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作品にリアリティを生むブランディング【NHKドラマ『17才の帝国』劇中に登場する実験国家】(前編)

今年の春にNHKで放送されたドラマ「17才の帝国」。
このドラマには、AIによって選ばれた17才の少年が統治する実験国家「Utopi-AI」、通称UA(ウーア)という組織が存在し、UAを中心にドラマ全体が構成されています。
このUAのブランディングをハイライツで担当しました。ロゴをはじめ、実験国家の要となるAI「ソロン」のデザイン、スマートグラス越しに投影されるUIなど複数のクリエイターたちと様々な議論を重ねて作り上げました。
私達がブランディングを行うにあたって考えたことや、そのプロセスをご紹介します。


〈本作のあらすじ〉
舞台は、いまから数年先の未来。日本は超高齢化や失業率の上昇、経済の没落から深い閉塞感に包まれ、世界からは「サンセット・ジャパン」と揶揄されるようになった。この状況を打破するため、総理・鷲田は、プロジェクト「Utopi-AI」、通称UA(ウーア)を立ち上げた。政治AI「ソロン」によって全国からリーダーを選抜し、衰退した都市の統治を担わせる実験プロジェクトである。ソロンがUAの首相に選んだのは、17才の少年・真木亜蘭(まきあらん)。そして他のメンバーも全員20才前後の若者だった。若く未熟ながらも理想の社会を求める真木は、メンバーとともにAIを駆使し改革を進め、衰退しかけていた都市を生まれ変わらせていく―。


はじめに

ハイライツの代表の下川大助は、2020年8月から政令都市北九州市のクリエイティブディレクターを務めています。市の課題をクリエイティブの力で解決するという役割を担っており、市の主要課題である高齢化、20~30代の若者・子育て世代の人口流出をどう解決するか、また市役所内の多様な部署が実施する広報に対する指導や助言を行っています。下川が取り組んでいる地域創生プロジェクトやZ世代向けのブランディングなどがドラマのテーマにも近く、その取り組みを見たNHKの担当者の方からお声がけいただきました。

「行政の慣習や体質の知見」「若者(Z世代)に向けたプロモーションの知見」「アートの知見」これらを活かしたお手伝いができると考えました。

そしてプロジェクトが始動しました。

1 作品を理解する

最初に着手したのが「UA」のロゴの制作です。
ロゴはUA全体の世界観が凝縮されたものであり、ロゴを制作する過程で土台となるコンセプトやビジュアルアイデンティティを固めていく作業になります。

まず、世界観やストーリー、視聴者に伝えたいことを理解するため、企画書、脚本、デザインコンセプトなどを読み込むことからスタート。そして、この作品の強さやおもしろさはどこにあるのかを探っていきました。
ドラマ制作の皆様からも何度もお話を伺い、

  • 世界への発信を目指していること

  • 新しいモノを創りたいという思い

  • 日本のドラマに期待されている「AI」「SF」「ジャパンアニメ」を伝える

といったことが根底にあるのだとわかってきました。

また、企画書に書かれていたこの作品のテーマである、

「青春:若きメンバーの“理想へのピュアさ”」
「SF:AIが問う“人間らしさ”とは何か」
「政治:暮らし・営みの中の“幸せ”とは何か」

このあたりもしっかりと意識してロゴの制作を進めていきました。

2 実験国家UAとはなにかを理解する 

上記の内容や脚本からUAとはどのようなプロジェクトなのか、UAの総理大臣真木亜蘭はどういう人物なのか、理解を深める作業を行いました。

ここではまだロゴのデザインのことは意識せず、とにかくUAの世界観を頭に入れることに注力しました。実在する組織でもなく、17才の若者が総理大臣であること、さらにAIが組織の中心にあることなど、イメージが難しい特殊な世界観でしたが、下川が取り組んでいる北九州市への若者世代の定住・移住の促進、若者の力によって都市の魅力を向上させることを目的とした地方創生のためのブランド「New U」のプロジェクトや、過去のプロジェクトなど幅広く参考を探ることで想像を膨らませていきました。

3 コンセプトを決める

さまざまな情報をインプットしたら、ブランディングの核となるコンセプトを決めていく作業に入ります。いままでの情報をもとに3つの方向性を導き出しました。
①多様性、自由
②共生
③理想の街
の3つです。
これらの方向性について監督や演出家とディスカッションをしながら、こちらの情報の理解に問題がないか、方向性が適しているか、などを確認していきます。この段階では、それぞれの方向性でロゴのリファレンスを挙げ、伝えるべきコンセプトをロゴのデザインとしてどのように表現できるのかを同時に考えていきます。その結果、この中の「②共生」という方向性を主軸に置いてそれ以外の方向性はエッセンスとして取り入れていくということに決まりました。

ここからいよいよ具体的なロゴのかたちを作っていきます。上記のコンセプトを今回のロゴマークやロゴタイプでビジュアル化していく作業です。「共生」というコンセプトが伝わるビジュアル表現にはどのようなものがあるか、さまざまな角度から検討し、いくつもプロトタイプをつくりながら進めていきます。ここでは、劇中の世界での見え方だけでなく、番組の視聴者に対する見え方もしっかりと意識して進めていきます。これは現実世界でのブランディングにはない部分で普段の仕事とは違った難しさを感じましたが、今回の案件ならではでもあり、やりがいを感じた部分でもあります。

4 ロゴの決定

さらに議論を重ね、ロゴマークのデザイン案が決定しました。そしてロゴタイプのベースの書体を決めたあと、個性の強さや視認性のバランスを整えていくため細部の調整をしていきました。色については、ソロンを構成する3つのAI「トリ/ヘキサ/ノナ」に設定されたキーカラーをもとにした配色になっています。

ロゴタイプの検証
決定したロゴ
コンセプトとビジュアル表現の整理

このプロジェクトではブランドガイドラインも作成しています。ドラマ制作の現場では多くのスタッフの方が関わります。その制作チームが各所でさまざまなツールを作成する際のクリエイティブを統一する目的としても作成したものです。さらに、このガイドラインは劇中でUA市民に向けて公開しているという設定で、真木たちが市民とともにUAをつくっていくという姿勢を体現するためのアイテムでもあります。

ガイドライン

ここまでで、UAのコンセプトやトーン&マナーがおおよそ確定したことになります。〈後編〉では、ネオンサインやAIソロンなどさまざまなツールにどのように展開されていくのかお話したいと思います。


▼後編

▼ハイライツ コーポレイトサイト『Projects』

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