何もしない日々|それでもしなくてはいけない事
「何かをしなくてはいけない」ことから解き放たれた囚人にも、しなくてはいけないことがあった。
そう、検査だ。それ以外ない。その為の入院だ。
まずはCT。しかし、ここでまた初めてに出会う。
「血管造影剤」
知ってる!聞いたことある!やった事ないけど!
薬のアレルギーなどない私なので、特に心配はしていなかったが、事前に一筆書かされていた。
○軽い副作用 吐き気、嘔吐、頭痛、めまい、発疹、かゆみ、発熱、せき など
○重い副作用 重い不整脈、ショック、けいれん、腎不全、意識消失 など
ごくごく稀にだが、死ぬ人もいるらしい。
本来、体内にないはずのものを入れるというのは、なかなかに恐ろしい事なのだな。
というのは、今書いてる途中で思った。
実際には造影剤の正体なんて全く気になっていなくて、それよりも導入のための点滴の針が外れることの方が怖かった。というのも、つい先日、脱水で点滴中にそんな事があったばかりだったから。
「お薬入ると体が熱くなる感じがしますよー」
そう言われたものの、もうリアクションが取れないくらいには体を固定されていた。体をデカいバンドみたいなもので固定され、顎も頭も固定される。されるがままにじっとしているしかない。
「お薬入れますねー」
熱くなるってどんな風に?どのくらい?と、ちょっと身構える。動けないけど。
次の瞬間、胸のあたりから下半身へ向かって、ぼわーっと熱いものが通っていった。『ここに!太い!血管が!あります!!!』って感じ。限りなく失禁に似ていた。
CT撮影自体はごく短時間で、造影剤の衝撃に「はぇ〜」となってる間に終わった。
その日の検査はそれで終わり、1日挟んで次はMRI。これも造影剤を使う。
CTの時と違って、事前に点滴を入れられる。針じゃ無くて、管になってるやつ。「痛みや痺れはないですか?」と聞かれるも、どの程度の痛さが正解なのかがわからない。全く痛くないわけじゃないよ、刺されてるんだから。
「えっと、あの、痛いってどのくらい…?」などと挙動を不審にしていたら、こりゃ大丈夫だなと判断されて、晴れて腕から管生やしてるウーマンになった。
このタイプの点滴がはじめての私は、一体どの程度動いていいのかわからず。刺されたときのままの体勢で、しばらく固まっていた。
「もう手降ろしても大丈夫ですよ」見かねた看護師にそう言われ、私はようやく再起動した。
検査に呼ばれるまで病室で待つことになった私は、不用意に動かずテレビを見ることに決めて、病院の硬い枕を腕置きにして、いい感じの高さに起こしたリクライニングベッドに横になった。
ちなみに頭用の枕は自宅で使ってるものを持ち込んだ。初日に病院の枕を使ったら、合わなさ過ぎてあちこち骨が痛んだり体が痺れたりして、まともに寝られなかったので、家族に届けてもらった。
入院の時に持っていくべき物の上位に入れてもいい、枕。他の細々したものは院内で買えたりするけど、枕が合わないと非常に辛い。
MRIはCTよりも体の固定の度合いが低い。じっとしてて下さいねー程度。それでもがっちり毛布に包まれているので、結構動けない。昔、レイヴでハンモックに寝かされブランケットで包まれて「あれ?これ全然動けないや」と思ったことを思い出す。
そしてCTにはない、防音用の耳あてをされる。これ、個人病院のMRIでは使わなかった。そう、音がデカいのだ。高性能MRIは格段に音がデカい。
MRIはCTより入っている時間がうんと長い。30分くらい。その間、爆音アブストラクトを聴くことになる。時々入るブレイク(無音)の間に、いつの間にかちょっと開いてしまった口をそっと閉じたりした。
それにしても、あの音の正体が気になる。どうしても出てしまう駆動音なのか、あの音を出すこと自体に意味があるのか。気になる。
MRI検査時の音は、スピーカーと同じ原理で発生します。 MRI撮像時に大きな磁石の中にある傾斜磁場コイルに電流を流すと力が生じ、傾斜磁場コイルが振動します。 その振動エネルギーが磁石本体などに伝播することによって音が生じます。
MRIとは | キヤノンメディカルシステムズ
動けないまま目を閉じていると、人は寝る。どんなにうるさくても、ちょっと寝てしまう。
今やっぱりちょっと寝てたな、と思いながら何事もなく検査を終えた。
それにしても、あんなにバンバン磁気を浴びて私の帰巣本能は狂っていないだろうか。
自力歩行ができるタイプの患者なので、「一人で行って、そして帰ってきて」というスタンスで検査を行っている。
帰巣本能が無事だった私は、院内コンビニに寄り道したりせず、おりこうさんに病室へ帰った。