音楽作家の弟子募集!2024(レポートその1)
CM音楽など、広告に関わるものを中心に音楽を制作している、OFFICE HIGUCHI 代表の樋口太陽と申します。
この度、広告音楽制作においての「弟子」というポジションを1名のみ募集します。期間は1年間で、スタートは2025年1月頭予定。1年間で音楽作家として伝えれる全てを伝え、2025年12月末には独立していただくプランです。(※当初の予定から弟子期間が変更になりました)
詳しい募集要項をお伝えしたいところですが、その前に・・・昨年度、2023の弟子レポートをお伝えします。
昨年の今ごろ、こういった記事を書きました。
我ながら、音楽の仕事を志す方にとってはなかなかよい話だと思っていたので、何人の応募があるかなとワクワクしましたが、応募者は・・・
4人でした。
す、すくないッ!!!
私たちの知名度と拡散力がないせいなのか、音楽作家を志す人じたいがいないのか、わりとよい条件だと思っていたが、そうではなかったのか・・・応募の少なさにビックリしました。その3人の中に、彼がいました。
2023年の弟子は彼に決まりました。松本拓也さんです。ioniというアーティスト名で活動もしています。
2023年6月から力を尽くしていただき、ついにこの2024年5月に独立します。彼と過ごした1年間がどのようなものだったか、レポートさせていただきます。
まず、応募時期を振り返ります。皆さんに、楽曲制作の課題を出しました。それはこのようなものです。(原文そのまま)
このお題に対して、松本拓也さんは、このような音源をつくりました。
当時の応募音源そのままです(本人の了承あり、公開しています)
これを聴いて、「うん、いけそうだ」と思いました。まず、楽曲そのものが確かに課題で書いているとおりのものになっていること。次に、音源提出タイミングが、群を抜いて早いこと(課題の発表から締切までは10日間ありましたが、彼は2日後にもう課題を提出していました)。最後に、下手をすればダサいものになってもおかしくないようなお題にも関わらず、「アウトプットがダサくない」ことです。
課題を通過したので、次にオンラインで面接をしました。彼の今の状況について、詳しくわかりました。
それまでゲーム会社のサウンドクリタイター部門にいた。退職を考えつつ、将来の独立に向けて、弟子志望を決めた。結婚はしていて、第一子が数ヶ月後に産まれる予定である。今後、弟子期間に自分指名の仕事がくる可能性もあるが、それはどう扱えばよいか。
クリアにしておかなければならないこともありますが、ここで、僕は思ったことがあります。
年俸300万円にしておいて、よかった・・・。
年俸300万円。これを高いと見るか安いと見るかは、人によって千差万別かと思いますが、音楽の世界での弟子の給与としては、かなり思い切った金額設定です。経験上、フリーランスの音楽作家が初年度に見込める売り上げとしてはものすごい額だと言ってよいと思います。
音楽業界の方からの目線で言うと、もっと低くてもじゅうぶんではないかと思われるかもしれませんが、これを決めた理由は、家族を持つような人にも、金額を理由に諦めてほしくなかったからです。ずっとこれで家族を支えていくには心もとないかと思いますが、独立前提の一年間だけの弟子期間であれば、OKな範囲の金額だったのかと思います。
しかし、出産間近ということが気にかかりました。これは偏見に基づくものではありません。自分の経験上、出産後に妻をサポートしながら音楽作家の仕事をすることは、本当に本当に大変だということを知っているからです。
理由として、音楽作家の仕事は連絡ごとや資料づくりなどの通常のデスクワークではなく、どの作業も、音を鳴らし、音を聴いている必要があります。その間は、赤ちゃんの鳴き声や、妻のヘルプも聴こえず、抱っこひもをしながら鍵盤を弾いたり、ギターを弾いたりすることも厳しいからです。仕事と家庭との両立を普通のデスクワーク以上に心配してしまうのは、仕方のないことなのです。
僕の子育て期間は、音楽作家ではなくプロデューサー業だったためデスクワークの時間が多く、抱っこひもをしながら仕事をできていた時間も多かったですが、音楽作家を志望する彼にとって問題ないのか。弟子期間と出産時期が重なることによって、家族との関係的には問題ないのか。プライベートな事だから触れてはいけないなどとは、僕は思いません。本人の人生に関わることなので目を逸らさずに向き合う必要があると思っています。
また、弟子期間に本人に指名で来る仕事をどうするかについても、デリケートな問題です。独立するまでの1年間というのはとても短いため、もしも指名仕事が大半を占めてしまい、こちらの業務がまともに行えないようであれば、育成の時間がとれないことになり、本人が成長するための時間が確保できないことになってします。
お互いにとってのWin-Winを目指さなければならないので、双方問題ないか、慎重に確認をとりました。
オンライン面接後に、松本拓也さんにこういったメールを送りました。
こういった確認をした上で、指名仕事についてもこちらの提案でOK、出産や子育てについては実家が近距離でサポートを受けれる状況で、妻にも理解を得られたのでOKとのことでした。
ついにリアル面接に進み、無事に彼に決定しました。こちらがリアル面接で決定した直後のお祝い写真です。
ドラマー経験ありということで、スティックを持っていただきました。
ちなみに、今回は僕だけの弟子というわけではなく、「会社法人としての弟子」という感じです。ですので、僕だけでなく、弊社プロデューサーの山本"ぶち"真勇の弟子でもあります。
さてさて、ぶじ決定したということで、名刺やメールアドレスをどうするかということですが、今回は社員ではなく、弟子です。この時点から普通の社員とは扱いが違います。戦略的に、オフィス樋口としての名刺やメアドはつくらないことにしました。なぜなら、一年後にはもう独立することが決まっているので、今後ずっと使っていく名刺を最初からつくったほうがよいからです。
まずは肩書きを一緒に考えます。「作曲家」がよいか、「音楽家」がよいか「サウンドクリエイター」がよいか、「ドラマー」などをつけるのかつけないか・・・結局、独立後を考えると「音楽作家」という表現が一番適しているとなり、「音楽作家」に。
そして、松本拓也という名前と、ioniというアーティスト名との同居をどうするか。話し合った結果、表の面は松本拓也、裏の面はioniにすることになりました。メアドやURLも、これからずっと使いそうなものを表記することになりました。
これで、弟子期間の一年間も、渡した名刺が無駄にならずに済みます。
ちなみに、この名刺のデザインや印刷費用については、こちらは関与しません。あくまで、内容に関してのアドバイスをしているだけです。最終的に動くのは松本拓也さん本人です。
ただし、名刺が手元に届く締切だけは、初出勤に間に合うようにと一緒にスケジュールをかっちり決めて、それを守りました。完全に自己責任にしてしまうと、ついついこういったことは後回しになってしまうことは痛いほどわかるから、お互いの得になるようなスケジュール管理は、見守るようにしました。
以上、弟子決定までのエピソードでした。
はじめから独立の日が決定していることにより、通常の社員の場合とは、まったく違う発想で仕事をお願いし、日々のコミュニケーションをとっていくことになります。こういった計画でスタッフを募集したのははじめてのこと。僕たちにとっても手探りでしたが、一年間が経ち振り返ったところ、この弟子制度はうまくいったんじゃないかなと思います。次回は、弟子期間の一年間にどのようなことを行ったかを詳しく書きます。
つづく