話50~60Pの短編が5話入っているというカフェでふらりと読むのに適した構成がとられており非常に読みやすいと感じる。
さて、本題のミステリ小説の出来に関しては「物語」シリーズでジュブナイル作家として不動の地位を確立した西尾維新だがデビュー作「クビキリサイクル」がミステリ調の作品だったこともあり良好といいたいところだがそれなりに問題点がある。
第一話では「研究所内で盗まれたSDカードを探す」といったこんなことで現実的に探偵を呼ぶのか?という程度にはミステリを書きたいための状況設定になっているがその解決方法がミステリ小説の探偵にしては強引である。
また、続く話もミステリのために作られた状況設定と詭弁のような言い換えで、納得がいくトリックが存在して探偵がそのトリックを解き明かすことによって読者を説得するという基本のミステリ様式にはあまり当てはまっていない。
割とライブ感の強い今日子さんが言った言わない程度で強引に事件を収束に向かわせる展開はシャーロックホームズのような古典的ど真ん中の推理小説を期待するとちょっと違うなと思ってしまうだけは伝えておく。
だがそれはミステリ小説の範疇においてではあって別に面白ければミステリ小説の皮を被ったジュブナイルでも構わないのだろう?というのが「掟上今日子の備忘録」を表する言葉には最適だろう。
この点は「クビキリサイクル」の時点でみられその方向に振り切った「物語」シリーズで爆発したように西尾維新の真骨頂である。
ミステリ部分はフィクション味は強い。しかし、大人しめに見えるが行動力があり聡明な女性が事件を解決するという様式を通じて「掟上今日子」という癖のある探偵キャラクターを魅力的に描くことには大成功している。
読んだ後にこの作品を誰かに説明するとき掟上今日子というキャラクターを「今日子さん」と呼ばずにはいられなくなるだろう。
主人公が厄介な事件に巻き込まれミステリアスで眼鏡をかけた聡明な美人がたちまち事件を解決するというフォーマットを作った時点でこの小説はすでに成功している。
なんともいえないミステリ小説だなあと思いながらも話が進むたびに今日子さんが早く登場しないかなと期待している自分に気が付く。
推理小説の皮を被った、というと流石に失礼が過ぎるがそれ以上にキャラクター小説として非常に面白い。
そしてキャラクター小説だと思うと今度は逆にミステリとしての完成度の高さに驚かされるといった何言っているのか分からない現象に襲われる。
キャラクター小説として120点、ミステリ小説としては75点といったところだ。
まあ、そんな掟上今日子というキャラクターが好きになる小説、それが「掟上今日子の備忘録」という作品であるという感想だった。
まだ読んでない方、カフェなどで小一時間など空いてしまい手持ち無沙汰で時間がある方、キャラクター小説、ただし完成度の高いミステリ付き。が読みたい。そう思っている人には割りかし読んでみてもいいんじゃないかと言える作品である。
そしてなにより______。
表紙(今日子さん)が可愛い。