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【AI小説】Symbolic Garment#3(テニプリ二次創作)

※自作あらすじ→ChatGPTで小説として出力→人力修正 という手順で制作しています。詳しい制作過程に関しては以前の記事をご参照ください。
※オリキャラが数人登場します。
※時間設定は原作終了直後、2学期が始まったあたりです。
※内容的には↓の話の続編となります。

#3 青学、新人戦都大会での戦い


 新人戦都大会が行われるテニスコート上を、爽やかな秋風が駆け抜けていった。
「さーて、新チーム初めての公式戦、気合入れていくか」
 コート脇にそれぞれ陣取っていた有力校の様子を眺めていた桃城が、気合を入れるかのように開いた掌に拳を軽く打ち付ける。その隣に立つ海堂は無言のまま、頭に巻いた真新しいバンダナの具合を確かめるかのように片手を額の上あたりに当てていた。
 彼らふたりを始めとする青学テニス部の面々は、揃いの青と白のジャージを身にまとい、これから始まる戦いに向けて気合いを高めていた。既にいくつかのコートで試合は始まっていたのだが、夏の全国大会で優勝という最高の結果を残した青学はシード校に選ばれていたため、彼らの出番はまだもう少し後だった。
「おーい、桃城!」
 後ろからかけられた軽快な声に振り返ると、不動峰の黒いジャージに身を包んだ神尾が手を挙げて駆け寄ってきた。
「お前らとは決勝まで当たらないみてーだな。その時は全力で行くから覚悟しとけよ!」
「はは、張り切ってんな、神尾」
 神尾の挑発的な笑みに、桃城も負けじと頷く。
 青学と同じく全国大会に出場し、ベスト8だった不動峰も反対側のブロックのシード校に選ばれていた。そのため、青学が不動峰と再戦するとすれば、それは決勝戦ということになる。
「……ハッ、それはどうかな」
 淡々とした声とともに現れたのは、氷帝学園の新部長である日吉だった。その学校名に似つかわしい冷ややかな視線を神尾と桃城に向けると、挑発するかのようにふんと鼻を鳴らしてみせる。
「決勝で青学と当たるのは氷帝だ。お前ら不動峰なんざ、俺たちの敵じゃねえよ」
「なんだとてめえ!」
 日吉に掴みかかろうとした神尾の前に、通りがかった聖ルドルフの新部長の不二裕太が割り込んでくる。
「おいおい、試合前に何やってんだよ」
「だってこいつが……!」
 日吉の方を指さしてなおも息巻く神尾に対し、「どっちが強いかなんて、試合すればすぐに分かることだろ?」と裕太がなだめる。
「まあ……そりゃ、そうだけどよ……」
「だろ? それにお前らの方だって、『部長がトラブって出場停止になった』だなんて言われたくねえよな?」
 裕太の言葉の後半は、日吉に向けられたものだった。興を削がれた、と言わんばかりに「ああ」と一言つぶやくと、彼は踵を返して去ってゆく。
「おい日吉! ヘタなプレーして俺らと対戦する前に負けんじゃねーぞ!」
 ここぞとばかりにかけられた神尾の言葉にも、日吉は振り返ることすらしなかった。
「……ちっ、マムシの野郎より不愛想な奴だぜ」
 むくれる神尾の肩を、「まあまあ」と言いながら桃城がぽんと叩く。
「今からエキサイトしてたら、体力がもったいねーぜ。その怒りは試合でぶつけろよ、神尾」
「お、おう……」
 桃城の言葉に同意するように頷いた裕太の様子を見て、神尾もようやく落ち着きを取り戻したようだった。

 
 準々決勝までを危なげなく勝ち進んでいった青学の準決勝の相手は、かつて都大会の決勝で対戦したことのある山吹中だった。試合前のウォーミングアップをしていた山吹中の選手たちの中から、ひときわ小柄なひとりが青学の選手たちの方へたたっと小走りで近寄ってくる。
「こんにちはです、青学の皆さん!」
 やや長めの髪を緑色のヘアバンドでまとめた外見と、幼さを残したその容貌。何かに思い至った様子になった桃城がぽんと拳を打ち付けた。
「お前、確か夏の都大会の時に亜久津さんと一緒にいた……」
「あ、はい、そです! 山吹中一年、壇太一です!」
 よろしくお願いしますです、と壇がぺこりと頭を下げてみせる。
「君、そういえばあの時、試合前にリョーマくんと一緒にいたよね?」
 リョーマくんの友達なの? というカチローの問いかけに、「い、いえ、友達だなんてそんな!」と慌てたように壇は両手をぱたぱた振った。
「僕、亜久津先輩と越前くんに憧れて一生懸命練習して、この前ようやくレギュラーになれたんです! それを越前くんに伝えたくて来たんですけど……」
 越前くんいないですか、と瞳をきらきらさせて問いかけてくる壇に対し、桃城は残念そうに首を振った。
「わざわざ挨拶に来てくれたのに悪いんだけどよ……越前は今日本にいねーんだ。あいつ、アメリカに行ってプロを目指すんだと」
「ええっ! そう、ですか……」
 しょんぼりと肩を落とす壇の様子に、かけてやる言葉が見つからない桃城は困ったように頭をかいていた。
「そうだ壇くん、一緒に写真撮ろうよ」
「え?」
 カツオの提案を聞いた壇が意外そうに目を見張る。
「新人戦が終わったら、結果をリョーマくんに伝えるつもりなんだ。その時一緒に写真も送れば、ちょっとだけでも雰囲気が伝わると思うし」
「は……はい!」
 お願いします、と言いながら頭を下げる壇を促し、堀尾を含めた一年生トリオは良さげな背景を求めて選手たちの輪から離れていった。
「あーあ、今日は一試合だけしかないからって、あいつら遊び気分になってるんじゃねーか? なあ海堂……海堂?」
 何気なく隣にいた海堂に向けて声をかける桃城だが、彼が硬い表情で山吹の選手たちの方を見つめているのに気づいてそちらへと視線を移す。
「あれは……」
 彼らの中に見覚えのある顔を見つけ、桃城の顔つきにも緊張が走っていた。かつてストリートテニス場で出会った偽海堂、その彼が山吹中のジャージを着て堂々と立っていたのだ。海堂と桃城の視線に気づいたのか、彼は束の間こちらに視線を向けると、意を決したように歩み寄ってくる。
「よう。……久しぶりだな」
 どことなくぎこちない口調で、元・偽海堂が話しかけてきた。その表情からは以前のような横柄さは消え失せていて、事情を知らない者が見ればただの知り合い同士としか思わなかっただろう。何か言いたげな顔つきから海堂は彼の意図を察し、周囲の耳目を避けるために桃城を連れてコートの隅の誰もいない場所へと移動した。
「で、どういう風の吹き回しだ?」
 桃城が口を開くと、彼は少し照れ臭そうに頭を掻きながら話し始めた。
「あの時の試合で、俺、目が覚めたんだ。海堂にこてんぱんにやられてから、最強だって粋がっていたのが恥ずかしくなってな。それで改めて真面目に練習したんだよ」
 彼は続ける。自分が犯した過ちを思い返し、海堂や青学に訴えられなかったことに感謝していること。そして、ストリートではなく公式の舞台で力を試したいと決意したこと。今では母校である山吹中のレギュラーとして、チームを支える存在になったという。
「感謝って言うと大げさだけどな……助かったよ。あの時青学に訴えられてたら、今の俺はここにいねえからな」
「はは、訴えるも何も」桃城が軽く笑って肩をすくめる。
「そもそもお前の名前も学校も知らなかったからな。ってか、『あえて知らない』ようにしてた……って言えば、分かるか?」
 元・偽海堂もそこで桃城の意図に気が付いたらしく、笑いながら「そういうことか」と頷いた。
「改めて自己紹介させてもらうよ。俺は山吹中二年の坂井竜雅だ。お前らから受けちまった借りは、正々堂々と勝負することで返させてもらうぜ」
 偽海堂――坂井が差し出してきた片手を、海堂は迷うことなく握りしめた。彼の決意のこもった瞳に、海堂も応えるように頷く。
「いいだろう。その代わり、お前と対戦することになったとしても手加減はしねぇからな」

 こうして、密かな因縁を含んだ青学と山吹中の準決勝が、今まさに幕を開けようとしていた。
「さーて、と。全国二連覇への長い闘いの始まりだぜ」
 試合開始を待つ観客たちに囲まれた無人のコートの方に視線を向けながら桃城が呟く。コートの上空には、まるでこの戦いを見守るかのように秋の青空が広がっていた。

 

 青学対山吹中の準決勝は、各選手の全力がぶつかり合う熱戦となった。コートの周囲は観客たちの歓声で包まれ、試合の緊張感が肌に伝わってくる。
 試合は2勝2敗のイーブンとなり、残るはS1の一戦だけとなっていた。これまでの対戦成績では全国優勝校の青学が有利と思われていたが、山吹中の選手たちは夏の都大会での敗北を糧に大きく成長していた。その勢いは、青学のレギュラー陣をも驚かせるものだった。
「よし、次で決めるぞ」
 愛用のラケットを手にした海堂が立ち上がると、コートの向こうへと視線を送る。その鋭い眼差しの先には、試合のために待機する坂井の姿があった。
「まさか、あいつが本当にS1の相手になるとはな」
 コートに向かう海堂の背中を見つめながら、独り言のように桃城が呟く。
「今日のあいつは偽海堂じゃなくて、山吹中の坂井として勝負に臨んでくる……負けんじゃねーぞ、海堂」

 S1が始まると、観客たちの視線は一気にコートへ集中した。坂井と海堂はネットを挟んで互いに向き合い、鋭い視線を交わす。
「この前のストリートテニス場の借りを返す――そのつもりだ」
 坂井がラケットを肩に担ぎながら、挑発するように言う。その言葉には以前のような軽薄さはなく、アスリートとしての真剣な闘志が込められていた。
「なら、全力で来い。俺も手加減しねえからな」
 海堂が低く唸るように答えた。試合前から二人の間には火花が散り、空気がピリピリと張り詰めているのが分かる。
「いくぜ!」
 試合が始まると、坂井は序盤から積極的な攻撃を仕掛けてきた。速いラリーと鋭いショットを次々と繰り出し、青学のエースのひとりである海堂に対して果敢に挑む。その姿は観客席からも感嘆の声を引き出していた。
「坂井、あんなに成長してたんだな……」
 山吹中のベンチに座る室町が、驚きを隠せない様子で呟く。その隣で壇は先輩の勝利を祈るかのように両手を組みながら、食い入るように試合を見つめていた。
 もちろん、海堂も負けてはいなかった。坂井の鋭いショットを冷静にさばき、ラリーの中で少しずつ相手のスタミナを削っていく。特に彼の得意とするスネイクは、観客たちを何度も沸かせた。
 試合は互角の展開が続き、両者ともに一歩も譲らなかった。しかし、坂井が一歩先んじる場面もあれば、海堂が驚異的な粘りを見せて盛り返す場面もあり、どちらが勝つか全く予想がつかない。
 試合の終盤、海堂のスネイクが坂井のバックハンドを襲った。坂井は渾身の力で返球したものの、海堂の次のショットに追いつけなかった。そのまま点差は開き、最後のポイントを決めたのは海堂だった。
「Game set! Won by 青学・海堂6-3!」
 審判の声が響くと同時に、コート内は大きな拍手に包まれた。
 海堂はラケットを下ろし、汗をぬぐいながら坂井の方へ歩み寄った。坂井は息を切らしながらも、悔しさを隠さずに笑っていた。
「負けちまったな……でも、いい試合だった」
 坂井が差し出した手を、海堂はしっかりと握り返した。
「またやろうぜ。その時も手加減はしねえ」
「上等だ。今度こそ勝つからな!」
 坂井の言葉には、確固たる決意があった。その背中には、室町や壇を始めとした山吹中の選手たちが集まり、彼を称える拍手を送っていた。

 コートから出てきた海堂の方へ、タオルを手にした桃城が近づいていく。
「お前、よく勝ったな。あいつ、思ったより手強かったろ?」
「……まあな。だが、次の機会があったとしても、俺は負けねえ」
 受け取ったタオルで汗を拭う海堂に「だな」と一言返すと、桃城はコートの反対側の方へと視線を向けた。
(――なあ、坂井。お前、気づいてるか?)
「偽海堂」として本物の海堂に惨敗した後、ストリートコートを去る彼のことを顧みる者は誰ひとりいなかった。だが今はどうだろう。山吹中の選手として堂々と海堂と渡り合った彼は、同じチームの選手たちに労われている。試合に負けはしたものの、仲間たちはその結果を責めるどころか、よく頑張ったと笑顔で彼のことを迎えていた。
(あいつらとまた戦える日が来るのが、楽しみになったな)
 海堂に続いてベンチへ戻りながら、桃城は空の方へと視線を向ける。澄み渡る秋の空が、これからの戦いを見守るように広がっていた。

 
 青学と不動峰の決勝戦が行われるコートは、秋らしい涼やかな空気に包まれていた。観客席には両校の応援団が集まり、試合開始前から熱気が漂う。東京都新人戦の決勝戦にふさわしいカードとあって、多くの注目を集めていた。
 不動峰中は、その圧倒的な実力で決勝までの試合を難なく突破してきた。都内の強豪校である聖ルドルフや氷帝をも退けただけでなく、スコアは常に相手を圧倒していた。その原動力は、全国大会ベスト8を経験した選手たちだ。新しく部長になった桜井、それに副部長の神尾を中心とした彼らは、全国の強豪校と戦った経験を持っている。その実績は他校の選手たちにとっても脅威だった。
 一方の青学は、昨年度の全国優勝校ではあるものの、今年の新人戦では新体制となり、全国大会でも活躍した海堂と桃城以外は公式戦の経験がほとんどない選手たちで構成されている。スーパールーキーの越前がいれば、状況は違っていたかもしれないが、彼は今アメリカに渡っているため、ここにはいない。
 試合前の青学のベンチでは、出場する部員たちを前にした竜崎が穏やかな口調でアドバイスを送っていた。
「分かっとるとは思うが、不動峰は強い。だが、勝つチャンスがないわけじゃないぞ。――東、お前さんから説明してやれ」
「はい」
 竜崎の言葉に続いて、東が静かに立ち上がる。彼は手元のタブレットを操作し、不動峰の選手たちに関するデータを画面に映し出す。
「不動峰が強いのは確かなのですが、彼らには明確な弱点があります」
 その一言に部員たちがざわめいた。前部長の橘を除く昨年の全国大会メンバーがほぼ全員出場している不動峰に、弱点などあるのだろうか。皆が疑問の目を向ける中、東が冷静に説明を始めた。
「橘さんが抜けたことで、不動峰にはひとりだけ、公式戦初出場の選手がいるんです。この新人戦では、その選手が試合に出る必要があります」
「だな。……それで?」
 桃城が腕を組みながら問いかける。既に戦う者の瞳になった彼の表情には、普段の人あたりの良い様子は一切見られなくなっていた。
「その初出場選手の実力は未知数ですが、試合経験が乏しいのは間違いありません。その選手をシングルスやダブルスのどこにオーダーしてくるかを予測して、そこに荒井をぶつけます。荒井が勝ちさえすれば、あとは副部長と部長が勝つことで優勝できます」
「なるほどな……」
 納得のいく分析内容を聞いた海堂が、小さく唸るように頷いた。
「そういうことだ。だから、まずはお前たちだけでオーダーを組んでみるんだ」
「え……?」
 竜崎の意外な言葉に、部員たちは一瞬、戸惑った顔を見せる。オーダー決定は普通、顧問が中心となって行うものだからだ。しかし竜崎は続けて言った。
「データ班の初仕事だと思って頑張ってみるといい。なあに、ここで負けたとしても、関東大会には進めるから気負うことはないぞ」
 関東大会には四校が出場できるから、準決勝まで進んだ時点で既に切符は手に入れている。優勝校にはシード権が与えられるため関東大会で有利になれるのは確かだが、シード権の有無で一喜一憂しているようでは来年の全国大会で二連覇なんてできるはずはないだろう。だから、竜崎の言葉に部員たちはホッとしたような表情を浮かべつつも、気合いを入れ直した。こうして桃城や海堂、そしてデータ班の東とカツオを中心にして、部員たちによるオーダー作りが始められた。
 
「新人はS2に来ると予想しています」
 東の言葉に、空気が一瞬静まり返る。データ班の分析を冷静に説明する彼の表情は、自信に満ちていた。その横で、カツオが頷きながら補足する。
「理由は明白です。ダブルスに新人を配置するのは、ひとりの有力選手を犠牲にする可能性が高いので非効率です。特に、僕ら青学にはかつての黄金ペアのような脅威的なダブルスがいないので、不動峰はダブルスで確実に2勝を狙うはず」
 東がスライドを切り替え、不動峰のこれまでの試合データを示した。
「それから、新人をS3に置く可能性も低いです。もしダブルスで2敗した後に彼が負けた場合、そこで3敗目となり試合が終了します。不動峰がそんなリスクを取るとは考えにくい。逆にS1に配置して捨て試合にする可能性もありますが、そうすると彼らは『4試合で3勝』という条件を自ら選ぶことになり、こちらより不利な状況を招きます」
「夏の都大会の時の聖ルドルフが、その最たる例ですね」
 東の説明を引き継ぐようにカツオが続ける。
 シングルスに強い赤澤を使うことまでしてダブルスの戦力を強化し、S3までで三連勝、もしくはS2で自ら勝つことによって勝利を狙っていたと思われる観月の作戦であったが、その計画はD2の桃城と海堂、そしてS3の越前が勝利することによってもろくも崩れ去っていた。S2で万が一不二が負けていたとしても、S1に控えていた手塚が負けることなど決してあり得なかっただろう。後になって思うと、S3の段階で既に聖ルドルフの敗北は決まっていたのだった。
「ですから、新人をS2に入れることで、ダブルスでの2勝に続いてS3、もしくはS1で3勝目を確実に取りに行く狙いが自然です」
 東とカツオの分析を聞いた部員たちは、思わず感心したような表情を見せた。桃城が腕を組みながら低く唸る。
「なるほど……筋は通ってるな」
「ってことは、俺らのオーダーはそれを踏まえた作戦で行くしかねえってわけか」
 海堂が鋭い眼光で東を見据えながらそう言うと、「ええ」と東は頷いた。
 桃城は腕を組んで東の分析を熟考していたようだった。が、何かが引っかかる、そんな様子で顔を上げる。
「……確かに、筋は通ってる。新人がS2に来る可能性は高そうだ。でもよ、相手があえてその逆を突いてくる可能性だってあるんじゃねえか?」
「その通りだな」と竜崎が頷いた。彼女は厳しい視線でデータ班を見据える。
「データを基にした予測が大事なのは分かるが、予測は絶対ではない。それに、こういう新人戦の場では、予想もつかないほど大胆なオーダーを試してくる可能性もある。そのあたりをどう考える?」
 問いかけられた東は少し言葉を詰まらせたが、やがて真剣な表情で答えた。
「もちろん、予測が100%正しいとは思っていません。ですが、僕たちデータ班の役目は、確率的に最も高い可能性を提示することです。相手がどんな意図でオーダーを組んでくるかまでは完全には読めません。それでも僕たちは、状況をできるだけ整理して選手たちにとって戦いやすい土台を作りたいと思っています」
 カツオも力強く頷き、言葉を補った。
「予測が外れることもあるのは承知しています。でも、僕たちはその予測を信じて戦う選手たちの力を信じたいです」
 その言葉に、竜崎の口元がかすかにほころんだ。
「なるほど、着眼点自体は悪くないな。だが、実際の試合では予測を超えた展開になることも多い。それを乗り越えて勝ちを掴むのは、最終的にはコートに立つ選手たちの役目だ。オーダーの策定は任せるが、実際の試合でどう戦うかはその場での対応力次第じゃぞ」
 竜崎の言葉に桃城も「まぁ、データ班の作戦を試してみるのも悪くねえか」と肩をすくめた。海堂も静かにうなずきながら「お前らの読み、信じるぜ」と短く告げる。その一言で、東とカツオの表情はわずかに緩んだ。
 こうして議論を重ねた結果にエントリー用紙に書き記されたオーダーを、海堂が改めて部員たちの前で読み上げる。
「D2は池田と水野。D1は東と林。S3は桃城、S2は荒井。そしてS1は俺だ」
 オーダーが決まると、竜崎は満足そうに頷いた。
「よし、これでいこう。新人戦での経験は、どんな結果になっても次に繋がる。精一杯戦ってこい」
「はい!」
 チーム全員が気合いを入れ直し、緊張感を漂わせながらコートへと向かう。青学対不動峰の決勝戦の開始時間は、すぐそこまで迫っていた。

 青学対不動峰の決勝戦が始まった。観客席からは両校の応援が飛び交い、緊張感が会場全体を包み込んでいた。青学は新体制で挑む初の公式戦。不動峰は全国大会で実績を残した選手たちが揃い、実力の差は明白だった。それでも青学の選手たちは怯むことなく、コートに立ち向かった。

 第一試合(D2):池田・水野(青学)vs 内村・森(不動峰)
 試合開始を告げる審判の声とともに、D2の試合が始まった。青学からは池田とカツオ、不動峰からは内村と森が出場。内村の華麗なボレーと森の強烈なスマッシュは、初めて公式戦に臨む青学ペアにとっては手強い相手だった。
「くそっ、速い!」池田が返球に追いつけず、ネット際で声を上げる。
「落ち着いて、池田先輩!」カツオが声を掛けながらも、不動峰の内村が繰り出すトリッキーなショットに苦戦していた。彼らの連携は抜群で、まるで一心同体のように動いてくる。
 序盤から不動峰ペアがリードを広げ、青学はそのプレッシャーに飲まれる形となった。それでも池田とカツオは諦めることなく最後まで粘り続けた。カツオの粘り強いリターンが数回決まり、観客席からは拍手が起こる。しかし、不動峰の実力は一枚も二枚も上手だった。6-2で不動峰が勝利し、青学は第一試合を落とした。

 第二試合(D1):東・林(青学)vs 桜井・石田(不動峰)
 続くD1には、青学の東と林が登場した。対するは桜井と石田。桜井の冷静な戦術指導と石田のパワーショットが特徴のペアだ。特に石田の渾身の波動球は観客を圧倒させるほどの破壊力を誇っていた。
「いくぞ!」東が鋭いスライスサーブを放つが、石田が難なくリターン。そのボールが勢いよくコートに叩きつけられると、青学側は防戦一方となった。
「くそっ、なんだあの威力は!」林がボールを拾おうとするが、追いつけずに点を奪われる。
「でも負けないぞ!」東が必死に声を張り上げ、フォローを続ける。彼らは何とか石田の強打をかわしながら反撃の糸口を探した。
 だが、不動峰ペアの攻撃は容赦なかった。桜井の精密なコントロールショットと石田の破壊的な一撃が何度も青学ペアを襲い、試合は6-1で不動峰が勝利。これで不動峰が2勝目を挙げた。

 第三試合(S3):桃城(青学)vs 神尾(不動峰)
 2連敗を喫した青学だったが、ここで登場したのはS3の桃城。「絶対に負けられねえ!」と拳を握りしめ、コートに立つ。対する不動峰の神尾は軽やかなステップを見せ、彼の持ち味であるスピードで圧倒しようとする構えだ。
「リズムに乗るぜ!」
 試合が始まると、神尾の俊足が青学のコートを縦横無尽に駆け巡った。桃城の放つパワーショットをものともせず、カウンターで得点を重ねる。だが、桃城も徐々に相手のリズムを読み始めた。
「そのスピード、読めたぜ!」桃城が強烈なスマッシュを決め、ゲームカウントを並べる。観客席からは「よっしゃ!」と声援が飛ぶ。試合の終盤、神尾が全力で放ったショットを桃城がダイブで拾い、逆転の一打を繰り出した。そのボールがラインギリギリに決まり、試合は6-3で青学の勝利。
「やったな、桃城!」
「おおよ! ここで負けてなんていらんねーよな!」
 海堂がベンチから声をかけると、桃城は拳を突き上げて答える。これで青学は1勝目を挙げた。

 第四試合(S2):荒井(青学)vs 永野(不動峰)
 決勝戦もいよいよ大詰め。青学はここで負ければ敗北が決まるという状況の中、S2の荒井がコートに立った。対する不動峰の永野は新人選手ながら、全国大会出場経験のある先輩たちに鍛えられた実力者だった。
 試合が始まると、永野はその落ち着き払ったプレーで荒井を翻弄した。正確無比なリターン、そして新人離れした冷静な判断力で次々と得点を奪っていく。観客席からも「新人とは思えない」と驚きの声が上がつでいた。
「……弱点だなんて、とんでもない」試合の様子を見守っていた東の口から、無意識のうちにそんな言葉が漏れていた。「彼は立派な不動峰の戦力として渡り合っている」
「すみません、僕がきちんと永野くんのデータを取れていれば……」謝罪の言葉を述べるカツオに対し、「いや、君が謝ることではないよ」と東が首を振る。
「彼自身は今回が初の公式戦だったとしても、決勝戦に上がってくるまでに何度か試合を経験している。それがデータ以上に彼を成長させていたとしても、何の不思議はないんだ」
 それでもきっと、この場に乾がいたとすれば、試合経験による成長分を見越して永野の戦力を推測することができていただろう。それが自分にはできていなかったということか。
「僕は……まだまだ乾先輩の足元にもたどり着けていないな」
 
「くそっ、どうなってんだ!」荒井は額に汗を滲ませながら声を上げた。この試合に勝たなければ青学の敗北が確定してしまう。だが永野のプレーは隙がなく、序盤からリードを広げられていた。
 そんな中、荒井は自分が着ているジャージにふと視線を落とす。これは憧れだった青学のレギュラージャージ。自分がその資格を手に入れたことが信じられないくらいだったが、ここで負けるわけにはいかない。
「俺が、このジャージの名を汚してたまるか!」荒井の中に再び闘志が湧き上がった。
 後半、荒井は果敢に攻め始めた。永野のショットに食らいつき、驚異的な粘りでラリーを続ける。そして、1ポイントを奪った瞬間、観客席から大きな拍手が巻き起こった。
「あいつ、こんなに粘り強いプレーができたんか」と桃城が驚いた声を漏らすほどだった。
「まだまだだ!」荒井は声を張り上げ、全力でボールを追い続ける。その姿はまるで、かつて山吹の坂井が青学ジャージを着て実力以上の力を発揮したときと重なるようだった。観客席の応援が荒井の背中を押し、ついに彼は6-4で勝利を掴み取る。
 コートに倒れ込む荒井に仲間たちが駆け寄る。
「やるじゃねーか、荒井!」桃城がその肩を叩き、荒井は疲れ切った表情のまま笑顔を浮かべた。
「これで、繋げた……あとは頼むぜ、海堂……」

 第五試合(S1):海堂(青学)vs 伊武(不動峰)
 決勝戦の最後を飾るS1。青学の部長・海堂が登場すると、観客席から大きな歓声が上がった。
 「何だよ……S3で終わらせるって言ってたじゃないか……永野は仕方ないけど神尾はだらしないよなあ……」対する不動峰の伊武は、独特の間を持ちながらコートに立った。
「どうせなら越前くんとやりたかったんだけどな……まあ、しょうがないよね……今日本にいないっていうし……」と伊武はぼやきながらラケットを握る。だが、試合が始まるとその雰囲気は一変。彼は鋭い洞察力と繊細なテクニックを駆使し、海堂を翻弄し始めた。
「やるじゃねえか、伊武……!」海堂も負けじと得意のスネイクショットを繰り出し、互いにポイントを奪い合う激戦となった。技巧派同士の対決は長時間にわたり、どちらも一歩も譲らない。
「お前のその粘り、嫌いじゃねえぞ!」海堂が叫びながら放ったジャイロレーザーが見事に決まり、観客席から大歓声が沸き起こる。その威力を間近で見た伊武は一瞬の間言葉を失っていたようだったが、次の瞬間にやりと笑う。
「ふーん……君も結構やるじゃない。けど、まだ終わりじゃないよ」
 最終局面に突入し、両者の粘り合いはさらに激しさを増した。体力勝負となったこの試合、最後に笑ったのは海堂だった。伊武のロブを見切り、鋭いボレーを決める。
「Game set! Won by 青学・海堂7-5!」
 審判の声が長い試合の終了を告げる。疲れ切った海堂がコートに立ち尽くすと、仲間たちが一斉に駆け寄り、その体を支えた。
「やったぞ、俺たち! 優勝だぜ!」海堂の代わりとばかりに桃城が拳を突き上げて叫ぶと、青学ベンチは歓喜の声で溢れた。

 都大会優勝の瞬間。青学ベンチは歓喜の渦に包まれていた。仲間たちの笑顔や竜崎コーチの満足げな表情が、試合の厳しさを忘れさせてくれる。だが、その中で海堂の心には、これまでのさまざまな出来事が巡っていた。
 ふと思い出されるのは、かつて偽海堂として暴れていた山吹の坂井のことだ。彼は青学のレギュラージャージを着て、まるで自分の限界を超えたような力を発揮した。そして最終的には、自校のユニフォームを着ることで心を入れ替えた。
 次に浮かぶのは、今日の試合で驚異的な粘りを見せた荒井の姿だ。レギュラージャージを着ることを目標にし、それを掴み取った彼は、間違いなく以前より強くなっていた。荒井がジャージを手にした瞬間の表情を思い返すと、海堂の胸が熱くなった。
 そして、自分自身のことも思い出す。ジャージを着ないで勝った裕太との練習試合の時のように、海堂は常にレギュラージャージに頼らずとも、自らの実力を証明してきた。そのことには誇りを持っている。だが練習試合の後で、想像もしていなかったことに気づかされたのだ。自分が着るそのジャージは、仲間たちに勇気を与えていたのではないか、と。
「俺が着てるこれを見て、あいつらが頑張ろうと思ったなら、それも悪くねえよな……」海堂は試合中の仲間たちの顔を思い浮かべながら、静かに呟いた。
 レギュラージャージ。それはただの服でしかないはずだ。だが、その服には選手ひとりひとりの思いや努力、そして未来への希望が宿っている。海堂はそう確信した。
 ふと空を見上げる。青空が広がり、心地よい風が頬を撫でた。
 (ひとつの目標は果たせた。だが……俺たちの本当のゴールはここじゃねぇよな)海堂の視線は、もっと先にある目標の方へと向いていた。
 ここで優勝できたのは誇るべきことだが、これはまだまだ通過点に過ぎない。最大の目標は、来年の全国大会での連覇を果たすこと。そのためにも、もっと努力が必要だと海堂は強く感じていた。
「絶対に、あの舞台でもう一度勝ってみせる」
 海堂は拳を握りしめ、再び誓いを立てた。仲間たちがそのそばで騒ぐ声が聞こえる。その声に耳を傾けながら、彼はこれからの自分たちの未来を思い描いていた。


とりあえず、このシリーズはこれで完結です。作成中に気分転換で2作品くらい作ってしまいました(どういうこと?)。こちらの分もおいおい投稿していきたいと思いますので、気長にお待ちいただけましたらと。


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