ゼイユ「ひさびさに 顔見た 気がするわ」というセリフの凄さについて語る
この記事では主にポケモンSVの追加コンテンツ「ゼロの秘宝 番外編」終盤のセリフ「ひさびさに 顔見た 気がするわ」について語ります。ストーリーの流れを思い出しながらお読みください。
またストーリーについてのネタバレを多少含みますので、未プレイの方はご注意ください。
ゼイユは何日間意識を奪われていたか?
いつからゼイユがモモワロウに意識を乗っ取られ、キビキビダンスを踊らされていたのかは、スグリの次の発言から推測できる。
この手紙とは番外編の序盤、主人公の実家で母から受け取った手紙である。
パルデア地方からキタカミの里まで飛行機とバスを乗り継いでいく必要があることは、「碧の仮面」で初めてキタカミを訪れたときの会話からわかる。
ここから推測するに、スグリが手紙を送ってから主人公の実家に届くまではおおよそ5~7日間の時間を要すると考えられる。母が主人公に手紙のことを伝える時間(まだメールで伝える程ではない時間)が0~2日、そこから主人公と3人がキタカミへ行くための準備をするのに1日、移動日にはスグリと会っていることを考慮すると、
ゼイユは最短でも6日間、最長で9日間も意識を奪われていたと言えそうだ。
ゼイユ「ひさびさに 顔見た 気がするわ」はどういうセリフか?
モモワロウの催眠が解け、意識を取り戻したゼイユはスグリに対して次のような言葉をかける。
皆さんはこの言葉をどう受け取っただろうか。
ゼイユは物語中ずっと催眠状態にあり、上で示した通り数日間分の記憶がなかったため、「本当に数日ぶりに顔を見た感覚がある」と言葉そのままの意味で受け取っても問題ないだろう。
いつもは他人を振り回す側のゼイユが、今回は振り回される側であった。しかし何も覚えていないのでいつもの調子で主人公たちに話しかける。
渦中の人物が事件の記憶を失っており、すっとんきょうな言動で周囲を笑いに包む、よく見る話のオチである。
「ゼロの秘宝 番外編」というストーリーで見れば、ホラーコメディ調のシナリオと相性がよく、うまくまとめられている。
しかし、追加コンテンツ「ゼロの秘宝」の最後を締めくくるセリフとして見るのならば、もうひとつ別の捉え方ができるのではないかと私は考える。
何故ゼイユは「ひさびさに顔を見た」気がしたのか?
ここからは番外編のストーリーだけではなく「ゼロの秘宝」全体のストーリーを含めてゼイユのセリフについて考察する。
「ゼロの秘宝」のストーリーとは
この追加コンテンツはゼイユとスグリの姉弟が物語のメインキャラクターとして登場し、とりわけスグリの成長を描いたストーリーとなっている。「藍の円盤」最後でスグリの顔越しに朝日が昇ったのは、これからスグリが再スタートを切ることを示すメタファーに他ならない。しかし「藍の円盤」で描写されるのはスグリが本当の自分を取り戻したところまでであり、この時点ではスグリの心情も学園での関係も依然としてマイナスの状態である。
そのため、どうやらスグリとゼイユの二人は学園を休学し、実家のキタカミの里で療養をしているらしい。ここまでが番外編が始まる以前の話である。
ゼイユが見た「スグリの顔」とは
ゼイユとスグリは療養中、キタカミの実家で毎日顔を合わせていたはずである。しかしスグリは「藍の円盤」最後で「迷惑をかけた人に謝りたい」と言ってたことから分かるように、姉のゼイユに対しても申し訳ない気持ちを持っていたはずである。そのため、ゼイユとスグリの姉弟の関係はオーガポンから始まったDLC一連の事件以前のものとは変わってしまっていると思われる。今一度言うが、追加コンテンツ本編ではスグリが立ち直り始めるところまでしか語られておらず、自業自得とはいえスグリにとってマイナスな状況が続いている。
そこで番外編のストーリーが始まる。
スグリは主人公の友人3人と交流を深め、モモワロウに操られた村人を主人公と協力して助けていき、少しずつ成功体験を重ねていく。人生のマイナスがじわりじわりと溶けていき、こころが軽くなっていく。物語終盤、モモワロウをボールに閉じ込め村人たちの催眠を解く。そして、意識を取り戻し駆け寄ってきたゼイユにこう言われるのである。
ここでゼイユが見た「スグリの顔」とは、自分が催眠にかかる数日前のスグリの顔ではない。無論、ブルーベリー学園チャンピオンだった時の辛そうなスグリの顔でもない。それよりずっと前の、オーガポンの一件が起こる前の、仲が良かった弟が姉に対して自然に見せていた顔なのである。
つまり、この「ひさびさ」という感覚は、たった数日間意識を乗っ取られ記憶を失っていたから生じたのではない。追加コンテンツ本編で語られた一連の騒動の後、ようやく取り戻した「自然なスグリの顔」を(これは憶測だが)数か月ぶりに見れたからゼイユは「ひさびさに顔を見た」気がしたのだ。
おわりに
ゼイユの「ひさびさに 顔見た 気がするわ」というセリフがいかに素晴らしいセリフであるかを理解していただけましたでしょうか。
ここで注意してほしいのが、前半で説明した「本当に数日ぶりに見た気がした」という解釈が全く意味をなさないというわけではなく、こちらも番外編をひとつのシナリオとして見たときにいいオチの役割を担っています。むしろ、この二重性を「ひさびさに 顔見た 気がするわ」の一文で表してしまうのが、このセリフの素晴らしいところです。
「ゼロの秘宝 番外編」は一見するとSV本編で登場した3人とDLCで登場した2人を交流させるオムニバス的なストーリーであるが、見方を変えると「ゼロの秘宝」を締めくくるエピローグの役割をしているといえます。
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