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禍話「待ち受け画面」


 携帯やスマートフォンの待ち受け画面は好きな写真やイラストなど自分の好きなように変更できる。

 そんな待ち受け画面は、ある意味でその人のパーソナルな部分が表出するもの。だからこそ易々と覗いたり土足で踏み込んだりするのはあまりいい結果を招かないかもしれない。


 これはIさんが大学生の頃の話だ。

 夏休みも明けて、Iさんは久しぶりに会ったサークルの友人たちと、食堂で昼食を食べながらワイワイ話していた。

 その中の一人、サークルもゼミも同じのA君が、その日はやけにウキウキしていたという。

 A君はサークルやゼミの中ではいわゆる「いじられキャラ」だった。

 本人的にはあまりそのキャラ付けをよく思っていないようだったが、客観的に見れば、その体型や少し抜けているところからもいじられキャラはA君によく合っているように思えた。

 いつもならいじられた時は本気で嫌がるのだが、その日のA君はやけに機嫌が良かった。

 しつこくいじられても笑いながらやり過ごして「ジュースくらいいいよ」とジュースを奢ってくれるぐらいに機嫌が良い。今までのA君からは考えられない。明らかにおかしかった。

 夏休みの間に何か良いことあったのかな………と考えていると、ワッと男子たちが急に騒がしくなった。どうやら何かの拍子でチラッと見えたA君の携帯の待ち受け画面が女性の写真になっていて、それに「彼女ができたのか」「どこの誰だ」と盛り上がっているらしかった。

 「おいおい!彼女できたのかよ〜!」「夏休みの間の予定はゼミ旅行ぐらいだと思ってたのにな〜!」「やるな〜いいな〜」と周りに茶化されている間もA君は照れるばかりで、あんまり待ち受け画面の彼女の話をしたがらない。

 そこは大学生だからか、分別をわきまえてそこから先へは誰も踏み込もうとしなかった。

 まあタイミングがあれば紹介してよということでその日はお開きになった「Aを好きになるなんてどんな物好きだよ〜」と言われている間もA君はアハハと軽く笑っていた。


 でもその日からA君の様子はおかしくなった。

 寝不足なのか、授業中に眠りこけることが多くなり、しばしば教授に名指しで叱られていた。それにだんだん目元のクマが酷くなっていって、今ではもうくっきりと目の下に深く刻まれていた。

 様子がおかしいのはもう誰の目に見ても明らかだった。


 そんなある日、A君は一限の授業に行く途中でフラフラと車道に飛び出し交通事故に遭った。


 命に別状はないようだったが、かなり酷い怪我をして結局大学はやめることになってしまった。

 手術や退学手続きが落ち着いた頃、サークルのみんなで病院へお見舞いに行くと、思っていたよりA君は元気そうだった。


「いや〜大変なことになっちゃったな」

「いや本当だよ~」

「でも彼女いるんだからこんな怪我早く治してこれからも仲良くやれよ!」

「………彼女?」


 A君は首を傾げている。

 何を言っているのか分からないといった顔でその場にいるみんなをぐるっと見渡す。


「彼女って?え?」

「いやほら待ち受け画面の……アレ彼女だろ……?」

「待ち受け画面カレンダーだけど………」


 そう言ってA君が見せてきた携帯の待ち受け画面は確かによくあるデフォルトのカレンダーだった。

 「もう別れちゃったのか」と聞くと、そもそもそんな彼女はいないし記憶もない、全然覚えていない分からないと本気でA君はそう言った。

 サークルの面々もしっかりとその待ち受け画面の女を見たわけでも、話を聞いたわけでもないのでその女がどんな顔だったのか、夏休みの間A君に一体何があったのか、誰も何も分からないままこの話は終わった。


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 数年後、数人の集まりでこの話を小耳に挟んだ男が、やけに怖かったなと思いながら帰宅につく前、携帯を取り出して時間を確認すると、待ち受けが一瞬、全く知らない女の写真になっていたという。

 その写真は証明写真のようにこっちを見据えていて、邪推すればそれは、差し詰め遺影を感じさせるものだったらしい。


【fin】


本記事は、著作権フリー&オリジナル怪談ツイキャス【禍話】第十六夜「ザ・禍話」より、編集・再構成してお送りしました。

禍話 - 第十六夜「ザ・禍話」(6:22〜)
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