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音楽作家の弟子募集!2024(レポートその3)

お世話になっております。樋口太陽です。昨年度、2023の弟子レポートをお伝えします。今回は第三弾です。

弟子の松本拓也さんに、給与とは別に提供しなければならないと考えていたものがありました。それは、独立後に確実な武器になるであろう
確固たる実績です。

給与として渡す金銭は、いずれ無くなってしまうものですが、実績は無くなることがありません。そしてことさら、広告音楽の世界では、実績が無いと誰もに見向きもされません。

彼が独立後に音楽の仕事を続けていくために、実績こそが最も重要な報酬と言えるでしょう。

ふつう、弟子という立場では自らの実績を手に入れることは難しいものです。低賃金で掃除やカバン持ち、師匠の仕事の見学や雑用を数年間行い、長期間それに耐えうる者がやっと仕事を任せられ、実績をゲットするチャンスが巡ってくるようなことが通例だったりします。

ちなみに僕は「数年間にわたり実績なし、低賃金で雑用をさせること」を、完全否定するつもりはありません。そのメリットはきっとあります。実績がなかなかゲットできないことにより、ハングリー精神や忍耐力が育つことです。不遇の時代を過ごさないと決して得ることのできない「渇き」というものがあります。ここから自力で絶対に抜け出したいという思いはネガティブな由来であっても、しっかりとモチベーションに繋がることもあります。

今回の弟子募集では、最初からまぁまぁの稼ぎがあり、実績を与えられることが予定されている状態にあります。よいことばかりに思えるかもしれませんが、これによって得れない部分もあります。「渇きの記憶を刻み込む」という面では、機会損失になる、とも言えるでしょう。

しかし、今回の弟子募集は、その機会損失は考えず、とことん初期段階から実績を渡すつもりだと最初から決めていました。その理由をご説明します。

まず、現代の世の中で、広告音楽の音楽作家というニッチなクリエイターの道を選ぶ人口が圧倒的に少なく、「雑務から始まって数年間耐え抜き、それからやっと少しずつ実績を・・・」というやり方をしていけば、才能ある若者が全滅してしまうという予想があったからです。

また、独立後に他社に対しての営業材料となるものをつくっておけなければ、独立したとしても、そこから先が大変になってしまい、仕事の連鎖が見込めません。独立後に安定して僕達から安定的に仕事を頼むことができる保証はないので、実績を武器にして沢山の取引先をつくってもらう必要があります。

独立後に、もしも収入が安定しなければ、将来的に音楽以外の職についてしまう可能性があります。そうなってしまえば、私たちとしてはとても困ります。独立後に長く音楽制作の仕事を続けてもらえなければ、せっかく弟子として育てた意味がない。外注先として発注をすることができなくなるからです。

そして今回は、最初から一年間限定の弟子だと決めています。実績を渡すにも、とにかく時間がありません。雑用に追われるのではなく、具体的な実績を渡すことは、急ピッチで進めなくてはなりません。というわけで、初期段階から確固たる実績を渡すことは、今回の弟子募集において一番のテーマでした。

さて、前置きはこのへんにしておいて、この一年間で松本拓也さんに渡せた実績をご紹介します。

▼【リクルート】高校生Ring 『スマホが教えてくれないこと』
作曲 / ギター・ドラム演奏 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼ビタミン炭酸マッチの「男子校のオレが共学に!?異世界転校生ココロ
編曲 / 歌唱 / レコーディングエンジニア


▼玄海海中展望塔
作曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼NHKラジオ イメージソング「Sha la la ラジオ」
作曲 / ギター演奏 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼楽天日用品
編曲


▼野菜一日これ一本 「ベジリカバリー!」サウンドロゴ
サウンドデザイン / ミックスエンジニア


▼野菜一日これ一本 トリプルケア
編曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼マリンワールド
作曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼BOSS♡TAKE YUTAKA『タンタンタケユタカ』篇
作曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼純烈「 恋のゴクうまボトル」
編曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼【とくとくBB光】「10ギガ高速回線もとくとくBB光♪」熱唱篇
作曲 / ギター演奏 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼ソニー損保 「自動車保険って、なんだろう?」篇
作曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼鼻炎薬ナザールGスプレー「長い鼻通り」篇
作曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼ライクグループ ブランディングムービー
作曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼テレビ東京 シナぷしゅ「ロボぷしゅ」
効果音制作‌


▼SOMPO サウンドロゴ
サウンドデザイン / ミックスエンジニア


▼かんでん暮らしモール
編曲 / レコーディング&ミックスエンジニア


▼アリエール ジェルボールプロ 無人島からの生還篇 (2秒からのファンファーレ)
作曲

ここでは紹介しきれないものも多くあったので、一部のご紹介でした。

一年間で、このような数々の実績を渡せたのは、私たちの意志によるところもありますが、松本拓也さんの元々のポテンシャルによるところも忘れてはなりません。才能がなければ、いくら実績を渡そうとしても作品クオリティの担保ができず、依頼ができません。それは音楽制作会社として、本末転倒になってしまいます。

上に並べたものは、どれを聴いていただいても恥ずかしくないクオリティの仕上がりになりました。正直言いますと、才能や実力がある程度しっかりした状態からのスタートでないと、たった一年間でこのようなクオリティのものに関わることは出来ません。

また、松本拓也さんは優れていたのは、音楽的な才能だけではありません。これまで触ったことのない音楽ソフトCubaseの操作やショートカットを最初の一ヶ月ほどでほぼほぼ言うことのない状態まで自分で特訓していたり、時間や締め切りを守る。社内だけでなく社外の人ともコミュニケーションがしっかりとれるなど、社会性が備わっていたこともとても大事な点です。

一年間という限られた期間では、そういったことまで手取り足取り教えることは難しいものです。この弟子制度が今後もうまくいくためには、音楽的な能力だけを見て判断してはならないと、改めて実感できました。

また、これを書いている2024年9月は、松本拓也さんが独立してから数ヶ月経ち、現在の彼との関係性についてもレポートします。

まず、5月末に独立しましたが、当然ですが円満な形での独立です。独立直前には、同業者の広告音楽プロデューサー複数人に連絡し、「うちの弟子が独立するので何卒よろしくお願いします!」という内容とともに、できるだけ直接会える機会を作ります。

6月以降、間髪入れずにフリーランスの彼に対して、案件ごとに個別にギャランティを伝えつつ、仕事を依頼しました。この点が、今回の弟子制度で最も気持ちの良い点なのです。

ふつう、独立した人とはビミョーな関係になります。今回はそれが全くないのです。なぜなら、最初から独立する日が決まっていて、それ以降も積極的に依頼をしようと思っていたからです。

独立した彼に、その後、他の人との仕事がうまく進んでいるかなどの雑談をしつつ、「ちゃんとインボイス制度の登録番号をとったか」という確認もとります。これを書いている2024年9月時点、フリーランスの音楽家で適格請求書発行事業者になっている人の割合は少なく、登録番号があるかどうかだけで、圧倒的な差別化になります。こういった突っ込んだ話題にもズコズコと踏み込めるかどうかも、弟子だからこそです。※ちなみに彼は独立後すぐに登録番号をバッチリとっております。
 
一年間を終えて、それから数ヶ月が過ぎた今こそはっきり言えますが、弟子制度って本当にいいものだなと改めて感じました。

以上、弟子制度がどのようなものだったかのレポートでした。
次回、次の弟子募集についての具体的な募集要項を書きます。

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