一人の男がバーのオーナーになるまで【懐古録】~カフェ&バー経営の生き残り論~ #4
値下げは簡単、値上げは困難
#3に引き続き、今回も#1で触れた起業セミナー(札幌市主催なので怪しいものではありませんよ)での受講内容からのお話となります。
とはいえ何せ10年くらい前のお話なので一言一句覚えているわけではありませんし、自身の記憶違いかもしれませんので話半分で読んでいただけたら幸いですよ。
と、
その中で講師の方が触れていたのは値付けの話。
多くの起業を目指した方々とコンサルタント業務で触れ合ってきた結果、事前に釘を刺していてもよくある失敗例として、
値付けを安く設定しすぎて後々困る
ということを仰っておりました。
やはり起業直後としては「安ければ来てくれるだろう」という思考が働くようで、後々になって利益をきちんと取ることが出来ず困り果てるという事例は多いようです。
まぁ、
起業した直後は消費者意識で「安ければ良い」という思考が抜けず、一般的なバーの値付けの仕方を知っていたとしても、実際に算出してみると思ったよりも高い設定になってしまい
え……? 本当にコレでいいの?
なんて思ってしまい、弱腰になって値段を下げる。
んで、いざ開業しました、お客さんが来ました。
運良く忙しくなりました。
そこそこ売り上げが上がりました。
で、いざ集計の段階になって気づくのです
あれ? 経費引いたら頑張った割に残ってなくね?
もうね、時すでに遅し、店を存続するために慌てて値上げをしたとしても安さに慣れてしまったお客さんは離れてしまうのですよ。
そんな未来が見えてしまうために安易に適正価格に引き上げられないままズルズルと低い利益率のまま営業を続けると
その先はどうなるかわかりますよね?
……とまぁ、
最初は強気の値段設定かな? くらいで丁度良いのだとか。
そして、店を運営してゆくうちに「これはちょっと高すぎたかな?」と思ったところで値下げをすればよいと。
ただ、
「これが出来る人はあまり居ないんですよねぇ」
みたいなことを講師の方が言っておられましたよ。
まぁね、ワタクシとて講義を聞いていてフムフムなるほど、と、このような失敗は絶対にしないぞ、と、開業してから臨みましたが
まぁ、同じような失敗はしましたよ
とはいえ、知識があるのと無いのとでは大違い。
そして、ワタクシの場合は時が経ちサビついてしまってはいたものの営業マンの経験も相まって泥沼にハマる前に抜けることが出来ました。
では、次項で語ることにしましょう。
とやまのくすりうり
現在となってはドラッグストアの大量出店により、一昔前よりはマイナーになってしまった配置薬業者の仕事をワタクシはしておりました。
有名どころでいうと富〇薬品や常〇薬品が有名でしょうか。
置き薬と称して薬箱を家庭に置いて貰ってですね、定期的に訪問し、使った分だけ集金するという業態ですね。
夜中の急な体調不良でドラッグストアが開いていない! でも手の届くところに薬がある! なんんて素晴らしいんでしょう!
みたいなサービスです。
上記で挙げた会社はお客様に寄り添い、至極真っ当な仕事をしていると思います。
ただ、ワタクシが勤めてしまったのは同じ配置薬業でもブラックを通り越して漆黒の闇、一点の光さえ見えない会社でしてね、もう企業として存在していないから書けるのですが、営業方針として
とにかく健康食品を売りさばけ!
なんなら知識の無いお客さんを騙してでも、不安を煽ってでも売りさばけ! みたいな会社。
まぁ、そんな企業体制だからこそ朝礼でパワハラが横行し、その結果、営業マンがコロコロ変わり、どんどん信用が無くなって売り上げが落ちる。
んで、慌てて補充した新人が尻ぬぐいをする、それに耐えられなくなって辞めてゆく。
まぁ、
沈みゆく船に乗っているってこんな感じなんだろうなぁ
というドラマみたいな経験が出来ましたよ。
まぁ、健康食品を聞くと真っ先に思い浮かぶのはネズミ講ですね。
やっていることは同じですが騙してトンズラ出来るねずみ講と違うのは、
きちんと事務所を構えているということと、月給制でノルマを達成(まず無理)しても歩合がチョロっと乗るだけなので、ネズミ講と違い子どもや孫を作った(そもそもそんな概念が無い)としてもマージンが無い事です。
本社があり、営業所があると顧客を騙して詐欺まがいなことをして売りさばくとクレームが入ると逃げられないわけですよ。
なので、
顧客に自分を売り込み、信用を勝ち得た上でその人に合う健康食品を勧めた上で買ってもらう。
あくまで「この営業マンさんから買うから後悔は無いよ」という行動を勝ち取るために。
例えそれが
全く効果が無かったものだとしても
いやまぁ、全く効果が無いというのは言い過ぎかもしれませんが、控え目に言っても「ほぼ」効果が無いのは確かです。
だってね、事務所の朝礼でトップが自ら
コイツは効果が無いけどお客さんを騙くらかして売りさばけ!
なんて言っている商品ですよ。
本当に改善したいのであれば国が認めた「医薬品」と銘打ってあるものを手に取るか、病院に行きましょう。
とまぁ、
ワタクシはお客さんを騙すという行為が下手すぎたため数字が上がらず毎日のようにパワハラを受け続ける日々を送ってしまったため、精神を壊す、という最悪な結果を迎え、会社から戦力外通告を受け、解雇されてしまったわけなんですけどね。
とまぁ、昔話が長くなりましたので、一旦お話を区切ります。
自分の価値を下げてはいけない
薬屋時代、会社の隠語で「万得意」と呼ばれるお客さんがおりました。
薬の入れ替えに乗じて客先に訪問した際、薬が好きで服薬はあるわ健康食品も大好きな方で一度の訪問で一万円以上の集金があるお宅をそう呼んでおりました。
んで、
ワタクシの所属していた会社は2ヶ月に一度、顧客先に訪問するスタイルでした。
とはいえね、9割方は義理で薬箱を置いているお客さんばかり、服薬なんてほぼありません。
それでも数字は作らないと、と、健康食品の話をするのですが、10年以上前ですらコンビニで気軽な値段で買うことが出来る時代ですよ。
当然、空振りに終わるわ数字は作れないわで胃が痛い日々を送ることになるわけですね。
そんな中、
会社内で「万得意」と呼ばれた方はワタクシが扱う割高な健康食品を喜んで買ってくれるわけです。
いわゆるひとつの
プラシーボ効果
というわけです。
(たまたま)飲んだら調子が良くなった! という経験から継続して買ってくれる上得意様ですよ。
胃が痛い毎日を送る生活の中で万得意様に訪問出来るという算段がある日はウキウキしたものです。
それがある日、
万得意のお客さんの家に伺った時のことです。
使った分の薬の集金を終え、継続で買うであろう健康食品の話を進めていた時のこと、そのお客さんから
「今回はね、ちょっとお休みしようかと思って」
なんて申し入れがありました。
理由を聞くとプライベートで物入りとなり買う余裕が無いのだとのこと。
自身としても押し売りはしたくないため引き下がり、いつもの半分以下の金額で訪問を終え終業、事務所に戻り結果を報告したところ突然トップから怒鳴られました
「何で無理にでも(健康食品を)突っ込んで来なかったんだ!」
「いやでも……」と、事情を説明するも聞く耳なんて持ちません。
トップが言うには売り掛け(平たく言うと借金)にしてでも突っ込むのが正解だったと、相手の事情なんて知らん、とにかく営業マンの価値を下げるなと、合計3時間ノンストップの説教を喰らいました。
そして最後に
「そのバァさん、もう終わりだぞ」(上記のお客さんはお婆ちゃん)
と、吐き捨てるように言われました。
いわゆるひとつの「もう健康食品は買うことがない」というヤツです。
罵声を浴びている間も自身としてはナゼ? ナゼ? という感覚。
ワタクシとしては顧客の事情に寄り添っただけなのに罵倒された挙句、万得意でもなくなる、なぜ言い切れるのか。
とはいえ、
その予想は当たることになるのです。
その一件があってからトップの予想通り、このお客さんは万得意ではなくなった上、コンスタントに飲んでいた薬の服用も無くなってしまいました。
そう、その方からすると自身の商品価値は無くなってしまったわけです。
貰うものはキッチリ貰う
……とまぁ、
薬屋時代は詐欺ではないものの、詐欺まがいなことをしていた(会社の命令で)ものの、これは個人店でも同じようなことが言えると思います。
そもそも、飲食店を利用するということは個人店に至っては
自炊するより割高です
資金力があり、薄利多売が出来る形態だとしても外食するよりスーパーで特売品を買ってきて調理した方が安いですよ。
それをサービスや雰囲気で補うのが真骨頂です
食べたり飲んだりは自前より高いけど満足できるよね
というのが飲食店というモノです。
なので、高いのは当たり前、いかに来店してくれた方の満足度を満たせるかが個人店の腕の魅せどころだと思うわけですよ。
そして、これに自信があるのであれば己のサービスを信じ、飲食物の値段設定が適正であるのならば、自信を持って請求した方が良いのではないか? そんなことを思ってます。
さいごに
なんだかんだで長々と綴ってきましたが、ワタクシとて毎月夫婦でギリギリ食ってゆけるというだけの経営をしているわけなので、偉そうなことを語ってはいますが話半分で読んでいただけたら幸いです。