フラれた相手に救われた話

あれは大学3年のころ。

誠心誠意、言葉を尽くして「お願いします!」を伝えたが、後日あっさりとしたメールでフラれた。
全力の一撃を軽く流されたジャンプの主人公のようだ、とは言い過ぎだしそんなにカッコよくない。

フラれた後、未練がましく相手の名前をググってみたりした。若かったのでどうか許して欲しい。
ちなみに、どうやら同時期に他の奴にもこっぴどい振り方をしたらしく、その経緯がブログで暴露されてプチ炎上していた。まったくもって結構なことだ。

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そんなありきたりな苦い青春を味わいつつ、僕は大学を卒業。社会人となり、チェーンの飲食店で働き始めた。
何年か経つころには、その店の店長になっていた。

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ある時、僕が入店すると、小さなトラブルが起きていた。アルバイトがデリバリーを届ける際、ひとつ商品を入れ忘れたらしい。店の冷蔵庫には、たしかにグリーンサラダが置き去りにされていた。
基本的にクレーム対応は店長、つまり僕の仕事だった。サラダを届けるべく、控えていた注文表を見た。
文字の並びに、見覚えがあった。名前も、住所も。

大学時代と変わっていない。
フラれたあいつのところじゃないか…

いやしかし、今はお客様と店長の関係性である。昔の遺恨など忘れて全力でサラダを届けるべきだ。店の電動自転車にまたがって、重いペダルを漕いだ。

さて、届けに行った結果はと言うと。
信じられないくらいバッキバキに怒られた。
昔のよしみとか、全然なかった。

「一緒に食べようと思ったのになんなの」
「貴重な昼の時間を奪われた」
「二度とあなたのところでは買わない」
「ろくな仕事してないわね」
「バイトの教育はどうなってるの?」
「いい加減にして」
「●●なの?」
「●●を●して●●●したほうがいいんじゃないの?」

100:0でこっちが悪いので何もいえない。それにしてもなオーバーキル。やめて、もう私のライフは0よ。

薄れゆく意識の中で、大学の時に告白成功しなくてよかったな、と思った。もしこんな人の隣で過ごしていたらと思うと、ちょっと怖い。

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さらに時は進み、僕は転職をした。コンテンツに関わる仕事がしたくて、マンガアプリ関係の仕事に着いた。

仕事は楽しかった。業界柄、アニメ関係の人と接することも多く、好きな声優さんに会えた時は全力でオタク特有の早口 & 恍惚の表情になった。気持ち悪かったとは思う。
飲食店に比べて拘束時間も短く、天国のような職場だな?と思った。

しかし、そんなにうまくいかないのが人生である。

僕はその会社で、パタハラ(=父親の育児参加に対するハラスメント)に遭った。
転職後に子どもができた僕は、長めの育休を取った後、復職を拒まれたのだった。
(厳密に言うとこれがパタハラだったのか合法な厄介払いだったのかは正直わからないが、会社からの説明が一切なかったのは確かだ。)
かくして僕は無職になった。

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と、思っていたら。

マンガアプリの会社の親会社の、そのまたさらに親会社が、「うちで働かないか」と声をかけてくれた。しかも僕が前からやりたかったプロモーション系の仕事をやらせてくれるらしい。

僕は救われた。

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その救ってくれた今の勤め先が、昔フラれた相手というワケだ。
世の中、どうなるのかわからないものである。

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追伸
サラダ入れ忘れでブチギレてた社員さんには、まだ社内で遭遇していない。こわい。

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