つれづれが好きです。くらしのなかで、気づいたことや気になったことをつづります。そして、…

つれづれが好きです。くらしのなかで、気づいたことや気になったことをつづります。そして、ことばを大切にしたい。

最近の記事

【散文】10分の意味。1秒の価値。

 寝坊した。  ゆうべ本を読んでいて、いつもより1時間くらい遅く床についた。それがまずかったのか。   1便遅れの地下鉄  あさ、無意識に枕元のスマホをみて、眠気が吹き飛んだ。いつも起きる時間より1時間以上過ぎている。目覚ましは鳴らなかったのか。わからない。そんなことはこの際どうでもいい。身支度を急がないと。遅れる。  1時間くらい遅く寝て、1時間以上遅く目が覚めた。これじゃあ〝元金〟に利子をつけて、翌日に返済を迫られるようなものだーと、トンチンカンなことがふっと頭に浮

    • 【散文】ぜいたくな時間

       カーン、カーン、カーン。  突然の鐘の音に、すこし驚く。音は、通り過ぎてきた方から聞こえる。手元の時計は午前10時24分を表示する。  「中途半端な時間だな」  そう思いながら音のする方を見ると、テントを張り、おとなも子どもも一緒になにかやっている。そばに立つのぼりには「ガールスカウト募集」とある。  カトリック雪ノ下教会の前に人だかりができている。  5年ぶりの鎌倉  10月(2024年)の晴れた日曜日、5年ぶりに鎌倉・鶴岡八幡宮の参道・若宮大路の段葛を歩いている。ニ

      • 【随想】記憶のさざ波にのって(参)

         韓国から帰国して出勤すると先輩に呼ばれた。「しばらく、おとなしくしていた方がいい」。韓国出発前日の仕事でミスをしていたらしい。「顛末書を」との話もあったそうだが、1週間も海外に行っているということで、結局、帰国後の注意だけになった。ただ数日は「海外逃亡」とからかわれ、土産話は〝自粛〟せざるを得なかった。  台湾との距離感  はじめての韓国は「戦禍の歴史」を考えるきっかけになった。メディアを通してしか知らなかった現地に残る「空気」を、男の子を通して知ることができたのは、つ

        • 【散文】つまずく

           つまずく。  ほんとうによく、つまずく。  最近とくに、つまずくようになった。  自分はなにも変わっていないつもりだけれど、そうではないらしい。  それにしても、つまずく。  いやになる。 ◇  家の玄関の上がり框(かまち)の段差で、つまずく。  階段の踏み板で、つまずく。  家のなかの段差のない所を歩いていた。  さすがにつまずかなかったが、つま先を何かにぶつけた。痛いっ!  ぶつけてもつま先が痛まないよう一年中スリッパを履くようにした。  外出すれば歩道の段差で、

        【散文】10分の意味。1秒の価値。

          【随想】記憶のさざ波にのって(弍)

           1988年、韓国はソウルオリンピックに沸いていた。「和合と前進」を基本理念とする大会は9月17日から10月2日までの16日間。160の国・地域から1万3600人余が参加する夏季大会史上最大規模を誇った。アジアでの夏季五輪開催は、1964年東京大会以来2番目。五輪開催は国際社会での飛躍を目指す一歩でもあった。  韓国にとって1988年はもうひとつ大きな意味を持つ。国民の民主化要求に応え前年12月、16年ぶりに国民による直接選挙で大統領選が行われ盧泰愚氏が当選。1988年に大統

          【随想】記憶のさざ波にのって(弍)

          【随想】さんすうが、あつい

           ちょっと古い話になりますが、今年(2024年)7月の英国下院総選挙は、最大野党・労働党の圧勝で14年ぶりに政権交代しました。選挙では教育分野の取り組みとして、「数学(算数)」教育のあり方が争点のひとつになりました。  英国と、日本と  日本での報道をみると、与党・保守党のスナク首相は英国人口の8割超を占めるイングランドの全児童・生徒を対象に「18歳までの数学必修化」方針を打ち出しました。一方の労働党は「優先すべきなのは初等教育」として、小学校での「数学(算数)」教育の充

          【随想】さんすうが、あつい

          【随想】記憶のさざ波にのって(壱)

           古い写真のようなセピア色した記憶のところどころに、あのころ見た色が浮かび上がった。眠っていた色を呼び覚ましたのは「台湾茶」。東アジアに浮かぶ「美麗島」の名前はさざ波となって、三十数年前の出来事にまでたどり着いた。ひとつひとつの記憶はなつかしく、つらく、そして示唆に富む。時間をさかのぼろう。  まず、23年前の沖縄から。  はじめての沖縄  2001年6月7日。沖縄に初めてやって来た。東京・羽田空港で乗り継ぎ、計約4時間のフライト。  盛夏ではないが、北国から到着したばかり

          【随想】記憶のさざ波にのって(壱)

          【随想】現実と空想の自由な旅

           現実と空想を行き来する。特に幼い子どもは得意なようです。おもちゃで遊んでいるときだって、友だちと一緒のときだって、絵本を読んでもらっているときだって、そう。いつの間にかアリスのように一人「不思議の国」に迷い込む。まるでドラえもんのひみつ道具「どこでもドア」を持ってるかのように。  その「ドア」って、ひょっとして… あわいのいきもの  札幌で活動する絵本作家ら8人が企画した「あわい(間)」・「境界」に住む「いるけど見えない」いきものをテーマにしたインスタレーション「あわい

          【随想】現実と空想の自由な旅

          【随想】最後に残るもの

           近所の空き地で建設工事が始まった。この場所は路線バスの走る幹線道路と片側1車線の脇道にはさまれた角地。通勤時はもちろん、休みの日に出かけるときもときどきそばを通る。何ができるんだろうとは思うが、案内表示板で確認するほどの関心事にはなっていない。 思い出せない  ところが、ここは以前何に使われていたんだろうと思いはじめた。いくら考えても、記憶をたどっても、思い出せない。ちょっとイライラしてきたとき、ネットの地図(航空写真)で調べた。答えはすぐに出た。便利な時代になった。

          【随想】最後に残るもの

          【随想】「話すように」は書けない

           「あの店、事前に予約した方がいいみたい」  街を歩いていたとき、若者のこんなやりとりが聞こえてきました。 「おっ、飲み会かな」とか、「予約しないと入れない人気店に行くんだ」とか、少しうらやましくなったことを覚えています。  そのときはそれだけのことだったのですが、後日、なんというか、妙に気になりだしました。何がそんなに気になったのか。もやもやが解消しないので、書いてみました。あれっ?  それは、「事前に予約」への違和感でした。  そもそも、予約というのは「事前」にする

          【随想】「話すように」は書けない

          【随想】貧困と格差と

           子どものころ、夏休みの思い出はいろいろある。たとえば、海水浴、花火見物、夏まつり…。どれも「あたりまえ」のことで、毎年のことだった。  いま振り返れば、そのころは昭和の高度経済成長期。世の中、あらゆる面で活気があったように記憶する。  それでも現実には、地域間(都市と地方)や職業の違いなどによる経済的な「格差」や「貧富の差」はあっただろう。しかし、それ以上に「あす」への高揚感が社会の中で優位にあったのかもしれない。あるいは、社会はそれに目をつむり、目をそらし、ひとはあきらめ

          【随想】貧困と格差と

          【随想】ユニバーサルことば

           「ユニバーサル」  すべてに共通であるさま。一般的であるさま。また、万能であるさま。                  (精選版日本国語大辞典、アプリ版)  この言葉を含んだ「ユニバーサルデザイン」は日常、よく耳にします。1974年、アメリカ人の建築家で教育者でもあるロナルド・メイス氏が提唱したそうです。いまでは、建築や住宅のみならず、社会生活のあちらこちらに、障害の有無や、性別、年齢、国籍、文化の違いを超え、すべての人に使いやすいモノやサービスは広がっています。  と

          【随想】ユニバーサルことば

          【随想】春隣(はるどなり)

           俳句を詠むことはありませんが、「歳時記」をたまに開きます。日本人の季節感や、それを言葉でどう表現しているのか知ることができるから。  紹介されている作品は現代のものから古典までさまざま。はっ、と気づかされる言葉や表現に出会うとうれしくなります。  まだ秋の入り口。これから紅葉が山から平地へと広がります。  そして、冬。  ちょっと気は早いですが、冬の季語では「春隣(はるどなり)」が好きです。  春夏秋冬。  春(4月)を年度はじめとするからでしょうか、季節を表す言葉は一

          【随想】春隣(はるどなり)

          【随想】装う

          どんなに みじめな氣持でゐるときでも つつましい おしやれ心を失はないでゐよう かなしい明け暮れを過してゐるときこそ きよらかな おしやれ心に灯を點けよう              (雑誌「スタイルブック」より抜粋)  この文章は、日本の敗戦の翌年、1946年5月に創刊され、後の「暮しの手帖」(1948年9月第1号)となる雑誌「スタイルブック」巻頭の一節です。敗戦で国民の気持ちは下を向きがち、ものは不足している。そんな暮らしのなかでも、おしゃれする、装うことを忘れず前を向こ

          【随想】装う

          【随想】おなまえ かいて

          おなまえ かいて      作:ゼイナ・アッザーム(Zeina Azzam)      訳:原口昇平 あしに おなまえかいて、ママ くろいゆせいの マーカーペンで ぬれても にじまず ねつでも とけない インクでね あしに おなまえかいて、ママ ふといせんで はっきりね ママおとくいの はなもじにして そしたら ねるまえ ママのじをみて おちつけるでしょ あしに おなまえかいて、ママ きょうだいたちの あしにもね そしたらみんな いっしょでしょ

          【随想】おなまえ かいて