高校教員が知っておくべき奨学金の話
親の社会経済的地位(Socio-Economic Status: SES)によって高校の生徒は輪切りにされています。低ランク校では親のSESが低いことが多く、経済的に厳しい家庭が多いのです。そのため、大学進学を目指す際にたびたび障壁となるのが金銭的負担です。
幸いなことに、今では経済的に厳しい家庭の学生が利用できる奨学金は幅広く提供されています。大学進学を希望する生徒の進路を狭めないためには、奨学金の利用を促す進路指導は一つの手です。ここでは、高校教員が知っておきべき奨学金について紹介します(情報は2024年9月現在)。
奨学金の種類は様々
様々な団体や自治体が奨学金制度を用意しています。奨学金には、受け取り方の違い(貸与・給付型)、職業の違い(看護学生向け、介護学生向け、保育士学生向け等)、児童養護施設生徒向け、など種類が様々です。生徒の置かれた状況によっては、有利な条件で借りることも可能です。詳しく見てみましょう。
日本学生支援機構の奨学金
日本学生支援機構は、大学、短大、専門学校に進学する生徒向けに奨学金の貸付や給付を行っています。また、今回は触れませんが海外留学時にも奨学金の貸与や給付も行っています。
給付型奨学金(返済不要)
家計の状況によっては、返済不要の奨学金(給付型奨学金)を受け取ることが可能です。その条件とは『住民税が非課税であること』が目安です。住民税の計算式は複雑なので目安を示すと、夫婦と子1人の3人世帯では年収221万円、夫婦と子2人の4人世帯では年収274万円です。また、給付型奨学金対象者は、進学先の大学等に申し込むことで、入学金や授業料の免除・減免を受けることも可能です。
貸与型奨学金(有利子、無利子)
利子の付かない第一種奨学金と、利子の付く第二種奨学金があります。第一種奨学金に申し込むには、(1)評定平均値が5段階評価で3.5以上、(2)家計の収入が基準以下、という条件があります。第二種奨学金に申し込むには、主に家計の収入が基準以下、という条件があります。
入学時特別増額貸与奨学金
第一種奨学金(無利子)または第二種奨学金(有利子)に加えて、入学時に一時金として増額して借りることのできる有利子の奨学金です。10万〜50万円の範囲で、初回に増額して振り込まれます。大学等の入学時には、何かとお金がかかります。授業料に当てたり足りない分を補ったりなどが目的です。ただし、この奨学金は第二種奨学金よりも高い利子をつけて返済する義務があります。その点は注意です。
併用
給付型奨学金と第一種奨学金、第一種奨学金と第二種奨学金など、複数の奨学金を併用して受け取ることも可能です。
将来目指す職業に応じた奨学金
特定の職業に付くために学校で学ぶ学生向けに、奨学金が用意されています。この奨学金は、卒業後指定された期間働くことで、返済免除が受けられることが特徴です。
看護師修学資金貸付事業
看護師養成施設で学んでいる学生が申し込むことができます。看護師免許取得後、該当地域で5年間継続して看護師として働けば、返済が免除されます。東京都、神奈川県、長野県、など都道府県の事業が多いです。
保育士修学資金貸付事業
保育士養成施設で学んでいる学生が申し込むことができます。保育士免許取得後、該当地域で5年間継続して保育士として働けば、返済が免除されます。東京都社会福祉協議会、神奈川県社会福祉協議会、長野県社会福祉事業団、など社会福祉法人の事業が多いです。
介護福祉士・社会福祉士修学資金貸付事業
介護福祉士等の養成施設で学んでいる学生が申し込むことができます。介護福祉士等の免許取得後、該当地域で5年間継続して介護福祉士・社会福祉士として働けば、返済が免除されます。東京都社会福祉協議会、神奈川県社会福祉協議会、長野県社会福祉事業団、など社会福祉法人の事業が多いです。
その他
その他にも、医療福祉系の職業に就くことを希望する学生向けには、返済免除のある奨学金制度があります。青森県慈恵会(看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等)、茨城県小山記念病院(言語聴覚士)、長野県浅間南麓こもろ医療センター(医師、看護師)など特定の病院で働くことで返済不要になります。
児童養護施設等の生徒向け奨学金
受験料等支援
日本学生支援機構は、児童養護施設等で育った高校生向けに、大学進学時の受験に要する諸費用の支援をしています。支援額は生徒一人あたり20万円で、給付型です(返済不要)。
大学等への進学には、受験時にもお金がかかります。アルバイト等で稼いだ進学費用だけでは到底足りないことが多いです。この給付金は、受験時の交通費、宿泊代、受験料などに充てることができます。残金は、その他進学に向けた準備に使用することができます。
その他
その他にも、返済義務のない給付型の奨学金を支給してくれる民間団体は多数あります。
地方創生を目指した奨学金返済支援
貸与型奨学金を借りて大学等を卒業した後には、返済が始まります。奨学金返済は若者の大きな負担となっています。その中で、地方に定着する若者を増やそうという国の後押しもあり、奨学金の返済支援を行う企業が出てきています。大学等卒業後にも、こういった支援があるのです。
まとめ
大学等に進学する際の奨学金について紹介しました。親が大卒か非大卒かによって、子どもの大学進学の割合は影響されています。高卒で働くことを否定するわけではありません。しかし、『学びたい』『目指したい専門職がある』など意欲的な生徒の家庭が経済的に厳しい場合、奨学金を活用することは進路を見出すことに繋がります。給付型や返済免除制度も広がっています。本記事が、将来を見据えた進路指導の参考になれば幸いです。
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