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【ご報告など】人生ゲームのマスにないこと

【忙しいひとのための要約】
この春から大学院に入学することにしました。当面は会社員も続けるので、二足の草鞋状態に突入します。
そして、大学院受験の前後で考えたことをZINEにまとめました。もしよかったらお買い求めください。

100文字で収まる内容を、ここから約4,000字綴ります

ご報告(A面)

実に9年ぶりの受験を経て、来春から大学院の修士課程に入学します。大学時代のゼミと現職(広告会社)での業務のちょうど中間地点のような専攻です。
大学時代、講義やゼミがかなり楽しくて、そこに以前から少し未練が残っており、現職で働くうちにビジネスとは異なる視点で考えてみたい課題が見つかったので、このタイミングでの進学を決めました。
当初は休職も視野に入れていましたが、キャリアにブランクができることを避けたいという思いもあり、フレックス制度を活用して、働きながら通学してみようと考えています。いわゆる社会人大学院ではなく、平日昼間の講義が中心のため、学業と仕事がどこまで両立できるか想像ができない不安も大きいのですが、まずはやれるところまで頑張ってみます!



さて、ここから書くことは、たぶんすべて、まじで「贅沢な悩み」です。
気を悪くされる方もいらっしゃるかと思うので、「鼻持ちならない奴だな」と感じられたら記事を閉じていただければと願っています。




憎悪・失望・葛藤(B面)

4月になったら、冒頭のような文章をFacebookやInstagramに投稿するつもりです。上で記したことはこれはこれで本当のことではあるのですが、ここに至るまでのプロセスは、進学を本格検討したきっかけから、合格後に休職ではなく仕事との両立を決めるまで、憎悪と失望と葛藤に満ちており、到底実名SNSで綴れるようなものではありません。
A面の文章だけをインターネット上に放流して何年か経ったら、書けなかった感情のことをすっかり忘れてしまうような気がして、ZINEという形でこの世界に残しておくことにしました。人に語るために整えた言葉ではなく、悪あがきの記録として。

クォーターライフクライシス

直接的なきっかけは、2023年11月の人事異動でした。新卒で配属された部門のことはわりと気に入っており、評価も高かった(と信じていた)のですが、告げられた異動先は、希望と正反対で、これまで獲得してきた経験やスキルもまったく生かされない部門でした。
わたしは総合職で働いているので、これが雇用契約の範囲内でおこなわれる通常の人事であるのは重々承知しています。それでも、わたしはこの異動がどうしても受け入れられず、なんのために働いているのか、この会社でキャリアを積む意味はどこにあるのか、ひいては、自分が自分という人間として生きる意味はどこにあるのか、という感情を募らせていくことになりました。

オリバー・ロビンソンという方が、「クォーターライフクライシス」という概念を提唱しています。人生100年時代の1/4が過ぎたころに、「人生の節目に感じる漠然とした不安や焦りを抱える時期」がくるというのです。この時期には、人生についての理想と現実のギャップに苦しんだり、人生の選択を後悔したりするといわれています。異動を告げられた当時のわたしはちょうど25歳で、この異動を機に、絵に描いたような「クォーターライフクライシス」に突入することになります。当時は通勤電車や打ち合わせなど、ふとした瞬間に意味もなく涙が溢れてきたりするような精神状態でした。

しかし、ジョブローテーションは多くの日本企業で導入されている制度であり、多少不本意であっても、組織で働く以上、「ふつうは」それを受け入れるわけで、総合職(ひいては日本型雇用)がそういう仕組みであることは、わたしもよく理解しているつもりです。実際に、同じタイミングで異動を言い渡された同僚たちは、なんだかんだ言いつつも結局はそれを前向きに受け入れているように見えました。みんながすんなり受け入れていることを自分だけがどうしてもうまく飲み込めない、という事態は、わたしにとってほとんどはじめての経験で、そのことにもひどく動揺していました。

人生ゲーム的発想の限界

なぜこのタイミングで、しかも自分だけがクォーターライフクライシスに苦しめられることになったか、と考えると、わたし自身がずっと、「他者から見て順調にみえるキャリア・人生を歩みたい」という欲望と、「自分にしかできないなにかを成し遂げたい」という欲望に挟まれて生きてきたことが根本的な問題であるように思えてきました。

これは自慢ではまったくないのですが、履歴書的な観点(出身校とか会社名とか結婚とか)でいえば、わたしの人生はそこそこ順調に映るはずです。これは結果的にそうなったわけではなく、わたしには「人生ゲームを順調に進めたい」という明確な欲があって、それにしたがって人生の選択をしてきたからです(もちろん、大前提として運や環境が良かったという要因はあるし、むしろそれが大半だとすら思います)。所属集団の先にみえるうっすらとしたレールに常に目を光らせて、かなり執念深くそこにしがみついてきた自覚があります。
一方で、それとはまったく違う教義として、「夢をかなえる」「やりたいことをやる」「何者かになる」ことをよしとする流派もあり、人生ゲーム最速クリア派のわたしは、そういう流派に属している(ようにみえる)知人たちに対して、半分は理解不能であるという思い、そして残り半分は猛烈な羨望の念を抱いていました。見えているレールを無視する、あるいはレールの存在自体を意識しないことは、わたしにはどうしてもできなかったからです。

件の人事異動の話に戻ると、ジョブローテーションは多くの会社員が経験するものですから、これは人生ゲーム的にはなんの問題もない事象です。でも、この段になって急に、「やりたいことをやりたい、仕事の意味は自己実現や!!!」という、これまでは優先順位が低かったはずの感情が、ものすごい勢いでわたしの脳内を支配するようになりました。人生ゲーム的発想の限界がきたのです。
「人生ゲーム的発想の限界がきた」と言っても、「会社を辞めて世界一周します!」といった劇的な方向転換には至らず、やっぱり会社員の立場は大事だし、東京のOLとしてのつまらない自意識や顕示的消費からは逃れられません。それでも、「世間の誰かに順調な人生だと思われること」を優先順位の第1位に置くのはいったんやめてみよう、と決意しました。こんなことにも決意を要するほどわたしの人生ゲーム的発想は根強いのですが、人生ゲームのクリアはすなわち「死」ですから、最速でクリアすることにあまり意味はないのかもしれないと、ようやく実感できてきました。

人生ゲームのマスにないこと

とはいえ、四半世紀も人生ゲームのことを考えつづけていると、「やりたいこと」がよくわからなくなってきます。そもそも、この世に純粋な欲望としての「やりたいこと」が存在するのかも確信できません。

そこで、かつて一瞬でも「やってみたい」と頭に過ったことに飛び込んでみようと考えて、思い出したのが大学院進学でした。当時の講義やゼミがかなり好きで、周囲の方に恵まれていたこともあり、もう少しこれをやってみたい、論文という形でなにかを世に出したい、とちらっと考えたのですが、でもそのときは一刻も早く就活を「成功」させたいという感情が強く、結局真剣に進学を検討することはありませんでした。就職してからも未練は残っていましたが、まあ今さらだよね、と無意識に片付けていました。

人生ゲームには「会社に就職してから大学院に行く」というマスは、たぶん存在しないと思います。いきなり「会社辞めます!」は自分にはとうてい無理ではあるものの、まずは人生ゲームのマスにないことに、誰かの期待からではなく、自分の意志で飛び込んでみることにしました。
これがキャリアにどうかかわってくるのかといわれるとよくわからないのが正直なところで、こと社内評価に関しては、マイナスに働く可能性のほうが高いように推測されます。大学院生をやっている期間はどうしても賃労働へのコミットが減るし、反抗的な社員であると見做される可能性も多分にあるので。でも、そういった不安を受け入れることも、いまのわたしには必要なのだと思います。

もうひとつの「人生ゲームのマスにないこと」

そんな経緯で、いろいろと悩み苦しみながらも大学院受験を決め、なんとか合格をいただき、上司と(結局失敗する)休職交渉をし……という日々を、ふだん公開している日記とは別に記録していました。どこかのタイミングで有料記事にでもして公開しようか、そのままお蔵入りにしようか、くらいの心づもりでいたのですが、そういえば「自分が書いた文章を本にして世に出したい」という欲もあったなと思い出したので、この機会にZINEという形でまとめなおすことにしました。これも、これまでは実現しようとしてこなかった、人生ゲームのマスになさそうな経験のひとつかもしれません。

異動を告げられた2023年11月から大学院に合格した2024年8月までの日記(クォーターライフクライシス日記)に、この1年考えてきたことをまとめたいくつかのエッセイを加えて一冊のZINEにしました。文学フリマで売るような内容ではないので、boothでだけこっそり販売します。ふだんnote日記を読んでくださっている方や、クォーターライフクライシス、あるいは、整えられた「キャリアのご報告」に至る過程にご関心のある方に、ぜひお手に取っていただければ嬉しいです。匿名配送の設定になっておりますので、有料noteを購入するような感覚で入手いただけると幸いです。

▼ご購入はこちらから。2/27に発送予定です。


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