おじさんとの夏休み 8話
それにしても、Tシャツまでパンパンだな!
「はい、時臣さんは湯上がりこっちでしょ」
母さんもニッコニコしちゃってさー。さっきの俺への渋ーい顔はどうしたんだよ。
「お、いや〜すいませんね、ビールなんて。じゃあ遠慮なく」
もう俺には嘘にしか見えない笑みで、遠慮なく俺の隣に座って来た。
「悠馬、ちょっと聞こえちゃったんだけど、S大苦戦中なんか?」
プシッと音を立てて缶ビールが開けられて、あの独特な香りが広がってくる。
今の俺にはまだこれが良い香りとは思えないけど、でもそろそろ酒にもなれないとダメなんだろうなぁ…特にこの家に住む限り…全員酒好きなんだもんな…。
「苦戦中っていうか…まあ、すんなりは入れそうも無いっていう感じ…?」
あ、それが苦戦中ってことか。
おじさんは洗った髪が降りていて、さっきのシャンプー後のオールバックよりは少し若返った感じ。結構長いんだな髪の毛。
そんなこと思ってぼんやり牛乳を飲んでいたら、
「あ、和代さん。さっき風呂入りながら悠馬と決めたんですけどね」
は?何言う?なんか決めたっけ?
「夏休み、悠馬東京の塾の夏期講習に行かせてみません?俺預かりますよ。勉強も教えられるし」
きいてねえよ?ねえ?なんの話??
「ちょっと、おじさ…」
でかい手で顔を覆うな!
「え?本当に?良いんですか?でも今から夏期講習の申し込み間に合うの?」
「俺の知り合いに塾講師いるんですよ。そいつに頼めば一人くらいどうとでもなるでしょう。塾は儲かれば良いんですから」
缶ビール一気に飲んじゃった。母さんは2本目を取り出し
「流石は元KOボーイねえ、交流が広いわ〜。お願いしちゃおうかしら?実家に居たって、どうせダラダラしてるだけだろうし」
最後の方はキッと俺を見てきた!なんだよ!
「なんだよいきなり、俺聞いてないけど!」
母さんの手前、小さな声で言ってやるから感謝してな。
「マジで勉強のつもりだけど。東京の塾厳しいぞ?そこ乗り越えればS大なんかチョロいチョロい」
新しいビールはもう半分も無さそうな感じでグッピグっピ飲んでる。
ほんとかなぁ…。疑わしいこと100%だよ!でもまあ…考えてもみれば受験生の大事な夏休みに預かるなんて言い出すのは、やっぱり勉強以外考えられないしなぁ。
「夏休みいつからだ?まさか補習なんてないよな?」
「夏休みは24日から。補習は…それは明日からの期末で…」
おじさんビール飲みながら横目で俺をじっとり見るのやめて…はい、補習は絶対に避けます!約束します!
おじさんはその場で電話をかけ始め
「あ、今平気?うん、俺だけど…え?まあ実家にいるからかな?ははは、それでさ?お前のとこの夏期講習一人入れられないかな。そう今から間に合う?」
なんだか妙な空気の電話だなぁ…
「お、さんきゅう!うん、名前は篠田悠馬。篠田は俺と同じで、悠馬のゆうは悠久の時とかの…そうそうんで、馬な。甥っ子なんだよ。うん、S大狙いらしい。なんかギリっぽいから鍛えてやって。ははは、じゃ、よろしく」
スマホを切ったおじさんは、母さんに
「大丈夫ですって、手続きは俺が無理やり連れてくんでこっちでやりますよ。ご負担はかけません」
なんかの営業みたいだな…まさか塾の営業の仕事なんかもやってるとか…
「ええ?でもそれじゃあ…」
「良いんですよ、久々に悠馬見たらなんだか可愛くてね。受験危ないようなら手助けしなきゃって」
ここでも「ははは」とかの嘘くさい笑いをする…うっそくさ…