禍話「ファミレスデスゲーム」
仕事の関係で地方に行った時、一通りの仕事が終わり、小腹も空いたので近くのファミレスに行くことにした。
女一人で夜に遠出も不用心なので、ホテルから歩いて数分のファミレス。
3時にクローズするファミレスなんて中途半端だなと思いながらも、時計を見ると23時だったのでまあ大丈夫かと、特に気にすることもなく入店した。
店内には、いかにもホームレスといったようなオジさんと、仕事をしていなさそうな、外見があまりよろしくない男の二人だけだった。
うーん嫌だな……
なるべくその二人から遠い、窓際四人掛けの席に座ったものの、店員が来ない。
そういえばそもそも入店した時から店員を見ていなかった。
「こういうのって普通ウエイトレスさんが案内してくれるんじゃ……」とは思ったが、まあ色々忙しいんだろうと呼び出しベルを鳴らす。
ピン ポーン
キッチンからウエイトレスが出てくる。
その後ろにピッタリとくっつくように若い女も出てきた。
二人いた。
一人はきちんとしたウエイトレスの格好をしているのだが、その後ろに付いてきているのは至って普通の格好をした若い女だった。
……あれ?と不思議に感じているとウエイトレスとその女は水も置かず、注文も聞かず、スッと四人掛け席の私の向かいに座った。
は?何これ?
急に若い女が話し出した
「いや〜良かった良かった!一人しかいないから多数決にもならない!」
何を言ってるんだ……?多数決?
考える間もないうちに今度はキッチンから男が出てきた。こちらも普通の服を着た普通の男だ。
男は手慣れているといった感じで、店じまいをしている。看板をしまってクローズドの札を掲げる。各窓のブラインドをシャーっと降ろす。
当然、まだ3時ではない。
思い切って歳下に見える目の前の女に「何ですか?」と強く出た。その時初めてきちんとウエイトレスが視界に入ったが
ウエイトレスは、ガチガチに固まって声も出さずにボロボロと泣いていた。
え、え?何で?ちょっと……
チクッ
太腿に何か当たった。
痛っ……と思うと女がさも当たり前かのように鋭く尖った何かを私の太腿に当てている。
うわっ!!ヤバイ!!と思っていると女が
「どっちがクズか 選手権〜〜」
とローテンションのまま、抑揚もつけず番組のタイトルコールのように言った。
まったく意味が分からない。これは何なんだ、そういえばあの二人は……
周りを見渡し目を凝らす。
少し遠くに座っている二人も、ガタガタと震えていた。よくよく見ると手足を縛られている。
これはいよいよおかしい、というかヤバイ。異常だ。
また女が急に話し始めた
「こんな時間にファミレスに来るヤツはクズばっかりだ アンタは見たところスーツも着てるし仕事してると思うけど こんな時にファミレスに来るのはクズばっかりだ
あっちにいる二人どっちが真のクズか クズofクズか ああいうのは大体常連客だからどっちがクズかコイツに聞いたんだけど なかなか容量を得ないし一人だからどうしようもないからアンタの意見も聞きたいな!」
わけがわからない……
今度はガタガタ震えているウエイトレスに話しかける
「で あっちはどうなの結局 話の途中だったけど」
ウエイトレスは男の客の方を見ながら、
あっちは親の金で食べていて、あっちは完全にホームレスだ、よく席に置いてある塩や砂糖を盗んでいくと、泣きながら答えた。
「厨房にいた二人にも聞いたんだけど票が割れたんだよね 親の金で食ってるヤツと政府の金で食ってるヤツ アンタはどう思う?」
相変わらず太腿をグイグイ押されている。若干血も滲み出てきた。
仮に答えたとしてもどうせ刺されそうな雰囲気だった。どちらがクズなのか、あー……うーん……と決めあぐねている途中で「面倒くせェ……ヤッちゃおうかな……」と女が言うと、男が「いやいや企画の意味がないでしょ」と宥める「ああ そっか」と女が冷静さを取り戻す。どれもこれも意味が分からない。私は一体何に巻き込まれているのだろう……
その時、少し向こうにいる「親の金で食べている方」が
「俺はこんな所でこんな目に合う人間じゃなァァい!!!」
と大声で叫んだ。緊張で張り詰めた糸が切れたのだろう、壊れたように叫び始めた。
私はイラッとした。
元々あんな風に壊れる人間が嫌いだったのもあったが、このワケの分からない状況も相まって、いつもよりイラッとした表情が顔に出た。
それを察したのか、女が「どっち!!!どっち!!!」と迫り寄ってくる。
「じゃあもうあっちです!!!」
その後、女から五万円を貰った。というのがこの話のオチだ。
二人のうちどちらかはあのあときっとどうにかなってしまったのだろう。
その店は改装して、リニューアルオープンの華々しい写真がネットに上がっていた。
少し探してみたが、それっぽいニュースは一切見つからなかった。
【fin】
本記事は、著作権フリー&オリジナル怪談ツイキャス【禍話】第十夜「ザ・禍話」より、編集・再構成してお送りしました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?