続 トイレの問題、そして視野の欠け
ナースステーションの前を通り過ぎると、見知った看護師さんから声を掛けられる。
なんでも、今日、失禁したらしい。大きい方である。(お食事中の方、いえ、そうじゃなくても、ごめんなさい…。)
そして、本人は落ち込んでいるらしいと、こっそり教えてもらった。
この前、「オムツの中ではできない、無理」と本人は言っていた。
そりゃーそうだよね、わたしだってそんなのできそうにないよ、と心の中で深く頷きつつ、でも、どうしてあげればいいのか分からずにいた。
なので、目覚めてからは(覚める前はどうだったの分からない…)主人はずっと便秘気味だった。
それが、車椅子でリハビリテーション科に向かう途中だか、着いた途端だかに、むくむくと湧き上がる その ”出たい!” に、まったく我慢ができなくなったらしい。
左がほとんど全然動かないうえに、トドのような身体なんだから、どんなに急いだってトイレへの移動が間に合わないのは、火を見るよりも明らかだった。
つきあってくださった看護師さんのことを思うと、申し訳ないやら、合わせる顔がないやら、なんてお詫びをすればよいのやら…で、今、その場に居合わせてしまったような気持ちになって、すでにコトは終わっているにも拘らず、わたしはアワアワしてしまった。
「今日、なんか大変だったんだってーー? 漏らしたって聞いたよ。」
「あ、、、うん。そう。」
「なんかさー、俺、視野が欠けてる気がする。」
「えっ? はぁぁ?? 何の話?」
「それとこれと、何の関係があるの?」
「いや、なんかさー、ちょっと視野が欠けてる気がするんだよね。」
「この前の、リハの時の話?」
「いや、そういうんじゃなくて…、違うような気がする。分からない。」
「だってさー、ひーちゃんが来た時、ちゃんと見えてるって言ってだじゃん!視野が欠けてるなんて一言も言ってなかったよね?」
話がかみ合わないのに加えて、急にまた何てことを言い出すんだ!って思ったら、ひどくイライラしてくる。
「なんかさー、おしっこも思うように出ないんだよねー。」
あ、それは確かにそれは前にも聞いた。
「えー?なんで?なんで? なんで出ないの?」
「だって、”出したい” んでしょ?」
「分からないけど、出したいけど出ないんだ。」
ナースステーションに駆け戻って、なぜなのか聞いてみる。
「今、ご主人、感情を抑えるお薬を飲んでいるから、…そいうのもあって、お小水が出にくくなっているんです。お薬を飲む必要がなくなれば、ご自身でコントロールできるようになると思いますよ。」
おもらし。
視野の欠け。
かみ合わない話。
おしっこが出ないこと。
感情を抑えるお薬。
わけがわからん。