#38 マイクロバスでの移動中

私は中学生の頃、地元のクラブチームに所属していたが、練習試合や合宿等で地元から離れた地域に行くことがあった。電車を乗り継いで会場に向かうこともあるが、そのほかに、コーチが借りてきて運転するマイクロバスに乗せてもらうことも同じくらいあった。1学年で利用することが普通であったが、どの学年も20数人所属していたためギリギリ全員が乗車できるほどの収容だった。借りているということもあって、学校の遠足で利用するような大型のバスではない。だから、かなりスペースは限られている。

座席配置としては、一番後ろの座席は4人掛け、それ以外は1人がぴったり通れる幅しかない通路の片側が2人掛け、もう片方は1人掛けで横に計3人座ることができるが、人数が多いと、通路横に備えられている折り畳み式の椅子を通路に組み立ててそこに座るというかんじになっていた。

より人数を収容できるように一番後ろの4人掛けは小柄な人が詰めて5人掛けしていた記憶がある。私はチームの中で身長が低かったため、一番後ろになることが多かった。それ以外の人は、バスに入る順番が最後の方になると必然的に折り畳みの座席に座ることになる。

折り畳みの椅子は他の座席に比べて背もたれがしっかりしておらず、バスが走っている間に睡眠をとりたくてもぐっすりと眠ることができない。だから、背もたれによっかかるよりも膝に自分のサッカー用具が収納された黒くて縦長のリュックを置き、前方のリュックに抱きつくような感じで重心をかけて寝る方が休めることがある。

私は一番後ろの席だから折り畳みになることはないが、後ろは後ろできつい。そもそも5人掛けというのと、私は身長が低いがそこまで肩幅が狭いわけではないので隣に並んで座る他の人たちに迷惑になってしまう。また、中学生だと身長も伸びるため、中1では大丈夫だったものの、学年を重ねるにつれて無理が出てくる。さらに、5人掛けで座るメンツが固定されるため少々飽きが出てくる。他の座席だと先輩がいない限り乗った順に好きな座席を選べるため、折り畳みになるリスクを背負いつつも毎回違う席に座れる可能性を持つことから羨ましくも思う。

私的に一番理想の席は、窓際の席だ。私は家の車に乗るときや新幹線に乗るとき外の景色を眺めるのが好きだからである。ただ、窓際と言えども、マイクロバスの場合は2人掛けの窓際と1人掛けの窓際の2通りが存在し、私は後者の方が断然好みである。2人掛けの方だと2人でセットという意識がある一方で、1人掛けは自分が行きたければ他の人に配慮せずに座ることができるのでお勧めである。私以外にも1人掛けの窓際席が好きな人がおり結構人気な席ということもあって、2人掛けの座席よりも早くに埋まっていた記憶がある。

1人掛けの窓際席が人気な理由は何だろうか。まず、先ほど説明したように外が眺められること。酔いにくい点でもメリットである。1人で外を眺められるということはどういうことか。私的には、ギュウギュウに詰められたマイクロバスの中から外の景色という開放的な世界に視覚のみだがつながることができる点にある。

バスでの移動は、特に合宿など他県に行くために数時間座っていなければならない場合だと、窮屈な状態が続きかなりのストレスになりうる。外の世界を眺めるだけでもストレスは軽減されると思う。

とはいったものの、座席の狭い空間というのも私的には悪い気持ちはしない。私は比較的小柄な方だったため、リュックを収納する空間も含め座席間隔がいい感じでフィットしリラックスすることができる。本当はいけないのだが、そのちょうどいい間隔の中でイヤホンを付け、スマホで音楽を聴くのは非常に心地が良い。時間が長い場合は睡眠をとることもある。到着してしまったら身体を動かさなければならないため、まだ着かないでくれでくれ、もう少しバスに乗っていたい、という気持ちになっていたのを思い出した。いろいろなことに取り組むたびに「早く終わってくれ」としか感じない私の中では、通学電車と同様に終わってほしくないと思える唯一の時間である。

終わってほしくない時間というのは通常、興味のあることや好きな物事に熱中する時間に該当すると思われるが、私の場合は熱中できるものはあまりなく、できたとしてもすぐに飽きてしまうため、移動時間というのはある種の趣味なのかもしれない。

移動時間が趣味というのを言い換えると、散歩やサイクリング、体力を削るがマラソンやランニングも該当するだろう。たしかに、長距離走は昔から得意な方で、部活動などに所属していない現在でも時間があれば近所でランニングをするし、通学定期内で都内を自由に歩くこともしている。

旅行も同様だと扱うこともできそうだが、私は旅行はあまり好みではない。旅行は行きたい目的地があってこそという前提があると思うからだ。私は観光地などの目的地を楽しみにするというよりも(もちろんそれが楽しみなこともあるが)、その場その場で気の赴くままに移動すること、移動自体が好きなのだろう。

だから、マイクロバス以外にも新幹線や自動車でのドライブ、電車に乗る時間が苦痛でないのだろう。ただし、地下鉄など暗闇のトンネルと通過するのは景色が見えないため好みではない。景色の移ろいを見ながら移動時間の経過や一日の経過を感じるのが好きなのだろう。こういったこともあって長距離通学にも耐えられるのだろう。

どこでもドアがあれば移動時間を削ることができ便利だとは思うが、移動時間が好きな私にとっては都合が悪いこともある。


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