本:長距離走者の孤独

※この記事ははてなブログにて、2018年7月17日に投稿した記事の再掲です。


今回は本について書いてみる。

イギリスの作家、アランシリトー作の長距離ランナーの孤独という本である。この本はいつも弾き語りをやっている下北沢ARTISTのコニシさんから借りたものである。

この本に興味を持つきっかけというのがそのコニシさんとの会話であった。僕はThe Jamというバンドが好きなのだが、そのフロントマンであるポールウェラーがこの本が好きで持ち歩いていたらしいという話を聞いたのであった。お店にたまたま置いてあり、ライブが終わった後に借りていつものようにウイスキーで酔ったグラグラした景色の中うちに持ち帰った。

短編集の形を成しているこの本は8つの短編から構成されている。全編を通して漂う空気は決して明るいものではない。戦争の残り香と予感がある、貧しくていつも曇っているかのようなどんよりした空気。みんな生活をすることで精一杯だ。ただ不思議とジメジメしたものはそれほど感じない。それは文章の、多少粗野な言い回し(訳されているが)、そして登場人物の皮肉の効いたさっぱりした行動や思考によるものなのだろう。

人は誰しもが違う感覚を持っていて、100人いれば100通りの気持ちがあり考え方がある。(だからみんな違ってみんないいんだ!とか人間賛歌みたいなことはあまり好かないのだが。)だからどんなに似ていても、どこかが違うもんである。心に響く歌や絵や小説は、その登場人物が、つまりは遡れば製作した本人が、そのたった一つの感性を外に出せたかどうかで素晴らしさは変わってくる。

この本に出てくる登場人物は、皆たった一人の人間である。だから面白いのである。

どの話も結末は明快でなくどこか胸に儚さが残る。ただそこには人間の生活の中にあるやりきれない感情がうまく表現してあって、そんな個人ではどうする事もできないようなフラストレーションをいつも胸に秘めるためにも、ポールウェラーはこの本を持ち歩いていたのかななんて思う。大きなフラストレーションは善くも悪くも莫大なエネルギー源となるのだから。

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